第六話:死と、なお続く肥大
意識が戻らぬまま、辻垣内は数日間を過ごした。輸血や点滴による集中治療が行われるものの、いっこうに状態が安定しない。裂け目からは相変わらず黒い液が滲み出し、ベッドや包帯を汚していく。その肉塊はまだじわじわと大きくなっているらしく、周囲の皮膚をますます押し広げ、今や太股の付け根近くまで浸食し始めていた。すでに彼の下半身は正常な輪郭を保てず、醜悪な膨潤に飲み込まれかかっている。
ある夜、容態が急変した。大量の出血と呼吸困難。医師たちが駆けつけたとき、もはや辻垣内の呼吸は止まっていた。心電図が平坦を示し、医師たちは必死に蘇生を試みたが、ほどなく死亡が確認された。彼はついに逃れられぬ絶望の淵に沈んだのだ。
だが――問題はそれで終わらなかった。なんと、おじさんは命を落としても、お尻の穴だけは、なお脈動を続けるかのように肥大の進行を止めなかったのだ。
遺体安置所へ運ばれ、白いシーツに覆われた辻垣内の身体。しかし、その下半身からはやがて異様な臭気が立ちこめ始めた。担当者が困惑してシーツをめくると、そこには死してなお生き物のように黒紫の色を深めている肛門の肉塊があった。死後硬直などまるで関係ないかのように、じわりと血管がうねるような痕跡を残し、さらに周囲の組織を裂いて広がっている。
人体は死を迎えれば腐敗していくものだが、その過程とは別に、肛門の肥大のみが独自のペースで拡張し続けている。遺体の細胞が腐敗分解に向かう速度を凌駕するように、その肉塊はゆっくり確実に成長していたのだ。皮膚が張り詰め、裂け、さらに深部の臓器に至るまで侵食が進み、死後も身体を内部から抉り始める。数日後には、下半身が見分けのつかない黒い塊になり、ただその中心にある穴の縁が、さらに外へ外へと膨れ出していた。