第三話:緩慢なる恐怖
「いったいこれは何なんだ……?」
辻垣内は錯乱しかけながら、病院に再度足を運んだ。自宅から少し離れた都市部の総合病院にまで行き、大掛かりな検査を受けた。それでも原因はわからない。腫瘍ではない、感染症でもない、寄生虫でもない。ただ、一見すると周囲の皮膚組織を巻き込みながら、肛門内部の筋肉や粘膜が異常な速度で増殖しているように見える。しかしその増殖はまったく悪性ではないらしい。血液検査も臓器機能検査も異常なし。痛みは強くない。どうにもならず、医師たちは困惑するばかりだ。
薬や手術という段階にも至らず、「様子を見るほかない」というあまりに無力な宣告。本人にとっては悪夢でしかない。
そして、肥大の進行はますます顕著になった。数センチだった盛り上がりが、時間とともに明らかに拡大していく。立っていると下着が擦れて気になるどころか、股ぐら全体に違和感が広がる。座ろうとすれば尻の穴が座面に押しつぶされるようになり、強烈な圧迫感がある。日常生活が大きく脅かされ、仕事に集中できなくなった。職場での視線が気になり、動作もぎこちなくなる。彼は急速にやつれ、顔面は青白くなっていく。
ある晩、ふと気づくと、尻の穴の表面に小さな裂け目が入り始めていた。皮膚が引き延ばされ、粘膜と皮膚の境界が裂け、赤黒い肉が覗いている。触れるとずきりと痛みが走り、同時にどろりとした液が指を濡らす。洗い流そうとシャワーを当てると、その裂け目からさらに液体が流れ出し、小さな血しぶきのようになって足元に散った。
嫌悪感と不快感で吐き気を催し、シャワーの床にへたり込みそうになる。排水口に流れていく液体は、生温かく、鮮血と何か膿のような成分が混ざり合った粘つく粘液だった。鼻を突く鉄のような臭いに加えて、内臓が露わになるような生々しい腐敗臭がまじり、さらにその蒸気が洗い場の狭い空間を支配する。まるで異形の胎児がそこで息づいているかのような、暗くおぞましい気配が広がるのを感じた。