3.
「脅迫状が届いた?」
昼休になり、颯希たちがいつもの場所でお昼休みを過ごしていると表情の暗い来斗が項垂れるように下駄箱に脅迫状が入っていたことを話す。
「どんな脅迫状なの?」
亜里沙がそう尋ねたのでその脅迫状を来斗が見せる。
『お前は妃に相応しくない』
手紙は雑誌の文字を切り取って一文字一文字貼り付けられていた。今でもこんなことをする奴がいるのかとも思うが、いるのだろう。文字の周りにはどこかの雑誌で特集していたのだろうか?血の滴っている絵の切り抜きが散りばめられている。
「はぁ……、一体何のことだよ?」
来斗がため息を吐きながら暗い表情で言う。
「……妃ってことはこの前の劇の関連かな?だとしたら、来斗くんの妃は美優さんってことになるよね?」
「私?!」
雄太の言葉に美優が驚きの声を上げる。
「……てことは、犯人は美優が好きな男ってこと?」
亜里沙がそう推測する。
「まぁ、妥当に考えればそうだろうね……」
雄太がそう答える。
「でも、劇でってだけだろ?!」
来斗が半分怒りモードでそう声を荒げる。
「……ただ、場合によっては美優さんも危険かもしれないね……」
雄太の言葉にみんなが一斉に顔を美優に向ける。
「だってさ、来斗くんにこんな脅迫状を送るってことは、相手は過激な人間かも知れないよ?美優さんにも何かしてくるかもしれない……」
雄太の言葉にその場がシーンとなる。確かにその可能性は考えられる。美優も場合によっては狙われる可能性があるかもしれない。
「まぁ、しばらくは僕が美優さんを送り迎えするよ」
「え?でも、迷惑になるんじゃあ……」
雄太の提案に美優が申し訳なさそうに言葉を綴る。
((あれ……?美優が好きなら狙うのは雄太じゃないのか……?))
二人のやり取りにその場にいる颯希以外が心でそう思う。
「とりあえず、今日から僕が送り迎えするよ。心配だからね」
雄太が微笑みながら美優に話す。
「あ……ありがとう……。ごめんね……」
「謝る事じゃないよ。だから気にしないでね」
なんだかいいムードを醸しながら二人が会話する。
((なんでこれで付き合ってないんだろう……))
颯希以外、全員一致でそう感じる。
「しばらくは様子を見ましょう!」
颯希がそう締めくくり、脅迫状の話は一旦切り上げられた。そして、落ち込んでいる来斗をみんなで励ましながらお昼休みを過ごす。
そして、チャイムが鳴り響き、午後の授業が始まった。
「……じゃあ、帰るかぁ~」
来斗がけだるそうに言う。
放課後、下駄箱に集まった颯希たちはみんなで帰路に着いた。みんなでワイワイとお喋りしながら道を歩く。
「今日も無事に学校が終わりましたね!」
颯希がいつもの表情でそう言葉を綴る。
「えぇ、そうね。まぁ、一名だけ、そうではなかったみたいだけど……」
亜里沙がそう言って来斗に視線を移す。
「……うるせぇ」
来斗が亜里沙の言葉に睨み返すように言う。
しばらく、そんなやり取りをしながら道中を歩く。
「……じゃあ、僕たちはここで。美優さん、家まで送っていくね」
雄太がそう言って、美優と雄太が颯希たちと離れる。
「……あいつら、あれで本当に付き合ってないのかよ」
美優たちが行ってから、静也がポツリと呟く。
「まぁ、そうなんだろうな……」
来斗も「不思議だ」という感じで静也に同意する。
「まぁ、人それぞれだしいいんじゃないかしら?」
亜里沙が特に気に留めることなくさらっと言葉を言う。
「……えっと?どういうことですか??」
颯希が何の話か分からないという感じで頭にはてなマークが飛び交う。
「「「まぁ、気にするでない」」」
颯希の言葉に静也たちが声を揃えてそう言葉を綴る。
「じゃあ、俺たちはこっちだから」
静也がそう言って颯希と共に亜里沙と来斗に「また、明日」と言って離れていく。
「……あいつらも仲いいけど、静也の片思いなんだよな?」
颯希たちが去ってから来斗が呟く。
「多分、両思いだと思うわよ?」
「えっ?!」
亜里沙の言葉に来斗が驚きの声を出す。
「ただ、颯希のことだからもやもやしたりドキドキしたりする感情が恋だということには気付いていないでしょうね。おそらく、『何か悪いモノでも食べたのかな?』っていうくらいにしか捉えてないと思うわよ?」
亜里沙の言葉に来斗があんぐりと口を開く。
「……マジかよ」
「恋の話とかそういうのに興味なかったし……。そういう感情がどっか抜けているのよね……」
亜里沙が淡々と話す。
「……てことは……」
来斗が急に真剣な表情になって話始める。
「雄太と美優。静也と颯希。後は俺たちがくっつけば完璧だな……」
「……は?」
真剣な顔になって何を話し始めるのかと思いきや、訳わからないことを言い出して亜里沙が怪訝な顔をする。
「なに魚ができもしないタコ踊りをしているような事を言っているのよ?」
「なんじゃそりゃ?!」
「世界がひっくり返ってもあんたみたいな運動バカと付き合うことは無いから」
「ひっでー!!」
「あんたの脳みそって幼稚園児だしね」
「そこまで言う?!」
亜里沙の数々の言葉にノックアウトされた来斗が再起不能の状態に陥る。
「……来斗。私と付き合おうだなんて百億光年早いわ!」
亜里沙がそう言ってバッと扇子を広げて優雅に微笑む。
「どっから扇子が出てきたんだよ?!」
来斗が叫びながら突っ込む。
「そうねぇ~、下僕にするのなら考えてあげてもいいわよ?」
そう言って、扇子で来斗をよしよしする。
「な・る・か・よ……」
来斗が怒りモードで低い声を出しながら反論する。
「……ま、とっとと帰るわよ♪」
亜里沙がくるっと回って帰るように来斗を急かす。
「……わーってるよ」
来斗がため息を吐きながら亜里沙の横に並んで帰り道を歩く。
その時だった……。
ゾワッ……。
「――――っ!!」
来斗が何かを感じたのか、身震いをする。
「来斗?」
来斗の様子が変なことに気付き亜里沙が声を掛ける。
「……なんか、ヤな視線を感じたような……」
「気のせいじゃないの?」
「……だと思うけど」
ヤな視線を感じながら帰り道を亜里沙と歩く。
そして、T字路のところで亜里沙とさよならをして来斗は家に帰っていった。
しかし、この日を境に来斗の身に奇妙なことが次々と起こりだしたのだった……。