4.
「ど……どうしたんだよ?!その顔?!」
朝の下駄箱で来斗の顔を見た静也が大きな声を上げた。後から来た雄太も来斗の顔を見てギョッとする。それもそのはずだった。来斗のおでこには大きなたんこぶができている。
「あぁ………、今日の登校途中で躓いてさ、思いっきり顔面をぶつけたんだよ……」
来斗がたんこぶを擦りながら痛々しそうに答える。
「…でも、来斗くんなら持ち前の運動神経で避けれるんじゃあ……」
雄太が意外という感じで言葉を綴る。
「あー……、それがさ、急に縄が足に引っ掛かったんだよ……」
「それって……まさか……」
来斗の言葉に静也が言葉を詰まらせる。
「……来斗くんに怪我させるために誰かがわざとやった可能性がある……てことだよね?」
雄太が静也の言葉を補足する。
「おはようございます!……って、どうしたんですか?!その怪我?!」
颯希が静也たちを見かけて声を掛けると同時に来斗のおでこに出来ているたんこぶに颯希が驚きの声を上げる。
「はよー……、って、あら?来斗の顔がいつもより不細工になっているけど気のせいかしら?」
そこへ、学校に到着した亜里沙が来斗を見て辛辣な言葉を投げかける。
「てめぇ……、ちったぁ心配しろよ……」
亜里沙の言葉に来斗が低い声で唸るように言う。
「なんでよ?」
「こんな怪我してんだぞ!少しは慰めの言葉くらいかけれんのか?!」
「そうねぇ……。まぁ、頭ぶつけて少しでも賢くなるといいわね」
「ちがーう!!なんでお前はそう冷たいんだよ!!」
「じゃあ、馬鹿なのにさらに馬鹿になって可哀想に……って慰めた方がいいかしら?」
「思いっきり馬鹿にしてんじゃねぇか!」
「あら?私的には落ち込まないように声を掛けたつもりだけど?」
クールな亜里沙と熱血な来斗のかみ合わない会話が延々と続く。
「……おーい、そろそろ教室行かないと授業始まるぜ?」
なかなか終わらない二人の会話に静也が声を掛けて教室に向かう。すると、廊下の途中で美優を見かけた。
「げっ!!なんで、あいつらが美優といるんだよ?」
美優の傍にいる月子と月弥を見て静也が怪訝な声をあげる。しばらくすると、双子は去っていった。
「あっ、みんなおはよう!……って、どうしたの?!その怪我?!」
美優が颯希たちに気付いて声を上げた同時に、来斗のおでこのたんこぶを見て声を上げる。そして、来斗が事の顛末を話すと、美優が心配そうに声を出した。
「……そう、そんなことがあったんだね……。大丈夫?保健室に行かなくていい?」
美優の優しい言葉に来斗がジーンとして美優の頭を撫でる。
「美優は優しいな~……。誰かさんとは大違いだ……」
美優の頭を撫でながら来斗が言葉を綴る。
「来斗くん♪あまり女性の頭を気安く触るもんじゃないよ?」
雄太がにーっこりとしながら満面の笑顔で言葉を掛ける。
「わ……悪い……」
来斗が慌てて手を離し、謝罪の言葉を述べる。雄太は笑顔だが何だかその笑顔が怖くなって来斗がその笑顔に恐怖の顔をする。
「気のせいでしょうか?何となくですが雄太くんの後ろに般若様が見えるのは??」
颯希が雄太の後ろに見える般若を見てはてなマークを浮かべる。
「そうね、いるかもしれないわね」
亜里沙が颯希の言葉に同意する。
(……雄太は怒ると滅茶苦茶怖いからなぁ~……)
静也が心の中で静かに言う。
そこへ、始業を知らせるチャイムが鳴り響き、みんなは各教室に入っていった。
お昼休みに入り、みんなで中庭に集まりお喋りしながらお昼ご飯を食べる。
「……はぁ、なんか朝から災難だぜ……」
来斗がため息を吐きながらお弁当のミニハンバーグにかぶりつく。
「でも、一体誰がそんなことしたんだろうな?」
静也が唐揚げを口に放り込みながら言う。
「顔とか見なかったの?」
亜里沙が購買で買ったであろうパンを齧りながら言う。
「見てねえよ……。今日はやたら怖い視線も感じたし、なんだか嫌な日だぜ……。今日の運勢、最悪なんかな?」
深く息を吐き、たんこぶの上に貼られたでかい絆創膏を撫でる。
実は、あの朝の後で教室に入ったら担任の先生が来斗のたんこぶを見てすぐに保健室で手当てしてもらうように促したのだった。そして、保健室に行った保健の先生は驚いたものの「こんなの絆創膏貼っとけばすぐに治る」と言ってどでかい絆創膏を貼られて治療は終了。担任の先生は何があってこんな怪我をしたんだと聞いてきたが深くは言わずに「転んだ」とだけ言って脅迫状のことは伏せておいた。
そうやってワイワイしながらお昼休みを過ごしている時だった。
「あっ!いたいた♪」
「どうも~♪」
「げっ!なんでお前らがここにいんだよ?!」
突然出てきた二人組の登場に静也は明らかに怪訝な顔をする。
「月子ちゃん!月弥くん!」
双子の登場に颯希が声を上げる。
「ホントに中庭にいたのね♪すぐに見つかって良かったわ♪」
月子が弾むような声で言う。
「な・ん・で、俺たちが中庭にいるってわかったんだよ?」
明らかに不機嫌モードになっている静也が月弥の方に食い掛るように言葉を綴る。
「そんな怖い顔するなよ、静也くん♪王子の顔が台無しだよ?」
「もう、王子じゃねぇよ」
「いやいや♪機会があれば続編をしようと思っているんだから王子のイメージを壊さないでくれよ♪」
「二度とするかよ」
「そんなつれない事を言わずに、ね?♪」
「……締めんぞ?」
「王子がそんな乱暴な言葉使ったらダ~メ♪ね?♪」
相変わらず軽い調子で月弥が綴る言葉を静也が不機嫌モードで返す。
「ご……、ごめんなさい……。二人に聞かれて私が教えたの……」
静也が不機嫌なことに美優はこの場所でお昼を食べていることを伝えたのがダメだったかなと思い謝罪の言葉を述べる。
「……もしかして、朝のあの時?」
雄太が今日の朝、始業のチャイムが鳴る直前に美優が双子と居たことを思い出して聞く。美優はそれに対して頷いた。
「まぁ、聞くなら美優ちゃんが一番素直に教えてくれそうだったからね♪」
月子が勝ち誇った態度で言う。どうやら一番大人しくて答えてくれそうな美優を捕まえて聞き出したらしい。
「……汚ねぇぞ」
「あら♪策略家と言ってよ♪」
静也の言葉に月子が胸を張って言う。
「……で、俺たちに何か用があんのか?」
来斗がパックの牛乳を飲みながら言う。
来斗の言葉に月子がにっこりと微笑みながら言葉を綴った。
「種を貰いに来たのよ♪」
「「「は?」」」