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第四十二話:廃墟を越えて広がる陰影

こうした状況を踏まえ、政府は「封じ込めの完全失敗」を認める形で、地域の無期限閉鎖を事実上宣言した。当面は周辺に厳重な警戒線を張り、通行も航行も制限する。違反者は厳しく罰し、さらなる立ち入りやトラブルを防ぐ――という力技の方針である。実際、その地域は軍の哨戒ルートに組み込まれ、定期的にドローンが空から監視を行う。

だが、それ以上の踏み込んだ対策――たとえばクレーターへの大規模攻撃や地盤掘削――は中止となった。あまりにもリスクが大きく、政治的にも実行できないからだ。結果、「尻の穴」は都市の一画を飲み込み続けたまま、独立した“汚染領域”として膨れ上がる形で放置される。国際社会からも非難や疑問の声が上がるが、有効な代案は示されない。


この土地を離れた住民たちも、その後どこへ行っても“故郷を()われた”という言い知れぬ絶望感に(さいな)まれる。また、周囲の人々も「彼らは汚染を運ぶのではないか」と敬遠する風潮もないとは言いきれない。こうして元住民たちは環境難民のような扱いを受け、行き場のない怒りや悲しみを抱え込む。

一方、遠く離れた場所の人々にとっては、この惨事が次第に“よく分からないホラー事件”のように語られ、日常の話題からは遠ざかる。ネット上では時折「そういえば、あの“肥大する穴”ってまだあるの?」といった投げやりなやりとりが見られる程度で、詳しく知る者は少ない。人々は新たなニュースや事件に関心を移し、“穴”への恐怖を忘れていく――いや、忘れたいのかもしれない。

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