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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第五章 花を愛でる小人たちは悲しみの雨を降らせる
72/111

8.


「……じゃあ、息子さんが何をしていたかは分からないという事ですか?」


 颯希たちは前田の自宅に伺っていた。雄太の母親が顔見知りという事もあり、雄太のことも知っていたので前田宅に訪れて事情を聞く。しかし、前田の母親は何も知らないという事だった。


「えぇ……。警察の方が来て集団で女性に暴行を加えていたという話を聞いたときは驚きを隠せなかったわ……。まさか、そんなことをしてただなんて……」


 母親が悲痛な表情をする。


「えっと……、息子さんが亡くなった人以外でつるんでいた人って誰かご存じないですか?もし、少しでも知っていることがあったら教えて頂きたいのですが……」


 颯希の言葉に前田の母親が頭を巡らせる。


「あっ……」


 何かを思い出したのか、口を開く。


「いつだったか仕事の帰りに息子を見かけたことがあるのよ。同じくらいの年齢の男の子と一緒だったわ」


「その方の名前は分かりますか?!」


 前田の母親の言葉に颯希が身を乗り出して聞く。


「えっと……確かオカモトって呼んでいたと思うのだけど……。その子はいかにも普通の感じの子で悪い感じがしなかったから印象に残っていたのよね……。私が、カツアゲしてるんじゃないでしょうねって息子に聞いたら、そんなんじゃないって言って、中学の時の同級生だって言ってたから……」


 前田の母親の言葉に颯希たちは頷き合う。


「……良かったら中学のアルバムを見せてもらえませんか?」


 雄太がそう言うと、母親はアルバムを取りにリビングを出ていった。


「もしかしたら、そのオカモトが今回の犯人の可能性はないか?」


 母親が出て行ってから静也が小声で颯希と雄太に問いかける。


「うーん……。今の段階では何とも言えないけど、可能性はあるかもしれないね……」


 雄太が静也の言葉に思案する。


「とりあえず、そのオカモトさんに会ってみましょう……」


 颯希の言葉に静也と雄太が頷く。


 そこへ、母親がアルバムを手に戻ってきた。アルバムを捲りながらそのオカモトの写真を探していく。


「あ……この子よ……」


 母親が一つの個人写真を指さす。そこには「岡本 竜司」と名前が書かれてあった。颯希たちがその写真を覗き込む。確かに普通の感じの子でどちらかと言うと大人しい感じにも見える。


 颯希たちはお礼を言うと、前田宅を後にした。そして、アルバムにあった住所を頼りに岡本宅に行ってみる。


「……そういえば、雄太くんは何故今回の捜査に参加することにしたのですか?」


 颯希が今回の捜査に雄太が参加したいと言い出した理由を問う。雄太はその質問に答えようかどうか悩む。


「……雄太、無理に話す必要は無い」


 静也が言う。


「ありがとう、静也くん。でも、大丈夫だよ。実はね……」


 雄太がそう言って静かに話し始めた。


「僕には姉がいたんだ。真莉愛って名前なんだけど、姉が高校生の時に電車に轢かれて死んでいるんだ……。事故として処理されているけど、ある日、姉の部屋で日記を見つけてね。それを読んで姉が事故ではなく自殺したんだと分かった……」


「なんでまた……」


 雄太の言葉に颯希が驚きを隠せない。雄太が更に語る。


「姉は、男たちに暴行されていたんだ……。それを苦に自殺したんだと思う……。そのことを知った時は復讐してやるって思った……。でも、静也くんに言われたんだ。『そんなことをしたら真莉愛ねーちゃんが余計に苦しむだけだ』って……。そう言われて、僕は復讐を思いとどまったんだよ……。確かにその通りだよね……。復讐して僕が捕まったら姉さんはあの世でもっと苦しんでいたかもしれない……」


「そんなことがあったのですね……」


「その後、暴行をした犯人たちは逮捕されたよ……。かといって、姉が戻ってくるわけではないけどね……」


「なんで、お姉さんは狙われたのでしょうか……?」


「たまたま、目に付いただけみたいだよ……。大人しそうだったからやったって警察から聞いてる……」


 雄太の言葉に颯希は何も言えない。


 たまたま目に付いただけで暴行された……。ただそれだけの身勝手な理由で自殺に追い込まれて命を絶ってしまった……。


 悲しみが込み上げてくる……。雄太が「死んで当然」と言うような言葉を発したのも納得がいく……。


「今回、捜査に参加したいって言ったのは犯人たちに伝えたいんだ……。そんなことをしても大切な人は浮かばれないって……」


 雄太の話を聞きながら岡本宅へ向かう。


「あ、あの家じゃないですか?」


 颯希が住所を頼りに目的の家を見つけると、指を差した。


「あれ?あの人たちって……」


 岡本宅の家に車を停め、中から出てきたスーツ姿の人物に颯希が声を上げる。


「木津さん!呉野さん!」


 颯希が知っている人だと分かり、駆け寄って声を上げる。


「あれ?君は確か結城署長の……」


 颯希を見て呉野が声を出す。


「はい!娘の颯希です!あの時はお世話になりました!」


 いつぞやの理恵の事件でお世話になった刑事だった。


「いや、君たちのおかげで事件が解決したと言っても過言ではないからな。お礼を言うのはこちらの方だよ。……ところで、君たちがなぜここに?」


 木津がなぜ颯希たちがここにいるのかを尋ねる。


「その……、実は殺された前田さんのお母さんから岡本さんのことを聞いて話を聞きに来たのですよ……」


「……ってことは君たちも今回の事件を調べているのかい?!」


「はい!」


 颯希が笑顔で答える。


「……なんでまたそんな無謀なことを……」


 呉野が半分呆れるように言う。


「私たちは未来の警察官です!なのでこれも訓練の一環なのですよ!!」


 笑顔で答える颯希に木津が重々しく口を開く。


「……今回の事件はあの時以上の事件だ。子供が関わるような事件じゃない……」


 木津の言葉に静也がたじろぐ。


「……分かっています。私たちも遊び半分で事件を調べているわけじゃありません。私たちは犯人にある事を伝えるために事件を追っているのです」


「ある事……?」


 颯希の言葉に呉野が聞き返す。そこへ、雄太が口を開いた。


「復讐なんてしてはいけないという事を伝えたいんです。そんなことをしても大切な人は浮かばれないって……。刑事さんは二年前に起こった暴行事件を知っていますか?」


 雄太の言葉に木津が記憶を辿っていく。


「……まさか、あの電車に轢かれて亡くなった……」


 事件のことを思い出し、木津が声を上げる。


「はい、その事件で被害に遭い、亡くなったのは僕の姉です。許せなかった……。復讐しようと思いました。でも、静也くんが『そんなことをしても真莉愛ねーちゃんが悲しむだけだ。大切な弟に復讐なんかして警察に捕まって欲しいなんて絶対思わない』って、言われて復讐を思いとどまりました。復讐はより悲しみを産むだけです……。だから、犯人たちにこれ以上罪を重ねないで欲しいんです……。その人のことが本当に大切なら……」


「木津さん、呉野さん、無茶なことをしているのは百も承知です。ですが、私たちは私たちで事件を捜査させてください!」


 颯希たちが頭を下げる。


「……一つ、先に伝えておく。岡本も暴行事件の実行犯の一人だ。そのことを頭に入れておいてくれ」


 そして、颯希たちは木津たちと岡本に話を聞くことになった。




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