#30 三つの分かれ道
ヤンキー赤ずきんさんサイド
「……あ?ここは…」
目を開けると薄暗い牢屋……という訳ではなく、変にピカピカとした部屋に、俺は手錠を付けられて座っていた。
周りを見渡すと、普通に窓もあるし、ドアも目の前にある。けど、流石に鍵はかけられているようで、ガチャガチャとしたが開かなかった。
俺の記憶が正しければ、ここに来る前はあのちびヤギを逃がすために、囮になって捕まったはずだ。ヤギの奴が捕まらずに逃げられたかも気になるが、今はそれ以上に自分の置かれている状況に危機感を持った方が良さそうだ。
「にしても、ここからの脱出方法が分からない限り、俺にできることは何も……」
そう呟いた途端、どこからともなくガガガ…と機械的な音が聞こえ、振り向く。
勢いよく振り向いたオレは目を見開いた。
だって、そこに居たのは──────
「ハァイ!どーもこんにちワ。ワタクシ、ここの機械系全般を確認する係を請け負っております。名前を、〝メイベル〟と申します!以後、お見知り置きを」
顔が豆電球になっている、人間では無いナニカが、そこにはいた。
狼男サイド
「やってられっかこんなもんッ!」
バシッと音を立てて床に落とした、生涯付けたこともなかったネクタイ。服は着たことも無いタキシードのようなもの。手には白い手袋…。
なんでオレがそんな格好してるかって?それは、数時間前に遡る。
「うっひょー!美味そうな飯に、高値で売れそうな高級品…!あのガキといい赤ずきんといい、オレを舐めすぎなんだよ。一緒に旅をしよう?ああ、勿論、その場のノリで承諾はしたさ。でも、それはただの口約束。約束するのだって簡単だが、破るのだって簡単だ。まあ、傍から旅なんていうごっこ遊びに付き合うつもりもなかったがな!」
誰にも手網を握られず、自由にいれる時間は本当に久しぶりで、自問自答をしてしまうほどにオレは浮かれていた。
そう、前を見ずにスキップしてしまうほどには。
「いてっ」
「おい、お前。我らが自慢の魔法使いである〝ロン様〟の前を横切っただけでなく、側近である我らにぶつかっただと……?ふん、その貧相な見た目といい、この街の人間では無いだろう。けれど!この街の人間では無いからと言って、この街のルールに背いていい訳では無い。お前の今の行動は罪に問われて当然のことだが、理解はあるだろうな?」
思った以上にご立腹らしい側近の方々は、ケロッとした顔でヘラヘラと話を聞いているオレが、それはそれは気に食わないらしい。
胸ぐらを掴まれているのに周りを舞っていた蝶々を見ていたら、そりゃイラつくか。
そんなこんなで、後ろにたっている胡散臭い魔法使いを置いて、どんどん話を進めていく。〝死刑〟にするだの、〝この場で処刑〟だの、周りにいる子供に目がいって居ないのだろうな、という発言を繰り返す。
「あ…へへ、すいません!なにせ、ここに来て一時間も経ってないものですから、そのぉ……ロン様?とかいう人も知らなくてですね……」
これまでも数々の山場を乗り越えてきた作り笑顔で、敵では無いことを証明して、良い人のふりをする。
あ、もちろん心の中では「なんだこのハゲ、手ぇ離せよ」とか思ってんだけど、そんなこと口が滑っても言えないもんな。
「まあ、いいじゃない、許してあげましょうよ。私を知らないなんてどれだけ馬鹿で可哀想な奴かと思ったけど、案外顔は良いみたいだし……」
オレとハゲの会話に口を挟んだのは、後ろに突っ立ってた胡散臭い魔法使いだった。舌なめずりするようにオレをつま先から見渡したと思ったら、気持ち悪いことを言ってくる。
この街には変なやつしかいないのかよ……。
「よし!決めたわ。あなた、私の執事にならない?」
「は?」
唐突な思いもしなかった言葉に、オレは思わず声を洩らす。執事って、あのえらい奴の世話するやつだろ?オレ絶対無理なんだが…。
「そうと決まれば早速お屋敷にゴー!」
「ちょ、お前マジでなんなんだよ!」
はじめサイド
「その、赤ずきんさん?が連れていかれたかもしれない所……。私、一つだけ心当たりがあるの」
僕らのやらなきないけない事がまとまったところで、魔女さんが口を開いた。心当たりがあると言ったが、それは一体何処なのだろう。とりあえず着いてきてと言うので、僕らは疑問を抱えながら歩き始める。
魔女さんはさっき街を歩いていた時とは違い、後ろを着いてきている僕らの方を向こうとはしなかった。自分の記憶を辿って、目の前を向いたまま、迷いなく歩き続けている。足を止めることもしないし、必要以上に話そうともしない。
ただ、微かに震え続けている、黒い手袋を付けた左腕を掴んでいた。
「魔女さん、その心当たりの場所って?」
とりあえず着いてきてとは言われたが、気になるものは気になってしまう。そんな僕以外の人達の気持ちも察したのか、魔女さんはふと足を止めて、こちらは向かずに、一言だけ言った。
「私の、妹のお屋敷」
僕らを誘うように、大きな風が吹いた。
メリークリスマス!




