#35 野蛮な狼
「……はァ」
目の前に現れた、狼男。あの薄汚れた服ではなく、何故か地味に似合っている執事服を着て、感動の再会を果たしている。最も、僕らはこんな嫌な再会をする予定はなかったのだけれど。
「誰?」
「僕らの旅仲間です。口の悪い、おばあさんの尻に敷かれるヘタレな狼。尻尾と耳が弱点。名前は知らない」
「……本当に仲間なんだよね?」
魔女さんは心底信じられないという顔をしながら、こちらを見てくる。
ただ、こちらだって、出会って二日三日しか経っていないし、狼男とは最低限の会話しかしていないのだ。名前を知らないのは許して欲しい。
後!これから知っていこうと思ってたんだ!本当に!
「う…はァ、はァ」
狼男がフラッと体を揺らしながら、こちらをしっかりと捉えた。コイツ、どう見ても様子がおかしい。
いつも変な掴みどころのないやつだが、今はなんというか、正気を保っていない感じだ。荒い息を続けて、言葉にならない声を出し続けている。口は開けたままで、涎を垂らし、まるで本物の狼男のようだった。
「は、はじめさん。コイツ、なんかおかしい───」
クラージュ君が言い終わる前。その前に、狼男が口をこれでもかと言うほど開けて、僕らの前まで飛んできた。そして、クラージュ君をドンッと強い力で押しのけ、動かない僕の前までくる。
クラージュ君の心配もしたいし、怪我は無いかとか、色々言いたいことはある。けど、今は無理だ。
狼男の拳が僕の頬とぶつかる。殴られたのだ。
想像以上の痛みと狼男の力の強さに、脳の処理が遅れたように思う。その間に、狼男は倒れ込んでいたクラージュ君に目をつけたようだ。クラージュ君とは違う、黄色の目が無慈悲にも細められた。
そう、笑っていたのだ。
「くひっ、はは…」
ダメだ。本能がそう言っていた。今の狼男は、俗に言うフィーバータイム。激強モードってことだ。背が高く、体は細いがあれだけの力で僕を殴れる。クラージュ君の相手なんて容易いものだろう。
痛む頬なんて気にせず、クラージュ君の元へ体を傾ける。
「クラージュ君ッ!」
この速さじゃ間に合わない。そう思った時、狼男の動きが止まった。いや、厳密に言うと何かに掴まれたというのが正しいだろう。見えない何かにもがき、体を自由にしようと暴れている。
「これが仲間って……はじめ君って猛獣使いか何かだったの?」
額から冷や汗を流して、魔女さんがこちらを見る。どうやら、魔女さんが魔法を使って狼男の動きを止めてくれたようだ。ヘンゼルとグレーテルはというと、森の隅っこで体を寄せあっていた。
この中で一番、賢明な判断だ。
「ウゥ……ガアッ」
クラージュ君が慌てた様子で僕のところに駆け寄ってくる。そして、腫れた頬を痛々しそうに見つめ、苦しそうな顔をする。自分が殴られた訳じゃないのに、本当にこの子はお人好しのようだ。
「はあ、とりあえずは、この野蛮な狼から話を聞きたいところだけどね」




