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第四十一話:漂い始めた“侵蝕の種”

クレーターからは常にガスや微細な液体の飛沫(ひまつ)が噴き上がっている。これを一見すると単なる霧や水蒸気のように見えるが、その中に肉塊由来の微粒子が含まれていないとは限らない。以前から、周辺に降り積もる灰やススのようなものを調べた結果、微量ながら不規則なタンパク質の痕跡が検出されるという報告もある。

つまり、雨や風が強くなればなるほど、この“微粒子”がより遠くまで飛ばされる危険性があるわけだ。現実には、いまだ目立った二次感染や拡散が起きていないようにも見えるが、それは単に潜伏期間が長いのか、あるいは条件が整っていないだけかもしれない。もしもどこかで微粒子が沈着し、そこに十分な湿気や養分が与えられれば、新たな“穴”が芽生える可能性すらある――そんな恐るべき懸念が一部で囁かれている。


一方、地域一帯に野生化した動物や雑草の様子にも奇妙な点が見え始めた。たとえば鳥やネズミが、クレーター付近の汚染地域を移動した後、体毛や羽毛に抜け落ちた部分が生じ、皮膚病のような症状を起こしている個体が多数観察される。さらに、そこに繁茂(はんも)する植物の中には、茎や葉が黒っぽく変色し、通常ではあり得ない巨大化を見せるケースも報告されている。

もちろん、これが直接“肉塊”の影響かどうかを断定するには慎重な調査が必要だ。しかし、もしも微粒子が風や雨で運ばれ、地面に染み込んだ場合、植物や土壌の微生物がそれを取り込み、“異常成長”を引き起こしているのかもしれない。そう考えれば、動物が食物連鎖の一端としてそれを摂取し、体内で何らかの病変や変質が進行することも十分あり得るシナリオだ。

しかし、本格的にサンプルを集めようにも、あの封鎖区に立ち入ること自体が極めて困難。結果、専門家たちは“可能性”だけを論じながら対策を打てず、問題は水面下で熟成する――いずれ大きく露呈するまで、何もできない状態が続く。

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