#21 進む方角
「歩くって言っても、もう道しるべのパンは鳥に食べられちゃったじゃない!どれもこれも…、パンをチョイスしたヘンゼルのせいよ!」
「はあ?お前なぁ、その何でもかんでも人のせいにする性格直せよ!」
キャンキャンと子犬のように吠える二人。僕と会う前も言い合いをしていたようだし、二人は仲良くないのかもしれない。
まあ、僕も弟がいるから分かるが、兄弟というのは何かとイラつくものだ。なにか言えば反論が帰ってくるか、無視かのどっちか。
だから、二人の気持ちがわからない訳でもないが、流石にヒートアップし過ぎだ。そんな状況に気まづくなった僕は、そっと話しかける。
「……あのぉ」
『あっ』
「忘れてたよね、完全に」
二人の息ぴったりの反応に、ガクッと肩を落とす。
そんなに僕は存在感を薄いのか…。それも、沢山人数がいる訳じゃない。自分含め三人だぞ!?なのに気づかれないなんて、逆に気づかないようにしてるのでは?と考えてしまう。
「まあ、喧嘩してても状況は変わらないし、この森から出る為に行く方向を決めよう」
この物語の内容を知ってるからと言って、お菓子の家がどこにあるのかも、森の出口はどこなのかも分からない。だから、ここは運に任せて、東西南北どこへ行くか決めるんだ。
『せーの!』
バッと指さした方角は、ヘンゼルが南、グレーテルが北、僕が西だ。見事に別れたこの状況、どうしよう……。
「南とかセンスないわね!ここは北よ!」
「はあ?」
また喧嘩が始まりそうな予感…。というか、この二人の喧嘩はグレーテルから突っかかって始まるようだ。
毎度、なにかしらヘンゼルが怒りそうなことを言って、それにまんまとヘンゼルが引っかかる。
「よし、じゃあじゃんけん!もうそれしかない!」
少し強引だったが、じゃなきゃこの二人は永遠と喧嘩を続けるだろう。
渋々と言った様子で、じゃんけんをし始めた二人を横目で見ながら、僕はこの世界の事を少し考える。
欠片に触れたら、その欠片に相応しい世界に飛ばされる。そして、その世界は僕の生きていた世界で知らない人がいないと言うほど有名なグリム童話の世界。
「考えれば考えるほど、分からなく……」
「しゃっ!勝った!」
ヘンゼルの元気な声が聞こえ、じゃんけんの勝負がついたことを知る。
負けた事を凄く悔しんでいるグレーテルがポカポカヘンゼルを殴っていて、じゃんけん一つでこんなに熱くなれるなんて、なんだか凄いなと煽り煽られている二人を隣に思う。
「よーし!じゃあ、〝俺が〟勝ったから、南へ向かって一直線だ!」
僕らはその時まで知らなかった。この方角がお菓子の家に繋がる道だったことも、魔女が━━━━━
だったことも。




