プロローグ
初めての作品投稿です。よろしくお願いします。
なるべく読みやすい文章を心掛けていますが、読み難かったらすみません。
はじめに:
一応、復讐というテーマを扱っているので、あくまで主人公サイドを純粋な善としては描きません。かといって元は被害者である彼らが、悪という訳でもなく、序章の最後あたりで、ヒロイン達がそこら辺の思いを本気でぶつけ合っている描写があるので、それを楽しみに話を読み進めていって頂けたらなと思います。
それから、あまり残酷な描写というのも直接は描かないようにしています。当然、作中で人が亡くなったりはするのですが、読んでいて気分を害すようなグロテスクな描写はきっと無い筈です。個人差はあると思いますが。なのでそういったものが苦手な方でも、ある程度は安心して読んで頂いて大丈夫かと。
――あまり前置きが長くなってもあれなので、そろそろこの辺で。
追記:
当初は8話分で掲載していたものを、1話が長すぎたので第24話にまで分けて投稿し直しました。ついでに漢字のルビ振りと、若干ですが誤字脱字の修正も行っております。ご迷惑をお掛けしました。
――では、本編へどうぞ。
「はぁ……、はぁ……っ!」
やっと、やっと手に入れたんだ……っ!
この自由を……、手放してなるものか………っ!
バクバクと口から飛び出そうなる程に早鐘を打つ、自分の心臓の鼓動を抑えながら、僕は夜の闇に一人紛れ、鬱々と生い茂る暗く深い森の中に、じっと息を潜めていた。
血の滲む左腕が痛む。どうやら思ったよりも傷口が深いようだった。
流れ出る血液を吸い取った衣服は、既に血で赤く染まりきっている。
血が地面に垂れないよう気を遣い続けるのも、最早限界を迎えつつあった。
「居たかっ!?」
「いえ! 見当たりませんっ!」
夜の森を彩る虫達の声を掻き消す様にして、苛立ちを含んだ男達の声が響く。
星空を覆い尽くし茂る、深い緑の天井。
そこから差し込んだ微かな月明かりが、森に男達の銀色の甲冑を照らし出す。
「探せ! まだこの近くに居る筈だっ! なんとしても今夜中に……、国境を越えられる前に! 奴を探し出すのだっ!」
「「ハッ!」」
森に木霊する野太い男達の咆哮を前に、僕は収まりかけていた心臓の鼓動が、またしてもその激しさを取り戻していくのを感じていた。
こんな事になるなら、逃げるんじゃなかった――。
思わず胸を過ぎる、後悔の念。
今更後戻りは出来ないと分かっていても、そう思わずにはいられない。
あそこを逃げ出してから、既に半日近くが経過しようとしているのに、未だ僕を追う追跡の手は止む気配を見せない。
ここまで見付からずに逃げて来られたのは、殆ど奇跡に近かった。
「隊長! 先程、森でこんな物を発見致しましたっ!」
鎧の男達が森に散って行った矢先、遅れてきた一人の兵士が、何かを手に急いで隊長と呼ばれた男の元まで駆け寄った。
「むぅ、これは……、これをどこで見つけた?」
「あちらの方角です!」
遅れてきた兵士が手にしていたのは、一枚の小さな布切れ。薄汚れた白地の布には、まだ乾き切っていない血液の跡がビッシリとこびり付いている。
布の端から滴り落ちる新しい血液の滴が、元の持ち主がまだそう遠くへは逃げていない事を窺わせた。
「よしっ、案内しろ!」
「ハッ!」
号令と共に、去って行く二人の男達。
小さくなっていくその背中を見送ると、森が途端に静かになった様に感じた。
全ての喧噪が去り最後に残されたのは、無人となった森の一画を、月明かりと共に遠くから見つめる僕一人だけだった。
「はぁ~……」
周囲から男達の気配が完全に消え去った後、僕は深い溜息を吐いてその場に崩れ落ちた。
どうやら作戦は上手くいったみたいだ。
もう何度確認してみても、周囲に男達の気配はない。
さっき遅れてきた兵士が手にしていたのは、僕が兵士達の目を欺く為に、わざと捨ててきた布だ。
森を逃げている途中、僕は遠くから近付いてくる大勢の兵士達の気配を察知した。
このままでは逃げ切れないと咄嗟に判断した僕は、どうにかして奴らの目を誤魔化せないかと必死に策を巡らせる。
そうして思い付くままに、僕は懐からナイフを取り出し、着ている衣服の一部を無理矢理引きちぎると、自分の左腕にもナイフを突き立てた。
傷口から流れ出る血液を、切り取った衣服へと染み込ませ、敢えて目に付き易いよう手頃な高さの木にそれを引っ掛けると、僕は急いでその場を後にしたのだった。
所詮は素人の思い付き。こんな子供騙しの偽装が、どこまで本職の人間相手に通じるかどうか十中八九神頼みの賭けだったが、どうやら辛うじて作戦は功を奏したみたいだった。
自分でやった割に思ったよりも傷口が深くて少々焦ったが、お陰で流血にもより本物らしさを演出する事が出来た。これで暫くは連中の目も誤魔化せるだろう。
「戻って来て……、ないよな?」
僕はおっかな吃驚と木の陰から顔を覗かせ、もう一度、兵士達が去って行った方角を確認する。
耳を澄ませば、まだ遠くで微かに人の動く気配は感じられるが、この距離なら多少動いたところで、向こうに此方の存在を気取られる心配も無いだろう。
「逃げなきゃ………」
鉛の様に重たい自分の手足を引き摺り、僕はゆっくりと茂みの中を歩き出した。
あの兵士達の目が他へ向いている今の内に、少しでも距離を稼いでおかなくては。
地の利は完全に向こうにある。
時間が経てば経つ程、こちらが不利になる一方だった。
時間が経っても尚、ズキズキと痛む左腕の傷口を押さえながら、僕は鬱蒼と生い茂る森の雑草に身を隠し、地面を這う様にして森を進んだ。
木の根に足を取られては何度も転び、時には衣服を泥だらけにしながらも、決して歩みを止める事だけはしない。
「こんな、ところで……、終わってたまるか! せっかく……、せっかくここまで来たのに……。あと少しで、自由に……、なのに、こんなところで……っ!」
身体はとっくに限界を迎えている。
あとは、僅かに折れ残っている自分の心だけを必死で奮い立たせて、僕は一歩一歩前へと進んだ。
先の見えない暗闇の中に差す、微かな月明かりだけが、ただ一つ残された僕の縁だった。
ここまで目を通して頂き、ありがとうございます。
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