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第四十四話:未来へ続く破滅の芽

さらに時間が過ぎ、クレーター周辺から遠く離れた里山や湿地で、地面が異様に変色し、沼のような水たまりができているという通報が相次ぐ。そこでは小動物の死骸が散乱し、鼻を突く腐臭が漂い、鳥も近づかない“死のスポット”と化しているという。地質調査をしてみると、水分や土壌成分が通常のパターンから外れ、金属的なにおいのする粘液が含まれている例があった。

これが直接、あのクレーターから来た物質かどうかは確定できない。それでも、「本来ならあり得ないほどの化学変異が起こっている」という事実には変わりなく、既存の環境科学では説明しきれない。実際、顕微鏡で見る限り、奇妙に変形した細胞や微生物が繁殖しており、まるで“別世界の生態系”が局所的に誕生したような様相を呈しているのだ。


もしもこれが“おじさんの尻の穴”に端を発する微粒子の仕業なら、既に我々の目の届かない遠方で、新たな“穴”の原初が動き出しているのかもしれない。まだ小さく、芽のような状態ではあるが、条件が整えば一気に噴出して、再び大地を(えぐ)り、膨れ上がっていくおそれがある。いわば、今のクレーターが一つの“親株”なら、そこから無数の“子株”が拡散している――そんな仮説は、もはやフィクションとは言い切れなくなっている。


同じ頃、既に廃墟周辺にはほとんど人影がなく、哨戒を行う軍関係者さえ定期的に交代するのみ。夜には暗闇を切り裂くサーチライトの光が、崩れたビルの壁を照らし、その向こうのクレーターは深い闇の中で眠りのように沈黙を保つ。

だが、その静寂の裏で、もし何かが今も少しずつ大地を溶かし、形を変え、より広い範囲へ浸透しているとすれば、やがて来る“次の破局”はただの時間の問題だ。人間が立ち入らず観測しなくても、“穴”は無情に成長を続ける。そこには会話も理性もなく、ただひたすら“拡大”という生存本能だけが息づいているのである。

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