グリとグラ-1章-
私は、子供の頃から本を読むことが好きだった。私は高校を卒業後、保育士になるべく専門学校に通った。本心では絵本作家になりたかったが、私には絵本を作る才能が無かった。保育士免許を取得後、地元の保育園に就職した。最初は子供も可愛いかも、と思っていたが年数が経つにつれ小さいゴブリンに見えてきた。こいつらいつも言うこと聞かないし、すぐにケンカして知性ののかけらも感じない生き物だ。まぁ、私もこのぐらいの時はそうだったのかもしれないが…。ただ、そんなゴブリン達でも絵本の読み聞かせの時だけは静かになった。
「ひなせんせーい、早く本読んで下さ〜い」
女児が気怠そうに催促してくる。
この子は『矢田 あすか』 クラスの問題児の一人だ。私を敵対視しているのか何かといつもイチャモンをつけてくる。
「はいはい、じゃあ今日はこの本を読んでいきま〜す」
殺意を抑えて、絵本を読む準備を始める。
「みんなはこの本を知ってるかなー?」
私が園児に問いかける。
「グリとグラー!!」
園児が元気に答えてくれた。
そう、今日読む本はグリとグラだ。
皆さんはこの本をご存知だろうか。
簡単にあらすじを説明すると、2匹のネズミがカステラを作る話だ。
私も小さい頃この話が大好きでよく母に読み聞かせてもらった。
夜眠りに着くと、目の前に大きな卵があった。あたりを見回しても誰もいない。
「はぁ、またか。」とこぼした。
昔から度々本を読むと夢に出てくることがあるのだ。
しばらくすると眠りから覚めるので、しばらく近くにあった木に腰をかけて目が覚めるのを待つことにした。
体感1時間後…
夢が終わらない。
いつもならすぐに目が覚めるはず。
おかしい。
恐怖に駆られた私はあたりを散策することにした。
しばらく道を歩くと誰かが倒れているのを見つけた。
「大丈夫ですか。」と咄嗟に声をかけると、そこに倒れていたのはゴブリンだった。
「きゃあ!」と驚きのあまり叫んでしまった。
その声に反応してゴブリンが起きた。
「ここは…どこ?」
寝ぼけながらゴブリンは呟く。
「ひな先生?」
ゴブリンが私の名前を呼んだのだ。
確かに「ひな」は私の名前だ。
だが、私にはゴブリンの知り合いはいない。
日本語を話しているようなので、私は震えた声で問いかけた。
「あなたは私のことを知ってますか?」
「知ってるよ!だってひな先生は私達の先生だもん。」
私のことを「ひな先生」と呼ぶのは園の関係者か?
「すみません。私、頭が混乱しててあなたのことが分からないので、もし良かったら、名前を教えてもらっても良いですか。」
悲しそうに口を開くゴブリン。
「ひな先生ひどい。忘れちゃったの?私、あすかだよ。」
「あすかちゃん!?」
このゴブリンは、園の児童の一人だった。