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Ⅱ-7 価値

本文を読まれる前に。

クリミア:ヨーロッパで実際に起こった戦争(地名)

ナイチンゲール:クリミアでの戦時中、劣悪だった負傷兵たちの療養環境を改善し、劇的に生存率をあげた。その後看護の発展に尽力した人物。(夜、負傷兵たちをカンテラを持ち、見廻った献身的態度からクリミアの天使と呼ばれた)また、もともと貴族階級のお嬢様。


 現代の日本は医療の進歩が著しく進み、世界でも有数の長寿国となった。



 病院には数々の医療機器が並び、的確な治療と診断が。



 薬局には様々な薬が。



 看護師として病院に勤務し、それが当たり前だと思っていた。




 



 《でもそれって、とってもすごいことだったんですね・・・・・》





 

 クリミアの天使として、看護師の祖として名高いナイチンゲール様。

 

 あなたもこんな気分だったのですか・・・・・?!












 

 ラウールの補助として連れて来られたのは、朝見たもう一台の馬車だった。


 この中に怪我人たちを収容し、治療を行っているらしい。


 私が居た馬車よりも一回り大きく、つくりも頑丈に見える。


 しかし・・・



 「この中に14人の患者がいます。もちろん、あなたが助けたセディオンも」



 「・・・・・・・・・」



 確かに、大きい。・・・・大きいけれど。


 所詮馬車だ。


 《この中に14人は狭いでしょう!?》



 日本の病院じゃ考えられない。



 幌を上げ中に入ると、案の定。人がすし詰め状態・・・・は少し言いすぎだが、人と人の間が、手が一本入るかどうか。

 つまり、寝返りもできないほど。

 それが、幌をあげれば光は入るが、降ろしてしまえば窓もなく、風通しも悪い環境にいる。

 薄暗く、痛みのためかうめき声が響く中、血とすえた臭いが充満していた。



 《これじゃあ、治る者も治らない・・・・》



 

 ひそめた眉に気づいたのだろう。



 「ひどいでしょう?けれど馬車が一台空いたから、半分近くを移すことができるんですよ」



 ラウールの言葉にはっとする。

 たとえ一晩とはいえ、本来怪我人を運ぶための馬車を、自分が占領していたのだ。

 自分が選んでそうした訳ではない。ないが、罪悪感は拭えなかった。



 「今から移動するんですか?」



 「はい。殿下の指示がありましたから。・・・・・フォル!クァジド!」



 呼びかけと共に、二人の兵が入り、次々に患者を運び出していく。

 ここに何があって、何がないのか。分からないため、手が出せず。

 気づけば、患者の数はおよそ半分になっていた。


 

 「今日はここに停泊するでしょう。王都に帰るまで5日。治療を手伝ってくださいますか?」



 手伝うも何もない。殿下がそう言っていたし。なによりこんな患者を見て、手を出さない理由わけがなかった。


  

 「私、何をしたら良いですか?」


 

 「あなたのセディオンへの処置は、とても的確なものでした。あなたは以前、医療にたずさわっていたんでしょう?」



 問いかけという形はとっていたが、確信めいた言葉。

 隠すものではないし、頷き、肯定する。



 「ならば、こちらの患者はお任せします。はじめの治療自体は終わっています。後は、薬を飲ませ、傷の消毒を。あと、日常の世話をお願いします。

 力仕事や、必要なものがあれば、先ほどのフォルに言ってください。

 あと、分からないことがあれば私へ。それもフォルに言付ければ伝わります。

 日に一度はに来ますので」


 

 信頼してくれるような言葉に、感動する。

 一方で、不安も感じた。



 「いいんですか?何処のものか分からない私に・・・」



 「いいも何もない。患者は多く、私はひとり。手伝える人間が咽喉から手が出るほど欲しいのです。

  しかもあなたは医療にたずさわった経験があるという。これを見逃す手はない。

  それとも、あなたはこの者たちを傷つける意思でもあるのですか?」


 慌てて首を振り、否定する。だが、それでも不安は残った。

 先ほどの殿下の言葉が頭をよぎる。



 「フォルさんは・・・・その・・・・」



 貞操の危機はないか、などなかなか言い出しにくく、言葉が続かない。



 入り口に立つ二人の男のほうを見て、不安そうにしているのに気づいたのだろう。



 「ああ・・・。そのことですか。あれは殿下なりのかまかけ・・・というか冗談です」



 「冗談!?」



 「はい。確かに、戦時中で気が立っているのも否定できませんが。今は怪我人を運び帰国途中です。

 そんなに緊張が漂っている段階でもないですし。そもそも女性によってたかってそんなことをする者たちではありません。そんな素行では、移動の最中に国の評判をおとしめかねない。

 安心してくださって大丈夫だと思います。

 それに、今回同行しているのは皆騎士です。国に帰れば引く手あまた。それなりにもてるのですよ」



 《つまり、あなた程度のものに食いつくほど飢えてないですよ。って意味?確かに安心はしたけど、気分は複雑だな・・・・》

 


 人間というものは、とことん贅沢なもので安全が保証されれば、そのほかに眼が行く。

 そんなに自分に自身があったわけではないし、いいのだが、それでも見目の整った青年から面と向かって眼中にないと言われるとあるかないかの自尊心が傷つく。



 なんだか、思考がそれ、緊張が薄らいできた。


 改めて患者のほうに目を向け、気を引き締める。



 「分かりました。精一杯頑張ります」


 患者のために。

 そして、自分の価値を示すために。



 「頼みます。必要なものはそこにおいてありますので」


 こちらの決意が見えたのか、

 一通り、医療用具と薬、患者の状態の説明をするとラウールは去っていった。




 「さて・・・。まずは挨拶と怪我の状態確認からかな?」





 もと居た環境とは比べようもない医療現場にやりたいこと、欲しい物はたくさんあったが。



 すべてを後回しにし、一人一人に声をかけ状態を診ていった。







 



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