表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

第四話:じわりと広がる地獄絵図

 翌朝、辻垣内は覚悟を決めて再び病院へと向かった。尻に違和感というより、明らかな「重量感」を覚えるほどにまで成長した肛門。その惨状を医師に見せると、さすがに医師も言葉を失う。破れかけた皮膚から滲み出る液、紫色を通り越してほとんど黒ずんだ粘膜。だが組織検査の結果は、やはり不明。どこをどう切って調べても、ただ「組織が異常に肥大化している」という事実しかつかめない。


 もはや立っているのもつらいほどの肥大化によって、辻垣内は職場へ行くのが困難になった。休みがちになり、同僚には「腰を悪くした」などと言い訳をしていたが、いずれ誤魔化しきれなくなるのは目に見えている。だが、病院に行っても何も解決しない。医師たちは首をかしげ、手探りで痛み止めや抗炎症薬を処方するばかりだ。もはや手術でどうこうできる段階なのかも分からない。原因も対処法もまったく見当がつかない未知の症状。


 彼はやむなく自宅での安静を選ぶが、安静にしたところで尻の穴の肥大は微塵も衰えを見せない。むしろ、外部からの刺激が減ったためか、内側からの脈動が一層はっきりと感じられるようになった。横になっていても、尻の穴が自律的にじわりじわりと広がり、皮膚を突き破る寸前にまで圧力をかけてくる。夜中にそれが気になって眠れない。夢うつつに尻をおさえ、うなされ、汗だくになって目を覚ます。下着が液まみれになり、タオルをあてがってもすぐに染みてしまう。絶えずシーツやマットレスが汚され、強烈な腐臭が部屋を満たしていった。


 そんなある晩、辻垣内は起きていられぬほどの倦怠感に襲われ、尻の下に厚手のタオルを敷いたまま布団に倒れ込んだ。寝ている間に何度も目を覚ましたが、意識が朦朧としていたためか、奇妙な夢ばかりを見る。いつの間にか尻の穴が自分の意志とは無関係に開いていき、そこから何かぬらぬらとした肉塊が這い出してきて、床を這いずり回る……そんな悪夢。しかし、それは単なる夢だけではなかった。


 朝、彼がふと目を覚まし、布団から起き上がろうとした瞬間。股のあたりが異様に重く、しかも何かが引っかかるような感触がある。ぎこちなく身体を起こして下半身を見やると、そこには噴き出すように肥大した肛門の肉塊が、まるで腫瘍のように膨れ上がっていた。完全に尻の穴は中心が開き、直径が手のひらほどの大きさにもなっている。しかも、その縁からは黒ずんだ液が滲み、一部はズルリと皮膚の割れ目を広げ、赤い内壁のような膜が覗いている。


 足の間にぶら下がるように膨れあがったその肉塊は、ベッドシーツを汚し、悪臭を放ちながらもなお、わずかに動いている気配があった。痙攣(けいれん)するように小刻みに震え、どこか心臓に近いリズムで脈を打っているようだ。まるで彼の身体とは別個に呼吸をしているかのようなその様には、ただならぬ嫌悪と狂気が同居する。辻垣内は悲鳴ひとつあげることすらできず、口を開けたまま動けなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ