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Ⅱ-22 進む道の先 1


────これでもう何度目だろう。


足に出来た肉刺は嫌になるくらい出来ては潰れ、出来てはつぶれている。

普通の靴擦れなら靴に慣れたらできなくなるんだろう。

でも今回は普通じゃない。

何もかもが、‘今までの普通”ではあり得ないのだから。



借りている長靴は男物だ。


当然サイズが違う。

大きさをあわせるためにつま先と踵に、クッション製を求めて靴底に布を詰め、なおかつ足が痛くなるとほぐした綿を敷きこんだ。

足を止める度に潰れた肉刺に軟膏を塗り、その場限りの対症療法をしていたけれど、効果は今のところ発揮されているとは言いがたい。何もしないよりはましな程度だ。

硬く重い靴に歩きなれない道に、運動から遠のいていた身体。

筋肉痛はずっとしている。

だんだん麻痺してはきているようだけど。


こんな毎日が続けば弛み始めていた身体も、さぞかし鍛えられ引き締まることだろう。

身体の悲鳴にむなしいと分かっていながら、状況にそぐわない一縷の希望を抱く。

きっと、引き締まる前に肉離れやどこぞを傷めるのがオチなんだと分かってはいても。

・・・・25を超えた身体を舐めてはいけない。



短い休みは思ったよりも休めたけれど、足は痛いまんまだ。

ラウール特製の痛み止めを飲んで、肩の痛みは取れたのに、踵の痛みは取れない。不思議なことに。

歩くたびに擦れて痛むけれど表情には出さない。意地でも見せない。

こんな小さな傷を大げさにしたくはないし、足手まといにもなりたくない。

弱い自分を見せたくない見せられない。



徐々に街道に近づいているため、ほぼ平坦、なだらかな道が続いている。

前後左右周囲の騎士たちの表情はどこか明るい。

今まではなんだか声をかけづらかった騎士も例に漏れず。

はっきり微笑んでいるというんじゃない。

話す話題が明るいとか、そう状態に見えるわけでもない。

ただ、なんとなく張り詰めた緊張感、疲れから来る表情の険しさなんかが無くなったように感じるのだ。


それはあの蝶を見つけてから。


思いがけない行幸が、精神や肉体に与える影響というものを考えさせられる。

きっと彼らにとっては奇跡的な出来事だったのだと。

殺伐とした状況の中での希望の光なんだと。


何も分からない私にも分かるくらいに。





***





何度か休憩を挟み、二日をかけて一行は目的とする地へ到着した。


やっと見えた地は街?町?村?どう表現して良いのかは分からないが、元は大きな木だったんだろうと推測できる太い幹を入り口の両側に立て、見張りの櫓が左右に二つ。

両側の幹には今は開け放たれているが頑丈そうな門扉が固定されている。

そこに二人ずつ帯剣した兵士が立っていて、中に入ろうとする人々を見つめている。



到着した地に足を踏み入れたのはラウールを含めた5人。

見張りの兵は通過する一人一人を確かめたり、探っている様子は無い。

にこやかに挨拶をする者もいるくらいだ。


だが用心に用心を重ね、少しの危険も無いように、5人の中には殿下もフォルも含まれず、関所の外で待機することになった。

比較的歳のいった(それでも40台半ばだと思う)バルデス、人を喰ったような半笑いを浮かべるニルス、話しかけると嫌そうな顔をするベルジュ、表情のあまり変わらないゲオルグ、そしてラウール。


5人の役どころはお偉いさんの親子とその護衛だそうで、護衛の三人はともかく、バルデスとラウールの親子説は無理があるんじゃないかと思った。

だってラウールは30代になるかならないかで、40半ばのバルデスのいったい幾つの時の子供なんだか。


──────そもそも全く似てないよ・・・。


と、ローディアスに言ったら笑われた。

横にいるセディオンも、顔を背けているけれど肩が震えていてはバレバレだ。

見かねたフォルが教えてくれたが、ここでは幼い頃から優秀な子供を養子に捕ったりすることは珍しくないらしいので、凛とした佇まいのラウールが傍にいても怪しまれることは無いとの事。

むしろ、跡取りに見聞を広げさせる養い親を演じるんだそうだ。


その役が殿下にならないのは目立つからなのと、安全を考えているから。

万が一の事態にならないとは限らない。

いつも一番最悪な事態を想定して動く必要があるということだろう。

確かに、あの輝かんばかりの金髪と整った顔は目立つこと必須だ。

もしかしたら、殿下と言う立場から、広く国民に知られているのかもしれない。


あと、念のために別に2名の騎士が遅れて入っていった。

キリアスとヴェンダー、比較的私と話してくれる二人だ。

もともと怪我を負い患者だった二人は、一見して全くそれを感じさせない。

でもその背中や腕、腰に治癒しきっていない怪我があるのを私は知っている。

旅に出てからは怪我の調子を確かめるのと、薬を渡す程度になっていたが、馬車の中ではフォルに手伝ってもらって身体を拭き、毎日当て布を交換し、処置をしてきたのだ。

離れていく二人の背を不安げに見つめる。

私に心配されたくても大丈夫だと思うが、何だろう・・・・。

過ごした時間が長く、接した回数が多い分、親しくなった気がしているんだろう。

少しずつ服装を変えた5人に比べて、二人は帯剣しており、服装もほぼ同じ。

それでも大丈夫だと言う根拠は、まだ戦乱の続く国では、武装した傭兵だったりが仕事を探して旅をすることは珍しくないかららしく、集団では警戒されるが、二人くらいだとかえって安全なんだそう。


キリアスはこの隊の中では言っては悪いが馴染み深い顔だ。

不細工だとか薄いしょうゆ顔とか言うのではなく、整ってはいるがあくまで普通にその辺にいそうなレベルで、その辺で畑を耕していても何にも違和感が無いというか・・・・何処にでも馴染めるということだ。

ヴェンターはもともと傭兵をしていたことがあったらしいから、偽装も容易いだろう。粗野な感じのする肩までのザンバラ髪を一つに括り、身のこなしを雑にすれば、騎士にはどうやっても見えない。



残った待機組の捕虜二人を加えた10人は少し離れたところにある場所に身を隠している。

ここから安全に旅を勧めるには、この地での情報収集と、物資の補給が必須のようで調達隊が帰って来るまでは動けない。


「ここが目的地じゃないの?ここに向って進んできたんでしょう?」


てっきり旅も終わりかと思っていた。

ここが終着点、もしくは中継地だと思い、進んできたのだ。

けれど、調達部隊が出るということは違うのか・・・。


「ここでは情報と、物資の補給のみが目的ですね。その結果如何によって今後進むべき道が決まるんでしょう。もしかしたら、王都に帰る事は無いのかもしれない」


少し離れた殿下の元にいるフォルの代わりに両サイドにはもう馴染みとなった二人、セディオンとローディアス。互いに手に持った剣の手入れをしつつ、私の疑問に答えてくれている。

だが要り込んだ情報は知らないのだろう。

答えには推測が多く混じっていた。


「帰るのが危険なんだね」


夜襲を受けたことを考えると容易に予測できることだ。

捕虜に対する尋問で更に何らかの情報を掴んだんだろう。

知りたいと思う自分と、知らずにこのまま唯々諾々と生きていけるのならそれがいいと思う自分。

どちらも本心であり、更に言えば、もう人が傷つくところなど見たくはない。



それが叶わない事だと分かってはいても。





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