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第四十話:腐敗を超える再生の兆し

それまでの観測で得られた最大の謎のひとつは、あれほど腐敗したはずの肉塊が、死という過程を超えてなお“生き続ける”ように動いている点だった。普通の有機物なら、いずれ分解が進み、ただの遺骸や土へ還るはず。しかし“おじさんの尻の穴”の末裔(まつえい)とも言うべき組織は、何らかの方法で自己増殖や再生を繰り返しているらしい。

破片を切り離しても、そこから新たな液が湧き出し、再び肥大化するという報告は生前の病院時代から繰り返されてきた。つまり、どんなに破壊や切除を試みても“コア”が残る限り、また元に戻ってしまう。下手に分割すれば、逆に増殖面が増えてしまう――そんな性質を持っているとさえ疑われているのだ。


さらに、独特の悪臭を放つガスが常に肉塊の周囲に漂っているが、ここにも重要なヒントがあるかもしれないと一部の研究者は言う。というのも、このガスには微量の揮発性有機物が大量に含まれ、その成分分析を試みると、通常の腐敗臭とは異なる未知の化合物が高濃度で検出されるのだ。

ある説では、肉塊はこのガスを介して周囲の有機・無機物と化学反応を起こし、自らの組織を“更新”しているのではないか――という。いわば肉塊が呼吸をするのと同時に、周囲の物質を自分の栄養へと作り替えていくプロセス。だからこそ、水や鉄骨、コンクリート、土砂といった本来は異なる物質を次々取り込み、奇怪な粘液や膜を生成できるのだろう。

つまり、この強烈な悪臭こそが肉塊の“代謝”の副産物であり、それが絶えない以上、肉塊は死なずに拡大し続ける――この仮説が真実味を帯びるほどに、研究者たちの戦慄は深まるばかりである。

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