第四十三話:蠢くクレーターの深部へ
やがて時が経ち、街の廃墟はさらに朽ち果て、自然が建物を巻き込みつつある。ツタや雑草はコンクリートを割り、樹木さえもアスファルトの裂け目から芽吹いている。そうして表面上は「自然回復」のように見えるが、その下で何が進行しているかは想像を絶する。
前述のとおり、肉塊の微粒子や成分が地下水や土壌に混じることで、新たな形態のコロニーを形成している可能性が高い。そして、それらが表面化していないだけで、地中深くでじわじわと勢力を拡大しているかもしれない。いずれ何十年、何百年というスパンをかけて、別の地域の地層や河川に到達し、再び地上に“穴”を開くときが来るのかもしれない。
つまり、今は“小康状態”に見えるだけで、根本的な解決には程遠い。まさに「負の遺産」として、人類が抱え込んだまま先送りしている爆弾のようなものだ。
そのクレーターを、ある雨の日に遠方から望遠鏡で見つめた調査員が、小さな異変を目撃したという報告がある。通常、降雨時には水面が激しく乱れて泥と泡が舞い上がるのだが、その日は水面に奇妙な突起が幾つも現れ、半球状に盛り上がったり消えたりを繰り返していたという。その動きはまるで、無数の“口”が水中から出たり入ったりしているように見えたと。
もちろん、雷雨と風の影響かもしれないし、膨大なガスが噴出した瞬間かもしれない。だが、そこに“生物的な意思”を感じたという目撃者の証言は、無視できない不気味さを伴っていた。クレーターの底に封じられた“老いた男の尻の穴”が、まだなお拡大の機会を窺い、蠢き、世界を飲み込みたがっている――そんな幻覚じみた想像を否定する材料は、どこにもなかった。




