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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
最終章 そして、白い鳥たちは大空へ向かう
93/111

3.


「……私のこんなボロボロの身体をさらけ出すことできるわけないよ……」


 身体中にある火傷の後、左目は光を失い眼帯で覆っている。友理奈の身体は見ているだけでも痛々しいくらいの姿だった。


 体中にやけどを負って以来、家からほとんど出ていない。それでも、最初の頃は両親と共に食事を摂っていたが、成長していくにつれてその頻度が減っていた。そして、今では部屋から出ることもなく、食事も自分の部屋で取るようになっていく。有子と友理奈の父親も何とかしてあげたいが、火傷の痕を治療するとなると莫大なお金がかかり、そんなお金を工面することができないことを辛く感じている。何とか前を向いて欲しくていろいろやってみたが、友理奈はそうすればそうするほど、どんどんと心を閉ざし、両親と口を利くことも減っていった。


 食事を有子から受け取ると、何も言わずにドアを閉める。


「友理奈……」


 娘の態度に有子が苦しみを感じる。あの時、なぜ近くにいなかったんだろう……と、娘を守れなかったことを後悔する。


 友理奈は十七歳になっており、本来なら高校生だった。しかし、小学校も中学校もその火傷が原因でほぼ行っていない。


 友達もいない……。


 もし、いるとすればネットで知り合った心や身体に傷を負っている人たちだけだった……。




「おっはよー!!」


 颯希が元気に教室の扉を開ける。


「おはよう、颯希ちゃん」

「はよー、颯希」


 美優と亜里沙がそれぞれ返事をする。


「……あれ?颯希ちゃん、なんだかちょっと顔が赤い気がするけど大丈夫?熱があるんじゃないの?」


 美優が何となく颯希の顔が仄かに赤いことに気付き、心配そうに声を出す。


「そ……そんなことないのですよ!!」


 美優の言葉に颯希が慌てて否定する。


 実は昨日の夜の佳澄の言葉で恋愛の話に慣れていない颯希はドキドキしてあまり眠れなかったのだった。颯希の中で「好き」とか「愛している」という言葉は自分がまだ中学生だからよく分かっていないところがある。思春期なのでそんな感情を持っていてもおかしくないのだが、颯希の中ではいまいちその「恋愛感情」がどういうものかという事が掴めないでいた。


「……静也が月子を好きになったりして……」


「え……」


 亜里沙の突然の発言に颯希が固まる。傍にいる美優もその言葉に唖然としてした表情をしている。


「ねぇ……颯希……、月子じゃなくても、もし、静也が他の子と付き合ったらどうする?」


「え……えっと……」


 亜里沙の更なる言葉の追い打ちに颯希がどう言葉を綴っていいかが分からなくなる。


「だって、颯希と静也は付き合っているわけじゃないでしょう?なら、静也が他の子と付き合っても文句は言えなくなるわよ?」


「……えっと……」


 亜里沙の言葉に颯希は戸惑いを隠せない。傍にいる美優はハラハラしながらその様子を見ている。颯希の表情がどんどんと暗くなっていく。


「ごめんごめん♪ちょっと意地悪だったわね♪」


 亜里沙が微笑みながら少し泣きそうになっている颯希の頭を撫でる。


「あっちゃん……」


「……颯希、自分の気持ちには正直になりなさい。中学生が恋しちゃダメなんてことは全くないのよ?」


 亜里沙が優しく颯希に問いかける。その様子に美優も少し安心したのか、胸を撫で下ろした。


 そして、始業を知らせるチャイムが校内に響き渡った……。




「……これも怪しいですね。後、こちらも……」


 呉野が資料に目を通しながら怪しい事件の資料にチェックを入れていく。


「なんで、誰にも怪しまれずに済んだんだ……?」


 木津もその資料を確認しながら不思議に感じている。


「何者かが隠滅を図ったという事でしょうか?」


「可能性はあるだろうな……」


「とりあえず、ピックアップした人たちを調査してみましょう」


「あぁ、そうだな」


 木津と呉野は資料室を出ると、疑惑の人たちの調査をするために部屋を出た。




「……颯希、何かあったのか?」


 いつものようにお昼休みに中庭に集まると、静也が颯希の様子がおかしいことに気付き声を出した。


「い……いえっ!何もないですとです!!」


 颯希が変な日本語になりながら返事をする。静也はその返事にはてなマークを浮かべている。そして、傍では亜里沙がにんまりと笑っている。


 どことなく静也が颯希の様子で不安になっていく。


(……俺、なんかしたかな?)


 ちょっと不安になり、心の中でため息を吐く。


(うぅ……。なんだかいつものように静也くんの顔が見れないのです……)


 同時に颯希も心の中でどぎまぎしながら呟く。


 ちょっと顔を赤らめている颯希に少し不安そうな静也を見て亜里沙が心の中で呟く。


(頑張りなさい、颯希)


 一人だけ楽しそうに心の中でそう呟く。


「どもども~♪」

「やっほ~♪」


 そこへ、月子と月弥が現れた。


「颯希ちゃん、静也くん、昨日はありがとう♪今日もよろしくね♪」


 月子が嬉しそうにそう言葉を綴る。そして、颯希の様子を見て月子が更に言葉を綴った。


「……って、颯希ちゃん、何かあったの?」


「いえっ!何もないのですとよ!」


 変な日本語が治らないのか、颯希が慌てて言葉を発する。


 その様子に月子と月弥がはてなマークを浮かべるが敢えて聞かないことにする。


「……ところでさ、次はどうやって調べるんだ?」


 そこへ、静也が放火事件のことで何を調べるかを月子に問う。


「そうねぇ~……。火事があったわりと近くの住人に聞き込みとかどうかしら?」


 月子の提案に静也が「分かった」と頷く。


 こうして、今日も捜査に乗り出すことになった。




 一人の青年が薄暗い部屋の中でパソコンを打っている。


『なんでこんな世の中なんだろ』


 あるサイトにそう言葉を書き込む。すると、すぐに別のユーザーから返事が届く。


『そうだね。世の中って冷たいよね』


 そう言った内容をやり取りしていく。そして、青年がタバコを吸おうとして、タバコが切れていることに気付き、パソコンをいったん中断して買いに行くための準備に取り掛かった。


 準備が終わり、家を出ようとした時、青年の母親が声を掛けた。


「……悠里ゆうり、出掛けるの?」


 母親が心配そうに声を掛ける。


「……タバコ」


 悠里はそう一言だけそう発すると、家を出ていった。




 友理奈は薄暗い部屋の中でパソコンを使っていた。


「……あ、返事来た」


 そう小さく呟く。


 数年前に偶然見つけたサイトで「ユウ」と名乗るユーザーと仲良くなり、こうやってメッセージのやり取りをしている。きっかけは、ユウの書き込みを見た時だった。


『なんで、異端者は世の中から爪弾きにされるんだろう』


 その書き込みを見て、友理奈はその人にメッセージを送ると、すぐに返事が来て「良かったらメッセージのやり取りをしませんか?」と書かれていたので、友理奈は自分のユーザーを「ユリ」と名乗り、こうして悠里とのメッセージのやり取りが始まった。


ユウ『ホントだよな。世の中冷たい人間だらけだな』


ユリ『みんなと違うって言うだけで冷たい目で見られるよね』


ユウ『世間なんてそんなもんなんだろうな』


ユリ『体中火傷の痕で周りには気味悪がられる』


ユウ『俺もみんなと違うというだけで気味悪がられる』


ユリ『私たち、似た者同士かもね』


ユウ『そうかもな』


ユリ『ユウって心が綺麗な感じがする』


 友理奈がそうメッセージを送り、返事を待つ。


「どっかに出かけたのかな……?」


 友理奈がメッセージの返信がすぐにないことから、悠里が出掛けたのだろうと思い、パソコンの電源を一旦切る。


「ユウに……会ってみたいな……」


 友理奈がポツリと呟く。


「なんて……こんな姿見たら気味悪がられるだけだよね……」


 そう呟きながら自嘲気味に笑う。


 なぜ、こんな醜い体になってしまったのか……。


 ぐるぐると辛い感情が頭を駆け巡っていった。




「それでは、聞き込みを開始しましょう!!」


 颯希が声を張り上げて元気よく言う。


 お昼休みはおかしかったが、昼の授業が気分を安定させたのかいつも通りの颯希に戻っていた。なぜなら、昼の授業の一つは「町の防犯」というタイトルの授業があったからである。


「……で、聞き込みのターゲットはどうやって絞るんだ?」


 静也がそう疑問の声を上げる。


「あら♪それは簡単よ♪」


 月子がそう言ってニコニコ顔で語りだす。


「ターゲットは年配の人が無難だと思うわ♪若いママとか、それ以上若いと、事件のことを知らない可能性もあるしね♪結婚して引っ越してきた人でまだ子供が小さいとなると事件自体を知らないんじゃないかしら?なら、もう長くそこに住んでいそうな人をターゲットに絞るのが一番妥当だと思うわ♪」


「確かにそうかもしれませんね!それでは、年配の方を中心に事件のことを聞いてみましょう!」


 月子の言葉に颯希が納得して、ターゲットを年配の人に絞り事件を捜査していくことにする。


 そして、聞き込みを開始した。




 ある男が監禁されていた。


 そして、部屋にあるベッドで布団を被りながら蹲っている。


「……死ぬまでこんな日々なのかな……」




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