#32 執事服
狼男視点
「ふんふーん!私の執事、執事〜!」
結局、流れに身を任せたらこうなってしまった…。
嵐のような勢いで、オレは“ロン様”のお屋敷まで連れて行かれた。それは、街の奥に大きな存在感を放っているのにも関わらず、妙に目立つということはなかった。白をベースとした、ギラギラとした嫌な高級感はなく、金の装飾を散りばめた、落ち着いた外見だった。
流石、様とか言われるだけ金持ちなんだろうな。そんな皮肉を抱えながら、中に入ると、変に静まり返っていたのを覚えている。
は?他の使用人とかは?全員で旅行でもしてんのかよ。そう思ったが、これ以上隣の側近をイラつかせてもめんどくさい。とりあえず、相手が喋るまでは触れないでおくか、とツルツルとした床を歩く。
「よーし、じゃこの部屋で……これに着替えください!」
廊下に何個もある、同じようなドア。その内の一つのドアの前で、ロンは足を止めた。そして指を鳴らして、いかにも執事という雰囲気の服を広げてから、オレに押し付けてくる。
正直、締め付けられるような服は大っ嫌いだし、着たくないのが本音だ。ただ、断ると側近がうるせぇし、ロンも騒ぐこと間違いなし。
引き攣る頬を無理やり引き伸ばし、「じゃー、ちょっと着てこよっかなぁ……」とそーっと後ろ歩きで部屋まで入る。
部屋の中は特に特別なものは何もない。申し訳程度のランプに、壁に飾られている、謎の絵画。変に色のない部屋だった。だからか、灰色のオレが浮いて見えた。白い紙に黒い絵の具を垂らすのと同じだ。
そんなことを考えていると、腕の中に雑に畳まれた服に目がいった。
「しょうがねぇ…。着替えるか」
「んぐ……くそっ、着れねぇ…」
一つずつズレているボタン。ぐちゃぐちゃのネクタイ。どこに付けるのかも分からない細々とした装飾品。慣れないながらも頑張って着ようとするが、無駄に終わる。
何分か格闘した末、とうとうオレの堪忍袋の緒が切れた。
「やってられっかこんなもんッ!」
バシッと音を立てて床に投げつけたネクタイ。なんで付けるかもわかんない手袋を付けて、オレは一体何をしていたんだか…。と冷静になり始めた。
あのガキたちからやっと逃げられたってのに、また自分から捕まりに行くようなことして…。
やめだやめ、オレはオレの為だけに生きる。こんなの、何にも自分のためにならねぇ。
あのロンの野郎にも別れを告げて、こんなお屋敷とはおさらばだ。そう思い、バッと後ろを向くと、いつの間にかいた、ニヤニヤとした顔のロン。嫌な予感が……。
そう思った時には遅く、床に落ちたネクタイや上着を拾い、オレの着ている身ぐるみを剥がそうとしてきた。
「着れなかったならそう言ってくれれば良かったのにぃ!」
「ちょ、ま、マジで、マジで!やめろってお前ぇ!」




