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Ⅱ-2 生存者




 どれくらいの時がたったのだろう


 もしかしたら一瞬だったのかもしれないし


 長い時間だったのかもしれない


 この地獄のような世界で


 たった独り、孤独だった時間は。


















 もう、何を探す気力もなく、


 流す涙も枯れた。


 ここはいったい何処なのだろう。


 いつまで、いれば良いのだろう。


 生の気配のない、絶望に満ちた時間は、心に影をさしていった。


 「誰か・・・・!誰かいませんか!!」


 何度目かわからない問いかけも、

 返事がないのを突きつけられるようだ。

 

 《もう、だめなのかな・・・・》
















 「・・・うっ・・・・・・」




 聞こえた!?


 誰か生きている!?


 慌てて周囲を見渡すけれど、

 生きている気配はない。

 遂に狂った心が、幻聴を作り出すようになったか・・・







 「・・・だれ・・・か・・」


 もう一度辺りを見回す。


 一面に死屍累々《ししるいるい》と広がる野原を


 一縷いちるの希望を込めて。





 カタッ



 いた・・・・・!!


 離れた場所に、馬車だったものが折かさなっている。

 その下から、かすかに動く腕が見えた。


 急いで行こうとするけれど、

 足に力が入らない。

 けれど急がないと、

 また、独りになるかもしれない。


 《動け!!こんなときに動かなくて、いつ動くんだ!!》


 唯一自由になる両腕で這って、

 怯む心を叱咤しったして、

 惨たらしい遺体だらけの中を進んでいく。



 瓦礫の下に、腕が見えた。


 幸い、乗っているのは細かな瓦礫で、女の腕でも退けられそうだ。


 「・・・つっ」

 裂けた板が、何度も腕を傷つける。

 爪もはがれたかもしれない。


 それでも必死だった。


 独りになりたくなかった。


 目の前の命のほうが大切だった。

 


  


 上半身が見え、足が見え、遂に全身が見えた。


 震える指で、身体に触れる。


 ・・・・・温かい。


 当たり前のことに、枯れたと思った涙がまた流れて


 絶望に染まりそうな心に、光が差す。


 「もうすぐだから、頑張って!!独りじゃないから!!

  ここにいるから!!・・・頑張って!!!」


 助かって欲しい。

 生きていて欲しい。



 「・・・・・・だ・・れ・・」



 「大丈夫ですか!?わかりますか?!」



 「・・わ・・・・かる。・・・だれ・・・?」



 「良かった!!どこか痛みますか?!」



 「右・・・足に・・・・矢が・・・・

  手・・・も・・・・動か・・ない。胸・・・息が・・・・苦しい」



 全身を見るために、うつぶせに倒れていた身体をあお向ける

 

 薄く開いたまぶたから、意志のある青い瞳。



 男性が行ったとおり、右足には折れた矢が刺さっていた。

 しかし、出血は少なく、致命傷ではなさそうだ。むしろ、むやみに抜かないほうがいい。

 矢が栓をしているのなら、このままにしておこう。

 右腕は・・・

 赤黒く腫れ、不自然に曲がっていた。このまま顕著に腫れが進むようなら、神経障害を起こさないためにも、瀉血しゃけつする必要があるだろう。今見たところは、指先も動いているし、整復すれば大丈夫か・・・・。

 胸は、瓦礫の下敷きになったときに、肋骨が折れたんだろう。もしかしたら、肺に折れた肋骨が刺さっている可能性もあるけど、血も吐いてないし、話もできている。可能性としては低い。

 治療は、添え木くらいだけど・・・。それも所詮気休めだ。 

 他は、細かい傷はあるけど、とりあえず大丈夫そう。

 後で、きちんと見よう。


 痛むのだろう・・・触れるたびに食いしばったうめきが聞こえる。



  


 添え木を探して、右腕を固定したところで、自分を見る青い瞳に気づいた。



 「大丈夫ですか?」



 「ありが・・とう・・」



 そういうと、男性のまぶたが閉じ、腕が力なく落ちた。



 !!!!



 急いで脈を取り、息があるのを確かめる。


 眠ったか、気絶したかしたのだろう。


 前者であれば、ずいぶん神経の太い・・・・



 眠った顔を見て、表情が緩んだ。


 抱く腕に、痛くない程度の力を込める。





 屍の広がる中


 状況は変わらない。



 それでも独りの孤独よりも


 二人で支えあえる。



 腕の中の身体を、

 

 もう一度抱えなおして、


 眼をつむった。



瀉血:余分な血液を体外に排出すること

   *この場合は腫れているところに血液が溜まっているので、そこを切り、血液を排出する。

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