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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
最終章 そして、白い鳥たちは大空へ向かう
96/111

6.


「放火……ですか?」


 お昼休みに中庭にみんなで集まりお昼ご飯を食べていると、亜里沙が近所で放火事件があったこと話した。


「えぇ。自転車が黒焦げになったって言う話よ。傍にライターも落ちていたから放火だろうってことみたいだわ」


 亜里沙がパンを齧りながら淡々と話す。


「……し……静也くん!!」


 急に颯希がキラキラ目をさせて静也の方を向く。


「ちょっと待て、颯希」


 颯希が何を言おうとしたか分かったので、静也が慌てて制止させる。


「今俺たちは十二年前の放火事件を調べてるんだぜ?他の事件を調べる時間が取れるわけねぇだろ!!」


「……ダメ……ですか?」


 静也の言葉に颯希が叱られた犬みたいにしゅーんとなる。


(その顔、絶対反則だろぉー!!)


 颯希のしゅーんとした顔が静也の心の中を搔き乱す。


「じ……時間が取れたら……捜査……しよう……」


「ありがとうございます!!」


 颯希の顔に負けて静也が苦渋の決断をすることにし、時間を取って不審火の捜査も行うことを言うと、颯希は満面の笑みでお礼を言った。


(ち……ちくしょう~……、可愛すぎるぜ……)


 満面の笑みの颯希を見て静也が心の中でそう呟く。


「あっ!そういえば、あの犬はどうしていますか?」


「「「犬……??」」」


 颯希の言葉に美優たちの頭の上にはてなマークが浮かぶ。


 颯希は捜査の途中で犬を見つけ、病院に連れて行ったことやその犬を静也が引き取ったことを話す。


「……まぁ、ご飯もしっかり食べていたし、だいぶ良くなったと思うぜ?近いうちに散歩も出来ると思うよ」


 静也の言葉に颯希がホッと胸を撫で下ろす。


「ふふっ。じゃあ、その犬は颯希ちゃんたちと一緒にパトロールするのかな?」


 美優がおっとりした口調で楽しそうに話す。


「そうですね!パトロール犬になって一緒にパトロールしたいですね!」


 颯希がウキウキとした様子で言葉を綴る。


「じゃあ、名前を考えなきゃな!」


 来斗の提案でみんなでなんていう名前にするか決める。


「うーん……、パトロール犬にするなら強そうな名前の方がいいかな?」


 雄太の言葉にみんなで名前を出し合う。


 マメ、コタロー、サブ……などいろいろ名前を上げるがどれもピンとこない。


「……ハリケーンってどうかな?」


 雄太がポツリと言う。


「ハリケーンって台風のハリケーンか?」


 静也がそう尋ねる。


「うん。なんとなく強そうな感じしない?」


 雄太が微笑みながら言う。


「ハリケーン……ハリケーン……」


 颯希がその名前を何度も復唱する。


「……ハリケーン……良いかもしれないです!その名前にしましょう!!」


 その名前が気に入ったのか颯希が声を張り上げて言葉を綴る。


「確かに強そうだし、かっこいい名前かもな」


 静也も同意らしく、その名前が気に入った様子だ。


「じゃあ、ハリケーンに決定だね」


 雄太が穏やかに言う。


 こうして、犬の名前は「ハリケーン」となった。


「あら?♪なんの話かしら?♪」

「ハリケーンって何?♪」


「月子ちゃん!月弥くん!」


 突然現れた月子と月弥の登場に颯希たちが一斉に二人の方へ顔を向ける。


 颯希は例の犬の名前をみんなで考えていたことを話し、名前がハリケーンに決まったことを話す。


「へぇ~♪いい名前じゃない♪」

「確かに強そうな名前だね♪」


 話を聞いた月子と月弥がそう褒め称える。


「あ……、そういえば聞きたかったのですが、月子ちゃんと月弥くんは双子ですよね?なのになぜ誕生日が違うのですか?」


 この前の現場の後で寄ったコンビニで月子から聞いた誕生日のことを聞いてみる。


「あぁ、ママからそういう症例は少ないけど、確かにあるって聞いたわよ?確かに調べてみたらそういう例はいくつかあったわ」


「へぇ~……、そんなことがあるのですね」


 月子の言葉に颯希が不思議そうな表情をする。隣で話を聞いている静也はその話に何も言わないが、どこか腑に落ちない表情をしている。月弥がその表情に気付き、困ったような顔をすると、静也に「何も言わないでね」というようなジェスチャーをした。


(……やっぱり、なんかありそうだな……)


 静也がそう心の中で呟く。


 こうして、みんなでワイワイとしながらお昼休みを過ごし、午後の授業が始まりチャイムが鳴り響いた。




「ただいまです!!」


 今日は月子と月弥は用事があるとかで放火事件の捜査が流れたので、颯希は学校が終わると家に帰った。


 玄関を入ると、見知らぬ靴が二足あったので誰かお客でも来ているのだろうかと思い、挨拶をするためにリビングに行く。


「あら、おかえり颯希」


「ただいま、お母さん」


「娘の颯希よ。こちらは昨日話したお母さんが仕事でお世話になっていた杉下すぎしたさんとその娘のかえでさんよ」


 佳澄に紹介されて二人が軽く会釈をする。


「初めまして、娘の颯希と言います!」


 颯希が元気よく挨拶をする。


「あらあら、元気のいい娘さんね」


 母がお世話になったという杉下が朗らかに言う。年齢は五十代後半くらいだろうか。髪を短くしているがきちんと手入れされていることが伝わってくるような品がある感じの女性だ。娘の楓も、どこかおっとりしていて穏やかな雰囲気がある。年齢も二十代後半か三十代くらいだろう。長めの髪を一つに括り、薄くメイクをしている。


「良かったら颯希も一緒に話に入る?」


 佳澄に促されて颯希もその場で一緒にお喋りをすることになった。


「……へぇ、颯希ちゃんは将来警察官になるためにパトロールをしているんだね」


 颯希の話を聞いて楓が感心したように言葉を綴る。


「はい!警察官になるための訓練の一環なのです!でも、楓さんもすごいです!今は障がい者の福祉施設で働いているのですよね?」


 颯希が昨日佳澄から聞いた話を思い出して興味津々で尋ねる。


「えぇ。私自身がかなりいろいろあったからね。だから、それでも諦めないで欲しいという願いを込めて障がい者福祉施設の職員になったの。精神状態ってね、悪化しちゃうとなかなか良くならなくて、そこで諦めちゃう人も沢山いるんだ……。でも、いつか良くなるって信じていれば時間はかかっても良くはなっていく……。私はそれを自分で証明できたから、同じように苦しんでいる人や、良くなることを諦めてしまった人たちに少しでも希望になりたくて今の仕事を選んだの。諦めなければいつか優しい光が見えることを伝えたくてね……」


 楓が微笑みながら掌を合わせて祈るようにそう言葉を綴る。


「とても素敵ですね……。きっと楓さんに救われた人が沢山いると思います。頑張ってくださいね!」


 颯希が楓にエールの言葉を送ると、急に席を立ち、ガッツポーズを作りながら意気揚々と言葉を発した。


「私も地域の人のためにパトロールを頑張るのです!!」


 楓の話を聞き、颯希がパトロールを頑張ろうと決意する。


 それからも四人で談笑は続き、夕刻に差し掛かると杉下親子は結城家を後にした。




「わわっ!暴れるなっ!」


 その頃、静也はハリケーンの身体をお風呂場で綺麗に洗っていた。ハリケーンはお風呂が水遊びと勘違いしているのか、はしゃいでいるので静也がなかなかハリケーンの体を洗えないでいる。


 なんとか時間がかかったものの体を洗い終えて、ご飯を与える。


「沢山食えよ。良くなったら散歩にも連れてってやるからな」


 静也がハリケーンの頭を撫でながら言葉を綴る。


「静也、ハリケーンの身体は無事に洗えたのか?」


 そこへ、拓哉がハリケーンの様子を見にやってきた。


「うん、なんとかな」


「そうか。良かったよ」


 静也の返事を聞いて拓哉が安心した表情を見せる。そして、静也に懐いているハリケーンを見て言葉を綴る。


「動物を飼うことはいいことだからね。しっかり面倒見なさい」


「おぉ!」


 拓哉の言葉に静也が元気よく返事をする。


「いや~。子供ができた時の予行演習みたいだね!」

「……は?」

「颯希ちゃんとの子供も元気だといいね!」

「あ……いや……」

「静也はいいお父さんになりそうだね!」

「え……えっと……」

「父さんがお爺ちゃんになったら、しっかりサポートするから安心してね!」

「な……な……」

「早く孫の顔が見たいなぁ~♪」



「な……なに言ってやがんだぁぁァァァ!!!」


 拓哉の言葉に静也が顔を真っ赤にしながら叫ぶ。



 相変わらずの親子漫才を広げながら、ひと時を過ごす。ハリケーンは二人の様子を気に留めることなくバクバクとご飯を平らげていた。




 夜遅くに悠里と友理奈がいつものようにパソコンで会話をしている。


ユウ『一度、ユリに会ってみたいな。ユリは何処に住んでいるの?』


ユリ『私は桜台町ってところに住んでるよ。でも、会うのは怖い』


ユウ『割と近いね。僕は隣の桜町だよ。会うの怖いって、どうして?』


ユリ『この醜い顔を晒したらユウに嫌われそうだから……』


ユウ『火傷の後だよね?なんでそんな大きな火傷を負ったの?』


ユリ『親の話では、私が五歳の時に庭でバーベキューしていてその時に火を被ったみたい』


ユウ『みたい?』


ユリ『私、当時のことを覚えていないの。お医者さんが言うにはあまりのショックで記憶を無くしたんだろうって……』


ユウ『そっか……。ごめん、デリカシーのないこと聞いて……』


ユリ『ユウならいいよ』


ユウ『ありがとう。あ、タバコ切れたから買いに行ってくるよ』


ユリ『分かった』


 悠里はそう言うと、パソコンを閉じ、家を出た。辺りは真っ暗で時間のせいか殆ど人も歩いていない。その暗がりの道をひっそりと歩いていった。




「……私もユウに会えるなら会ってみたいな」


 友理奈がポツリと呟く。



 ――――ピロン!



 パソコンから音が鳴ったので友理奈が画面を確認する。すると、玲が入室したことを告げていた。


レイ『こんばんは。ユリさんは火傷をしているみたいだけど、大丈夫?』


 玲が先程までの悠里と友理奈のやり取りを見て心配して聞く。


ユリ『大丈夫というか……、この火傷で周りには変な目で見られたよ』


レイ『五歳のときなんだね』


ユリ『うん。だから、もう十二年前だよね』


レイ『十二年前……』


ユリ『そうだよ。どうして?』


 友理奈がそう打って玲の返信を待つ。しかし、なかなか返信がない。友理奈は何か用事ができたのだろうと特に気に留めることなく、サイトを閉じた。



「……十二年前……か……」


 ポツリと玲が呟いた。




 深夜。

 

 一台のバイクが炎に包まれながら黒煙を吐き出していた。


 一人の男がその様子をほくそえみながら見ている。


 そして、そっとその場を去っていった……。




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