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Ⅱ-21  エル・フレミク  2



「エル・フレミクの語源は残念ながら分かっていません。エラ(素晴らしい)フレミク(神の使者)とも言われていますし、エリューファンク(希少な宝石)という古語が長い時を経て、エル・フレミクとなったとも言われています。一説によると、発見者の名前を取った。という話もありますが、どれもはっきりとした根拠は無いのです。別名で審判者とも言われますね」



蝶を見つけてから、隊は一旦休憩を取っていた。


殿下も含めた全員がエル・フレミクの存在に気をやり、エル・フレミク保護のために時間をとったのだ。

大の大人、それも男性ばかりが一匹の蝶を囲んで目を輝かすというのは、一種異常な光景だったが畏敬の念さえも感じられる騎士たちの雰囲気に嘲笑する気にはなれなかった。

より近くに見せるために掲げる両手も疲れて震えだした頃、医療関係者らしくいち早く気がついたラウールが網目状の器に蝶を移してくれて難を逃れその場を退いた。


一番間近で鑑賞したためか、セディオンは一足早く場を離れ、今は私の隣でエル・フレミクについての講釈を教えてくれている。

幼い頃から家庭教師に習っていたという知識は、広く分かりやすかったが同時に固く、経験による裏打ちが無いためか、教科書を諳んじているような説明になっていた。

まだ陽も高く、過ごしやすい陽気。

お尻の下は、腐葉土と落ち葉の重なった天然のクッションで汚れないように外套をしくと、座り心地は低反発クッションのようで出来るなら持ち歩きたいほど。


「一匹の蝶がまた大した存在なんだね」


「そうですね。授業にも出ますし、老若男女知っていることでもあります。僕も初めて目にしましたし、こうやって姿を見れたものはほとんど無いでしょうが、その写し絵はお守りなどにも使われているんですよ。国の女性なら型を模した飾りをありとあらゆる物にし、一つは身に着けているようですね」


幸運のお守りみたいなものだろうか。確かにあの綺麗な蝶を模った装飾品は、華やかで良いアクセサリーになるだろう。

さりげなく付けていてもお洒落だ。

世界が変わってもこんなところは変わらないんだなあと思う。


「恋人に渡す贈り物としても人気が高いですよ」


そう付け加えたのはローディアスだ。

彼もエル・フレミクを囲む輪から離れたのか・・・目をやると輪は先程よりも少なくなり、今いるのは4・5人ほどになっていた。顔は見えない。離れているからではなく、全員がこちらに背を向けているから。

落ち着いた少し長めの橙色の髪を揺らし、同じ色の瞳に優しい光を燈しながら腰掛けても良いですか?なんて聞かれても断れるわけが無い。

少し腰をずらして座るスペースを作った私にどうぞと、湯気の出ているカップを渡す。

受け取ったカップには蜜を溶かしたお茶が入っていた。


「ありがとう」


どういたしましてと笑う彼はセディオンにも同じものを渡し、腰掛けると自分もカップに口をつける。

座った頭の位置が、身長差を考えるとどう考えてもおかしな位置・・・頭一つも離れていないことは、こ

の際考えないことにしておく。


「ローディアスはもう良いの?」


「不躾に見続けるのも失礼かな・・・と」


蝶相手に大した気遣いだ。


「エル・フレミクは今後どうするの?連れて行くの?」


「確かなことは分かりませんが、そうなると思いますね」


自由に空を飛んでいた姿を思い出す。

いくら貴重な蝶だといえども、籠に捕らえられ崇めるという名の見世物にされるのは切ない。

あの時手を伸ばさなければ・・・と、考えても今更な事を思う。

自分の意思でなく、知らない場所に連れて行かれ、閉ざされた生活を強いられる。知っている蝶と同じだと考えれば、一生は一つの季節と同じか、長くとも半年。

出会いも、自由も、命も制限され、死した後は自然に帰るはずだった身体を標本にして保管されるのだろう。何処までも自由は無い。

帰りたくても帰ることは出来ない・・・・・。


「エミ?大丈夫ですか?」


「・・・大丈夫。ただ、悪いことしたなあって思っただけ」


「悪いこと・・ですか」


この先、人々から崇拝され、大切に扱われようとも生涯を奪われることに変わりは無いのだから。

考えれば考えるほど思考が暗い方向へ傾いてしまいそう。

────駄目だ。落ち込んでくる。

話を変えよう。そのほうが良い。


「そういえば、さっき別名で審判者って言ってたね。なぜ?」


隣でカップに口をつけているセディオンに話を振る。


「それは・・・・国の浮沈に関係しているからだと言われています。その国が栄えているときは、エル・フレミクはよく見られるそうです。ですが、その国が傾き始めると徐々に数を減らし、姿を見せなくなるそうです」


言い終わった顔は、初めの知識を語る顔と違い、視線を下げ、声のトーンも落とした暗い表情で。

聞いてはいけない事だったの・・・・?

だが、反対にいるローディアスもしんみりした顔で、この二人にとっては他人事ではないんだと思わざるえなかった。


ただの蝶が一国の状況を判断し、数を増やしたり、減らしたりする。

良くある都市伝説のような話。


実際に詳しく調べれば、気候や、時期、環境などの違う原因があるんじゃないかとも思ったが、ここが違う世界なら、そういったこともあるんだろう。

今のところ、文化や、科学の進化以外の劇的な違いを見出せない両者だが、この先多くを見れば違いもはっきりしてくる。決して人の不幸を喜ぶつもりじゃないけれど、一方で知ることが怖い反面、小さな好奇心を刺激されるのも確かだ。


国の浮沈に合わせて、その数を変える蝶。

殿下は『まだいてくれたのか』と言っていた。

ならば考えられることとしては、この国は傾いているのだということ。

それもエル・フレミクがいなくなるほどに。

戦争が終結していないことからも、平和な国ではないだろうとは思っていた。

だが、国が終わりに向うほど傾いているとは想像もしていなかった。できなかったと言った方が正しいのかもしれない。

自身のことに精一杯で、周囲を冷静に観察する余裕が無かった。今も余裕があるとは言いがたい。



狙われている皇子。

終わらない戦火。

国の浮沈を象徴する蝶が消えた国。


どんな先を想像しようとしても、明るい未来は見えそうに無い。


改めて、この先自分の立つ位置を確保するのは大変だろうな・・・・と思う。

同時に、乱世だったら、一人くらい不審者がいても紛れ込みやすいんじゃないかなんて、楽観的な考えも浮かんできて・・・・。

一国の一大事に自分のことしか考えていない事に気づき、自己嫌悪した。






話が進まな過ぎにもほどがありますね

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