第二十三話:出口なき錯乱
この状況下で、とうとう「強制的な封じ込め」ないし「範囲を限定しての爆破解体」を進めざるを得ない――そんな意見が行政会議の場で大きく取り上げられるようになった。何もしなければ、いずれ崩壊が進んで周辺地域へ波及する可能性が高い。このまま放置して被害が拡大すれば、当局の責任は免れない。
しかし、安全に爆破を行うには徹底したシミュレーションが必要である。仮に爆破が成功しても、飛散する破片や肉片の扱いが問題。風で運ばれたら数キロ先にまで飛散しかねないし、水に乗れば下流の河川や海へ到達する恐れもある。その先でまた“肥大”が始まれば、もはや取り返しがつかない地獄絵図が広がるだけだ。結果、「爆破リスクは大きすぎる」「ならば焼却や薬品注入での化学処理はどうか」と意見が飛び交うが、いずれも決定打に欠ける。
かと言って、無策で囲い込むには、すでに建物自体が崩壊寸前だ。長期的に見ればどこかの時点で必ず壁が破れ、液が地上へ流れ出す。この穴が何年、何十年と放置された先にどんな結末が待っているか、誰にもわからない。その穴は生物としての死を超えながら、なお拡張をやめる気配すらないのだ。
住民の間には、ありもしない噂やデマが飛び交い始める。
「あれは元々、廃病院に住み着いた怪物がいるんだ」「軍隊を派遣してでも爆弾で消滅させるしかない」「実は政府の極秘実験が失敗して……」などと、真偽不明の話がネットを賑わす。中には、あえて危険を冒して廃墟に近づき、動画や写真を撮影する行為に及ぶ若者も現れる。彼らの一部はSNSで注目を集めようとするが、直後に体調不良を訴えて病院へ運ばれ、口もきけない状態になる――という噂が伝わり、さらに恐怖心と好奇心を煽っていく。
そうこうしているうちに、周辺地域の不動産価値や住民の不安はどんどん高まり、行政には苦情や問い合わせが殺到する。にもかかわらず、具体的な除去策は示されず、現場は膠着状態。まるで穴の拡張に合わせるかのように、社会全体が重苦しく淀んでいくかのようだった。




