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Ⅱ-15  王都へ 1

今回主人公は夢の中で、まったく登場していません。

よろしくお願いします。




足音に気が付くと、二人は入り口へと近づいた。

こんな夜中に天幕へ近づくものがあるとすれば敵か危急の報告のどちらかで。



「失礼します。殿下。火急の報告が」



どうやら後者のようだ。

国に帰り着くまであと1日。何事もなく帰りつけるとは思っていない。

むしろここまで何もなかったほうがおかしかった。



《ここで報告を受ければ、さすがに眼を覚ますか・・・》


後ろで何も知らずに眠る者の安らぎを妨げるのも気が引ける。

彼女は何もここで苦労しなくとも、後に波乱含みな生活が待ち構えているのだ。

そう考えると今くらいは安らいでいて欲しかった。



「外で聞く。入るな」



ラウールと共に天幕から踏み出すと、片膝をつきディーンとフォルが待っていた。

夜にもかかわらず、二人共に休んだ形跡はない。

むしろ外套は土埃を被っており、今まで何をしていたかが伺える。



「何か動きがあったか」



夜気は澄んでいて、昼間とは違い肌寒い。



「殿下の予想どうりに。森を抜けたところに約20、こちらへ向かってくる様子あり、皆山賊風の格好をしていましたが中に見知った顔を見つけました」



「浅はかな・・・」



言葉に反応したのはラウールだ。

優しげに見える顔を歪め、吐き捨てるように言った。



「いくら山賊風情を装っても、自国の兵を使っては気づけといっているも同然」



安易な偽装に命じた黒幕の軽い頭が透けてきそうだ。

せめて傭兵を雇えばいいものを、奴はそこまで考えが及ばない。

もちろん命を受けるおろかな者たちも。



「こちらにたどり着くまであと四半日もかからぬかと・・」



「・・・・」



「奇襲を避けるとなると、すぐにでも移動の開始が必要です」



その場にいる視線が集まり、決断を迫る。選択肢は多くない。

一瞬の迷いが多くの人命を危険に晒す。



「二手に分かれて山を下る。怪我人の中でも歩けるもの、状態の軽いものは降ろせ。荷は少ないほうがいい。重症の者のみを一台の馬車に乗せ、警護は4人ほどに。道を引き返し一旦セザール領のほうへ迂回、そこで帰還が叶うまで治療および待機とする。人選はディーンに一任する」



セザールは王都から他の領地を2つほど挟んだ田舎だ。

領民のほとんどが農業や畜産で糧を得ている。



セザールの領主は40を少しばかり超えた長身にがっしりと筋肉をつけた男だ。

顔立ちは悪くなく、土地の豊かさなどから、宮廷にいたころは多くの姫君達から秋波を送られていた。

しかし・・・本人は農業を愛してやまず、女性の魅力よりも牛や豚の魅力を讃え。

高価な調度品よりも農具を喜ぶ。

一言で言えば変わった男だった。


名をエイディールといい、国の農業についてかつて教えを受けたこともある。

性格は明朗活発、陽の下が似合う明るい男だ。

曲がったことが大嫌いで、正々堂々を好む。

魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする宮廷内で、信頼に足ると思わせた数少ない者のひとりだった。

そのエイディールは、裾引くご婦人たちを振り切って、昨年あっさり乳兄弟の妹と結婚し、自領を継いだ。農業を愛してやまぬ男にとっては望みどうおりの道であった。


本当は引き止めておきたかったが、それをしない代わりに協力をしろと迫った。


『お前が窮地であれば、そんな取引せずとも俺はお前を助けるだろう』


持ちかけられた当人は笑って承諾してくれ、今に至る。

怪我人の十や二十くらい余裕で受け入れてもらえるだろう。





「すぐに移動に取り掛かれ。王都へ向かう者も準備を。街道を逸れ、川沿いから王都へ向かう」



敵は20。正面から突破しても勝利する自身はある。

腕の立たないものなどこの隊にはいない。

しかし、怪我人もおりなおかつ戦場からの帰還で疲弊しているであろう騎士に無理はさせたくない。

しなくてすむのならば戦いは避けたかった。



「殿下、あの女性はどうされますか」



すぐに踵を返すかと思ったフォルから天幕の中へと視線が移る。


何も知らない女。武器で戦ったことなど皆無であろう柔らかなその手。


今頃は夢の中だ。


一瞬、連れて行く事も頭をよぎったが、足手まといにしかならぬうえに、危険が伴う王都への道のりを考えるとやはりセザールへ向かわせたほうが本人のためだろうと思う。



「彼女はセザールへ向かわせる。王都への隊に女が居ては不審に思われるだろう」



「私もそれが良いかと」



ラウールの賛成も得て、これからの細かな方針を決める。



「全員を起こし、一刻(一時間)後に出発とする」



そして全員がその場から踵を返した。

ディーンは隊の編成を。

フォルは細部の伝達を。

ラウールは怪我人の確認と組み分けを行うために。


一瞬、天幕で眠る顔を思い浮かべたがすぐに思考から消える。

この肩に背負う命は一人ではない。

誰かのためだけに動くことは許されていないし、今はその猶予もない。

時間内に確実に全員が動けるよう、指示を出さなければいけないのだ。


きっと誰かが彼女を非難させるだろう。

説明など後からでも充分だ。



出会ってたった4日の女。



何も心に残るものはない・・・そう思っていた。










つたない文章ですが、これからもよろしくお願いします。


かりんとう 拝

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