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昨日はたくさんのご閲覧ありがとうございました!

おかげさまで「注目度ランキング4位」に入っていて、PVも爆増していて驚いています…!

どこかで紹介してくださった方がいらっしゃるのでしょうか…?感謝の気持ちでいっぱいです。

誤字脱字のご指摘、感想もありがとうございます。今日も楽しんでいただけたら嬉しいです。

 コンコルドは、首都と港町エストリアを結ぶ交易路の要衝として発展した宿場町だ。

 エストリアまでは徒歩でも一日ほどの距離になる。

 首都へ向かうための要衝として、宿場町だけでなく防衛拠点としての役割も担っており、騎士団の詰所も町内に複数存在する。

 また、防衛という観点から町の周囲を石造りの防壁がぐるりと取り囲む形に作られている。

 平時のコンコルドは、人口おおよそ3000人の町だ。

 おもな産業は、行商人たちのための宿泊施設の営業で、それに付随する飲食店や歓楽街も存在する。首都では許されないようなきわどい店も裏道に行けばひっそりと存在するそうだ。

 他にも町周辺では大規模な放牧が行われており、羊毛を用いた生産物や、牛乳やチーズなども名産品として知られている。

 また荷馬車を修復する技師や、様々な用途に応じた馬の売買も盛んで、町の中へ一歩踏み込めばどこにいても馬のいななきが聞こえてくるほどだった。


 首都で暮らす貴族たちからは『コンコルドの町は品がなく臭い』と言われている。

 城塞都市として塀で囲まれているため、町の内部はかなり窮屈な造りになっているのだ。建物は密集して建てられ、表通り以外は細い道が入り組んでしまっている。その表通りはとにかくいつも馬だらけなのでそれだけでも大分臭うのだ。

 加えてコンコルドでは魚を塩漬けにする産業も栄えているためにそれもなかなかに臭う。この町の東側からは強い海風が吹き付けてくるため、塩漬けや天日干しに最適なのだ。


 ──そして現在。

 コンコルドの町はいつにもまして混乱の最中にあった。

 港町エストリアから逃れてきた人の中には首都に向かわずにコンコルドで留まっている者もいる。一度、首都まで逃れたものの、門が閉ざされていた事でコンコルドへ引き返した者も多くいた。

 さらに防衛のためにと各所から集まってきた騎士団、魔塔からやってきた魔術師や錬金術師、金の匂いを嗅ぎつけた傭兵などが集まっており、人口は平時の2倍ちかくに膨れ上がっている。

 騎士団が多く在中していることにより大きな揉めごとは起こっていないものの、町の空気は、極めて不穏だった。

 表通りでは足止めを食らった商人がなんとか品物を売り払おうと声をあげ、傭兵たちは国境を超えるルートを目指す難民たちに護衛の仕事を売り込んでいる。


 騎士の詰所は平時では100人ほどの騎士が常駐しているが、今はその10倍近くの騎士が集まっているために、部屋が足らなくなっていた。

 詰所に入りきらない騎士たちは、かろうじて騎士団の管理下にある広場で野営していた。

 怪我人の治癒にも手が回らず、負傷したままの騎士たちが天幕の中でうめき声をあげている。

 

 ミディア達はコンコルドの町まで転移魔法で移動してきた。

 騎士団の詰所に常駐していた魔術師が転移門の魔法陣を描き、そこに転移してきたのだ。

 移動してすぐに感じたのはざわめきだった。

 コンコルドの町そのものが首都よりはるかに小さく、その中に沢山の人が集まっている。それだけでも十分に騒がしいところに輪をかけて、たびたび襲来するモンスターが混乱を引き起こしているのだ。

 怒号、馬のいななき、鎧のぶつかりあう金属音、様々な音が一斉に押し寄せてくる。

 町は今にでもパニックが起こりそうなほどの緊張状態のようだった。


 「よく来てくれたミディア嬢」


 転移門の描かれた部屋を出るとミディアを出迎えたのはアレクシアだった。

 ここに来ればいずれ出会うことになるとは思っていた。

 だがまさかこんなに早く会うことは想像しておらず、ミディアは挨拶も出来ずに固まった。

 そんなミディアにアレクシアは眉を落とすと、部下に「しばし外を見回ってくる」と告げミディアについてくるように促した。

 ミディアは神妙な顔で頷くとアレクシアの後に続いて歩き出す。

 詰所から一歩出ると喧噪はますます大きくなった。食料や保護を求めて詰所に押しかける市民と、それを宥める騎士たち。

 暴動が起こりかねない状況に、詰所のまわりは、まるでそこが戦場であるかのような緊張感に満ちている。

 アレクシアは慌ただしく行きかう騎士たちの間をすり抜けると防壁の上へと向かう石段を登っていく。

 階段を登り切り防壁の上に出るころには喧噪は少しばかり遠いものになっていた。


 「そんな顔をしてくれるな。ディアドラの事で貴女を責めるつもりは毛頭ないさ」


 振り返ったアレクシアは流石に疲れが見えるものの、言葉通り憎しみのない穏やかな目をしていた。

 駆け抜ける風がアレクシアの金髪をたなびかせる。


 防壁の向こうには、海へと続くなだらかな丘陵地帯が広がっている。

 常であれば放牧されている羊や山羊が多くみられるであろう景色だが、今はもっと北部へと避難したのだろう。大地はモンスターの襲撃によりところどころ抉れ、草原には燃えたあとが残っている。

 流れる風には、魔瘴の腐敗臭に、火薬の匂いが混ざっていた。

 防壁の他にも木材をつかって急遽作られたバリケードが幾重にも連なっており、そこに重なりあって倒れているモンスターの死骸も目に入る。

 そしてさらにその先には──。

 どす黒く蠢く巨大魔瘴が、“形ある絶望”として、そこに圧倒的な存在感を放っていた。


 「ディアドラは奴隷の出身だ。彼女から聞いているか?」

 「いえ……」


 ミディアは首を振った。


 「あいつはこの町にある娼館よりももっと酷い場所にいたのさ。

 我が父、ヴェルドレッドが摘発した際に解放したそうだ。

 当時、我らほどの年齢であったディアドラは喋ることも出来ぬほどに心身が疲弊しきっていた。故にゴッドウィン家で彼女を預かり、そしてやがて彼女は騎士団へ入った」

 「そんな、ことが……」

 

 ミディアの中にあるディアドラは明るく屈託なく笑う人で、暗い過去などまったく感じさせる事はなかった。


 「騎士団に入って、仲間を得て、少しずつ彼女は変わっていった。一方で自らを顧みない危険な任務を受ける事が多く、父は随分と心配していたそうだ。

 何故そんなに必死なのかと尋ねると、ディアドラはこう言ったそうだ。

 自分の目指す騎士像に少しでも近づきたい、とな。

 それは過去の自分と最も遠い存在であり、過去を消し去るために必要なことだった」

 「過去と決別するために、……」

 「そうだ。ディアドラは騎士になることに焦がれていた。それは騎士という身分ではなくもっと抽象的なものだった」

 「抽象的な、騎士像、……」


 ミディアが反芻すると、アレクシアは力強くうなずいた。


 「ああ。だからこそ、ミディア嬢、私は断言しよう。

 ──彼女は、幸福を得たのだ。

 魔術師である貴女には理解しがたいかもしれないが、騎士にとって”命を賭けたいと思える相手”に出会えることは至上の喜びなのだ。

 ディアドラは最後の瞬間、自らが望む真の騎士になれたのだと実感したことだろう」

 「そ、そんな、……」


 喉元にぐっと熱い感情がこみあげる。歯を食いしばっても、瞳に浮かぶ涙は堪えきれなかった。大粒の涙がぽろりっと頬を伝い落ちる。


 「わ、分からない、分からないです、そんな、わ、私は、彼女の誇りになれるような、……」

 「ミディア嬢、貴女がディアドラを思うならば胸をはれ」

 「……ぅ、……、……」

 「……すまない。つい同僚に発破をかけるような口調になってしまったな。

 だがな、ミディア嬢、貴女は実際にこの状況までたどり着いたのだ。

 教会と魔塔、それに秘術機関までをまとめあげ魔瘴に対抗するための手段を得た。それでもまだ足りぬというならば、少々高望みが過ぎるのではないか?」

 「実感が、わかなくて、それに、あの時はまだ、何も出来ていなかったし」

 「──だが信じていた」


 アレクシアのまっすぐな瞳には揺るぎない光が宿っている。


 「ディアドラだけではない。私もリリアナ嬢も、鷹巣砦で貴女に奇跡を見せたエレナローズも。

 貴女に希望を見出した。そして貴女は見事応えたのだ。

 だから……、胸をはってくれ。

 これは”友”としての願いだ。貴女が俯くことはない」


 うううう、と唸りながらミディアは、唇をきつく噛みしめた。

 今、胸にあるのは悲しみだけではなかった。

 アレクシアが友として慰めてくれることに、その傍らに立つことを認めてくれている事に、感情が打ち震えて止まらない。


 「わ゛、わかり、まぢ、たぁああああああ゛、わ、わた、し、ちゃ、ちゃんと、前をむい、て、……」


 自分でも酷い顔をしている自覚は大いにあった。

 でも涙が止まらないし、俯かずにいるものだから、情けなく鼻水まで溢れてしまっているのがバレバレだ。


 「……まったく、寝起きのホブゴブリンよりひどい顔をしているぞ」


 アレクシアは呆れながらもよしよしと頭を撫でてくれる。


 「ふえぇええええ、しらにゃい、しらないれすぅ、寝起きの、ホブゴブリンなんて、見たことない、で、す゛ぅううう」


 ますます顔をぐちゃぐちゃにして泣くミディアにアレクシアは呆れた顔をする。

 だが、そっと頭を撫でる手は優し気だ。

 ミディアはまるで幼い子供のように声をあげて泣きじゃくり、アレクシアはそんなミディアを優しく慰め続けていた。




 ***



 

 「……大丈夫か? 我が妹に虐められたのか?」


 詰所に戻って真っ先に声をかけてきたのはアレクシアの兄であるアレクシスだった。

 そう言われるのも無理はない。泣きまくったせいで瞼は腫れていたし、未だにスンスンと鼻をすすってしまっている。


 「だ、だいじょうぶ、です。あ、アレクシス殿もこちらにいらっしゃっていたんですね。北部の守りは大丈夫なのですか?」


 ミディアが聞いたところでは、二人の父であるヴェルドレッドも最前線にいるそうだ。

 となれば、ゴッドウィン家が治める北部領地の戦力が手薄になっていることになる。


 「ああ、問題ない。しばしの間はコボルト族からの襲来はないだろうからな」

 「そ、そうなんですか?」

 「ああ。現在、魔瘴で村を失ったマヌマム族は我らが領地に身を寄せている。そのマヌマム族の巫女・クニャン殿が、グエムス族との仲立ちをしてくれているのだ。

 この関係が崩れぬ限り、グエムス族が攻め入ってくる事はないだろう。

 ──友好関係というには程遠いが、絶え間なく争うという関係は改善されたといったところだ」

 「それは、良かったです」


 クニャンが頑張っているらしき事を聞くとミディアも何だか嬉しくなる。


 「ええと、北部がひとまず安定しているとして、アレクシス殿もアレクシア嬢もコンコルドに留まっているのは何か問題があったからなのでしょうか?」


 ミディアが問いかけると兄妹は顔を見合わせ溜息をついた。僅かなアイコンタクトの後に口を開いたのはアレクシスだ。


 「その通りだよ。見ての通りこの町はパニック寸前の状態にある。町のあちこちで諍いが起こり、いつそれが大規模なものに発展するかも分からない状況だ。

 町を補給線として頼っている以上、この場の治安維持も優先する必要がある」

 「そ、その、町の方々が荒れているのはモンスターの襲撃があるからでしょうか」

 「もちろんそれもある。ただ、それ以上に彼らを不安にさせているのは、たとえモンスターの襲撃から生き延びたとして、今後の生活をどうやって成り立たせていくかの目途がついていない事だ。

 ここにはエストリアからの難民が多くいる。彼らは帰るべき家を失った。またコンコルドの民もエストリアとの交易拠点として成長をとげてきた。

 エストリアが崩壊した今、コンコルドも打撃を受けざるを得ない。下手をすれば、共倒れになる可能性すらある」

 「な、なるほど。……ええと、その、それが不安の原因であるならば、解決できるかと思います」

 「なんだと?」


 兄妹が身を乗り出すのに、ミディアは思わず一歩下がる。


 「え、ええと、その、つまりエストリアの難民とコンコルドの住人の双方が今後の見通しを立てられればいいという事ですよね」

 「ああ、その通りだが、……」

 「はい、でしたら問題ありません。王命により、エストリアはゼファン子爵家へ割譲されることとなりました」

 「……ゼファン、子爵家? 男爵家から昇格したのか?」


 ゴッドウィン兄妹が知らなかったのは無理はない。

 最前線の町であるため情報の伝達が行き違うこともあるだろうし、そもそもゼファン家が子爵となったのは──まさに、今日のことなのだ。


 「せ、説明いたしますね。王家はこたびの魔瘴発生により首都近辺に集まって来たエストリアの難民たちへの対応に苦慮しておりました。

 本来ならばエストリアの領主であったドリスティオール家が責任を持って民の面倒を見るべきです。

 しかしご存じの通りドリスティオール家は魔瘴発生時にできた陥没穴により崩壊。現当主だったベアトリス夫人の生存も絶望的と言える状況です」


 ミディアはベアトリス夫人が選んだ道を知っている。

 だが、最後を目撃してはいないため結局どうなったのかは分からない。ただ、あの場でもし死を思いとどまっていたとしても、あの大崩壊から生き延びた可能性は極めて低いと言えるだろう。

 数少ない生き残りであるミディアおよび神殿騎士のフレイからもベアトリス夫人の生存は絶望的であると報告した。


 「よって、まずはドリスティオール家の親族へ話がもたらされたのですが、生き残っているのはマティス卿の一件から本家を離れた者たちばかり。難民の管理に名乗りを上げる者などいなかったようで、他の有力貴族たちもまた同じ状況でした」


 漏れ聞こえた話では、実情はもっと酷い有様であったらしい。

 口さがない貴族の中には、エストリアの民など、魔瘴とともに死に絶えていてくれれば良かったのに、と公然と口にする者までいたという。


 「……と言いますか、そもそも難民たちをゼファン家以外が統率するのは不可能といえる状態でした。

 ゼファン家が私財を投げうって簡易的ながら衣食住を整えていることで、かろうじて暴動を起こさずに済んでいたからです。もはや、難民たちが耳を傾ける相手といえばゼファン家しかありません」

 「ふむ、そうだろうな」

 「そこで第三王女モレアンキント様が国王に『ゼファン家を子爵に昇叙させエストリアの領主とし、難民の管理を一任させてはいかがか』と進言なさったのです」


 ミディアはモレアンキントにゼファン家をねぎらって欲しいとお願いしていたが、予想以上に早い動きにはさすがに驚かされた。


 「王は進言を受け入れ、エストリアはゼファン子爵家の領土となったのです」

 「そこまでは理解した。だがそれと難民の生活とどう関係する? ゼファン家がいくら商人として財を築いていようとも、流石に難民すべてを受け入れ、エストリアを復興するのは難しいのではないか?」

 「はい。他の有力貴族たちがこぞって領主を辞退したのもそれが原因でしょう。ゼファン家も流石に返答を保留していました。

 ですが、私はこの話を聞いた時にとっておきの秘策を思いつきまして、ゼファン家当主のアキサメ殿に会いに行ったのです。その際に、コルテア卿とエーテル学者のアジャータル殿にも同行頂きました」


 ゴッドウィン兄妹は先を促すように頷いた。


 「魔瘴のサイズを特定する時の方法としても説明したのですが、魔瘴が発生した土地には特殊な鉱物が生成されます。

 カルカディア鉱石です。

 カルカディア鉱石の主な使い道は武具などのエンチャントの土台です。性質としては魔石によく似ていますが、それよりも精度が高いものだと考えて貰って問題ないです。

 このカルカディア鉱石がエンチャントの土台としてしか流通していないのは、採掘量が少ないことに由来します。

 つまり──、”非常に高価”なものなんです」

 「……魔瘴を排除すれば、エストリアはカルカディア鉱石の採掘場になる、ということか?」


 かつて巨大魔瘴の発生により滅亡した灰燼都市エジスーラでも数多くのカルカディア鉱石が発見されたと言われている。

 城の内部では見上げるほどの大きさの鉱石がごろごろ転がっており、一攫千金を夢見た者たちが幾度となく内部へ踏み込んだ。

 しかしエジスーラは未だに多くの魔物が跋扈する魔窟であり、生きて帰って来れた者はほとんどいない。

 今回、エジスーラと同等級の魔瘴が発生したエストリアでも同じことが起こるとみていいだろう。


 「そうです。アジャータル殿にその仕組みを説明して頂いた上で、コルテア卿からカルカディア鉱石の採掘場の建造に際しての業務提携を提案していただいたんです。

 ゼファン家だけでは鉱山やその運営、鉱夫たちの管理や住居の提供など全て賄うのは大変です。ですがコルテア卿は財力だけでなく鉱山運営のノウハウも持っておいでです。

 またアジャータル殿を通してシルクザイア王国からも技術顧問を雇い入れる事によって国家同士の軋轢も防げるよう手配を進める予定です。

 ゼファン家当主アキサメ殿はこれらの業務提携に合意し、エストリアの領主として就任することを承諾しました」


 ミディアはここで一息ついた。


 「まとめますと、エストリアは今後、金の卵になります。

 ゼファン家とコルテア卿が提携し鉱山を運営、そこで得た資金により港町も復興するでしょう。

 復興までの間は町や鉱山の建設に関わる労働力も必要となります。カルカディア鉱石の採掘は一定年数で打ち止めになるでしょうが、それまでには町の復興も間に合います。

 つまり、働き口からその後の生活までほとんど心配する必要はありません!」


 ゴッドウィン兄妹はまるで狐につままれたような顔をした後に、ぱちぱちと手を叩いた。


 「いや、これはこれは、ミディア嬢には毎回驚かせられる。そこまでの話を聖院大評定と魔塔での会議の間にまとめてきたというのか?」

 「い、いえ、これは材料が出そろっていた事だったので……」

 「目の前にどんなに材料が揃っていようが何も生み出せないものは多くいるのだ。

 ……さて、だとすれば今の話をコンコルドの者たちに伝える必要があるな。今後の不安がなくなれば魔瘴の封印という目的のために一丸となって動けるだろう」

 「で、では、コルテア卿に説明いただくのはいかがでしょうか? コルテア卿はコンコルドに来ていると聞いています。あの方の言葉でしたら信用に足るでしょう」

 「そう出来るのであれば最善だろう。すまないがミディア嬢、コルテア卿に話をつけて貰えないか?」

 「はい! もちろんです!」


 ミディアは笑顔で頷いた。出来ることがあるのは幸せだ。

 その後すぐにコルテア卿の元を訪ね現状を説明すれば、卿は喜んで演説の依頼を受け入れた。

 コルテア卿は顔が広い。

 ラシャド王国に古くからある名門家であり、秘術機関のトップともなるのだ。商人や貴族のほとんどがその顔と名前を知っていることだろう。

 かくしてコンコルドの中央広場で行われたコルテア卿の演説により、市民たちが暴動を起こす心配はなくなった。

 広場には安堵の空気が満ち、顔をこわばらせていた人々の間にも笑顔が戻る。

 一部の市民たちは自発的に騎士の詰所へ薬草や食糧を届けに訪れ、町はようやく同じ方向を向いて動き始めていた。

 騎士団は後方を気にすることなく、存分に力をふるうことが出来るようになったのだ。

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