#31 魔女たちの最後
〝ねぇ、山奥に住んでる魔女の噂……聞いたことある?〟
ヒソヒソと誰かがつぶやく。
〝私はお菓子の家には魔女が住んでるって聞いたわ!そして、そのお菓子の家を食べちゃうと、魔女が怒って、その食べた人を逆に食べちゃうんだって〟
確かに、そんなパラレルワールドもあったのかもしれない。でも、どれも根も葉もない噂話に過ぎなかった。
私、エディ・フレイムと妹のロン・フレイムは可もなく不可もなく、特別仲がいいわけでもなかった。妹のロンには魔法の才能があったが、私はお菓子くらいしか作れない。でも、魔法が使えて凄いな、と思うことは少なからずあれど、いいなと思ったことは無かった。だって、魔法が使えなくたって、私は私だ。妹が大いに出来ることが、姉の私に出来なくても、それは恥じることではない。
ただ、そんな日常の終わりは、呆気なく訪れた。
「姉さん、私ね、普通の暮らしがしてみたい。普通に学校に行って、好きな人を作って、結婚して、あわよくば子供を授かって…。そんな普通を感じでみたいの!」
妹がちょうど、15歳くらいの頃だった。普通を求めだしたのは。
妹が魔法の使える変異体だと街から追い出され、早10年。着々と魔法の腕を磨いて、一体何をしようとしているのか気になっていたら、これだ。
私は頭を抱えた。普通の暮らしをしてみたい?結婚?異性と関わることなんて父親以外なかっただろう。それなのに、恋?正直、馬鹿げていると思った。
「ロン、でも普通を求めてどこに行く気?私たち、何年も森から出てなくて、外の世界を知らないのよ。今更出たって……」
「はあ、姉さんは本当にネガティブなんだから。別に姉さんに止められたって、諦める気はないから。姉さんも精々するでしょ?邪魔者の私がいなくなって」
少し止めようとしただけで、この返答。ロンからしたら、止められるのは地雷なようだ。ロンに対して、“邪魔者”とは思ったことがなかったが、そう伝わってしまっていたのなら、私が何を言っても言い訳として捉えられてしまうだろう。
「……姉さんも、勝手に出ていったら?私が居なくなれば、姉さんがここにいる理由も無くなるでしょ」
「…ロン?」
ガタッと椅子を引いて部屋から出ていくロンの背中を意味もなく見つめ、少しの間考えていた。
一体、ロンは何を知っているの?先程の発言といい、私の知らない何かを知っている。私がここに縛られている理由とは?
結局、元から仲がいい訳ではなかった私たちは、それから特に話すことも無かった。
私が一方的にロンが出ていく日に「いってらっしゃい」と声をかけたのが、私とロンの最後の会話だった。
━━━━ロンが何かを言いたげだったのを、私は今でも覚えている。




