表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/44

Ⅱ-13 道中


朝、約束どうりに呼びにきてくれたフォルに起こされ簡単な朝食後、怪我人の待つ馬車へ向かった。


睡眠の充分とはいえない体は、少しけだるさを纏っていたが朝の空気に徐々に頭は冴えていく。


同じ位の睡眠しか取れていないであろう殿下は、目覚めたときにはもういなかった。



《この世界・・・いや自然と共に生きるとみんな早起きになるのかな。夜起きていても何にもないし》



元の世界に比べれば不便極まりないともいえる環境。

しかしそれと引き換えに排気ガスに汚されていない新鮮な空気に美味しい水があると考えれば、そのほうがいいのかもしれないとも思う。

まあ、あの便利さに染まりきった自分がいつまでそれを良しと出来るかは疑問だが・・・。




「おはようございます。具合はどうですか?変わりはありませんか?」




自分の割り当ての馬車で一人一人に声をかけ、傷や身体の状態を観察していく。

昨日は出来なかったが、今日は怪我人にしてあげたいことがたくさんあるから、時間はあっても足りないかもしれない。



まずは空気の入れ替え。

そして、顔や身体を拭き清めつつ、全身の状態を観察。

みんな、戦場のままであちこちに血や泥がこびりついているから、感染防止と、気持ちと身体を少しでもすっきりすることが出来たらという願いを込めて、丁寧に拭いていく。


全身が綺麗になったら、傷の手当てだ。

化膿していないか、腫れてはいないか、熱が出たりしていないか、血液の量や、浸出液しんしゅつえき、膿の性状を見ていき、新しい布を当てていく。

そんなことをしていたら、すぐにお昼の時間が来るだろう。

お昼は食事のセットと、食べられない人には食事介助をする。

栄養は身体を保つ基本だ。少しでもたくさん食べて欲しい。


美味しいと感じること、食べたいと思うこと、ものを食べると言うことは生きることへつながるから。


そしてそれが終わったら、汚れた寝衣しんいを変えて、できたら床じきの布も変えたい。


病院の看護師の職では限られた時間と、多くの患者対応のため、一人一人へ自分が出来る充分な看護が行えなかった。機械的にさえなっていたかもしれない。

だからこそ、そんなものに縛られない今、出来ることの精一杯をやりたかった。



重いものを運ぶとき、水を汲むときなどはフォルにたのみ、あとは『どうしても女性に身体を見せるのは!?』と顔を真っ赤に染めて逃げ惑う男性達を押さえ込んでもらう。

もちろん、仕事柄見慣れてますよ・・・なんてこちらの感覚ではとんでもないらしいので、下半身は各々《おのおの》でやってもらうが。


なかでも、洗濯はきつかった。(もちろん洗濯機などあるはずもない)

なにがきついって、まず中腰、そして冷たい水仕事に、大量の汚れ物。

それでも干したものが綺麗になり、乾燥させた香草の香りをつけると評判は上々で。




やりがいを感じているうちに3日が過ぎた。


こちらの世界に来てからは4日。


移動の中、昼は怪我人の世話。夜は殿下の身の回りの世話を。

と言っても、殿下はほとんどのことを自分でやってしまうため、殿下のためにやることは内実ほとんどないに等しい。

夜と朝に使う水の準備、衣装の手入れや天幕内の掃除それだけ。あとはほんとに手がかからない。


初日はあんなにも接触があった殿下だが、それが嘘だったかのように以降は必要最低限の会話のみ。

日々の端々《はしばし》でいろんな人の報告を聞き指示を出している場面を見るし、一時もひとところにじっとしていない。

ひとつ屋根の下だから分かることだが夜も遅く、朝は早い。


状況に厭いていたと言っていたが、厭きる暇があるとは思えないのだが。



ディーンやラウールも忙しそうだ。

あの天幕での一件以来声も聞いていない。



移動と停泊を繰り返す日々は、周囲の人が気を使ってくれているのか、それほどひどくもなく、もっぱら仕事の合間にかかわる人と話すことで寂しさは感じずにすんでいる。

特に水汲みのときに手伝ってくれた青年ローディアス(というらしい)やセディオンなどはあれこれと話しかけてくれる。

騎士道精神なのか(実際は知らないが、たぶんフェミニストのすごい版?)女性が珍しいのか、最初に恐怖したような人は幸いにもいなかった。皆一様に親切だと思う。



「エミは綺麗で若いし、良く働く、素晴らしい女性だからみんな好意しか抱けないんですよ」



セディオンなどはこういってくれるが、正直きつい。

それを素直に受け取れるほど図太い神経は持ち合わせていない。

しかもここまでの人生そんなにまっすぐに誉められなれていないのでこの恥ずかしさといったら言うに及ばないだろう。

それなのにここの人々(かかわってくれる人限定なのでそんなにはいない)はみな人の眼をまっすぐに見つめ、砂でも吐きそうな誉め言葉を惜しげもなくくれる。


《イタリア人がいたらこんな感じかな・・・》


このごろやっと聞き流すことを覚えた。

初めはいちいち赤面したり、否定したりと無駄に精神力が削られ、何度目の前の口をふさいでやたいと思ったことか・・・・・・。



しかし道中4日が経ったと言うことは、初めラウールが教えてくれた言葉を信じるならあと二日ほどで彼らの国に入るということだ。

それにしては景色は変わらないのが気になる。

この世界がどんな文明の栄え方をしているのか、地理さえもまったく知らないのでなんともいえないけれど。

それでも民家のひとつとして見当たらず、村人の一人にさえ会わないなんてことがあるのか・・・。



疑問は尽きない。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ