第四話:じわりと広がる地獄絵図
翌朝、辻垣内は覚悟を決めて再び病院へと向かった。尻に違和感というより、明らかな「重量感」を覚えるほどにまで成長した肛門。その惨状を医師に見せると、さすがに医師も言葉を失う。破れかけた皮膚から滲み出る液、紫色を通り越してほとんど黒ずんだ粘膜。だが組織検査の結果は、やはり不明。どこをどう切って調べても、ただ「組織が異常に肥大化している」という事実しかつかめない。
もはや立っているのもつらいほどの肥大化によって、辻垣内は職場へ行くのが困難になった。休みがちになり、同僚には「腰を悪くした」などと言い訳をしていたが、いずれ誤魔化しきれなくなるのは目に見えている。だが、病院に行っても何も解決しない。医師たちは首をかしげ、手探りで痛み止めや抗炎症薬を処方するばかりだ。もはや手術でどうこうできる段階なのかも分からない。原因も対処法もまったく見当がつかない未知の症状。
彼はやむなく自宅での安静を選ぶが、安静にしたところで尻の穴の肥大は微塵も衰えを見せない。むしろ、外部からの刺激が減ったためか、内側からの脈動が一層はっきりと感じられるようになった。横になっていても、尻の穴が自律的にじわりじわりと広がり、皮膚を突き破る寸前にまで圧力をかけてくる。夜中にそれが気になって眠れない。夢うつつに尻をおさえ、うなされ、汗だくになって目を覚ます。下着が液まみれになり、タオルをあてがってもすぐに染みてしまう。絶えずシーツやマットレスが汚され、強烈な腐臭が部屋を満たしていった。
そんなある晩、辻垣内は起きていられぬほどの倦怠感に襲われ、尻の下に厚手のタオルを敷いたまま布団に倒れ込んだ。寝ている間に何度も目を覚ましたが、意識が朦朧としていたためか、奇妙な夢ばかりを見る。いつの間にか尻の穴が自分の意志とは無関係に開いていき、そこから何かぬらぬらとした肉塊が這い出してきて、床を這いずり回る……そんな悪夢。しかし、それは単なる夢だけではなかった。
朝、彼がふと目を覚まし、布団から起き上がろうとした瞬間。股のあたりが異様に重く、しかも何かが引っかかるような感触がある。ぎこちなく身体を起こして下半身を見やると、そこには噴き出すように肥大した肛門の肉塊が、まるで腫瘍のように膨れ上がっていた。完全に尻の穴は中心が開き、直径が手のひらほどの大きさにもなっている。しかも、その縁からは黒ずんだ液が滲み、一部はズルリと皮膚の割れ目を広げ、赤い内壁のような膜が覗いている。
足の間にぶら下がるように膨れあがったその肉塊は、ベッドシーツを汚し、悪臭を放ちながらもなお、わずかに動いている気配があった。痙攣するように小刻みに震え、どこか心臓に近いリズムで脈を打っているようだ。まるで彼の身体とは別個に呼吸をしているかのようなその様には、ただならぬ嫌悪と狂気が同居する。辻垣内は悲鳴ひとつあげることすらできず、口を開けたまま動けなかった。