第五話:迫りくる破滅の呼び声
そこからは、すでに地獄の一丁目とも言うべき事態が現実となっていく。辻垣内は電話で救急車を呼んだ。救急隊員が駆けつけたとき、彼らの表情は凍りついた。しかし、生命維持のための処置をしようにも、専門外の領域であり、ここまでの異常は誰も見たことがない。とりあえず救急車に乗せられ病院に搬送されたが、そこでも医師たちは頭を抱えた。
「肛門近辺をここまで侵食する病変は聞いたことがない。緊急手術で切除しようにも、どこをどう切ればいいのか……」
すでに肥大した肉塊は尻の穴まわりだけではなく、周囲の皮膚や脂肪組織を巻き込み始めていた。下腹部に至るまで生々しい色合いを帯びた患部が侵出し、腫脹を伴い、肌の表面は裂け目だらけである。切り開くなどという行為が、果たして成功の見込みがあるのか。正常組織との境界が曖昧で、下手に切れば大量出血を招く恐れがあった。
それでも、「このまま放置すればいずれ全身に影響が出るのではないか」という懸念の下、外科医たちは緊急手術を決行することにした。辻垣内の恐怖は頂点に達していたが、もはや抵抗する力もなく、手術台に横たわるしかなかった。背中から腰を露わにされ、麻酔が入れられると、やがて意識は遠のいていった。
だが、手術室に響き渡るのは、悲鳴にも似た外科医たちの混乱だった。メスを入れた瞬間、どろりと粘度の高い液が噴き出し、皮膚と粘膜の狭間からは異常なほどの血流が噴き出す。圧力が高まっているのか、切開線を入れたところから次々と裂傷が広がり、縫合が追いつかない。しかも、その奥から覗く肉の組織は、正常な筋肉組織や脂肪組織とは明らかに異質で、黒紫に変色しながらも脈動している。
手術室はたちまち血と液体にまみれ、まるでスプラッター映画のワンシーンのように惨状を呈した。看護師たちは次々とガーゼや吸引器具を手渡すが、出血量は予想をはるかに超えて多い。ベッドのまわりには血溜まりが広がり、その濃厚な臭いに耐えきれず嘔吐しそうになるスタッフも出た。誰もが必死に止血を試みるが、組織の境界が崩れているため、どこを押さえていいか分からない。切れば切るほど、新たな裂け目が内側から湧き出し、黒い液を吐き出す。まるで生命意志を持つ怪物が、内部から手術を拒んでいるかのようだ。
結局、医師たちはこれ以上の手術続行は危険と判断し、中途半端な止血処置をして手術を打ち切るしかなかった。辻垣内は大量出血で意識不明のまま集中治療室へ運ばれ、命の危機に晒される。