4.
「あれ、凛花ちゃんじゃありませんか?」
「……へ?」
颯希がちょっと離れたところから海に向って歩いている人影を指さす。その方向には凛花が花束を持って歩いていた。そして、海に花束を投げ入れて手を合わせている。
「やっぱり凛花ちゃんなのです!静也くん、声を掛けましょう!」
颯希がそう言って、凛花の名前を呼び、手を振る。すると、凛花がその声に気付き、こちらに顔を向けた。
「あら、颯希ちゃんに静也くんじゃない。な~んだ。なんだか仲のいい中学生カップルが海を眺めているなぁ~と思ったら、あなたたちだったのね」
颯希たちが凛花の傍まで来ると、凛花が微笑みながら言葉を綴った。
「……海で亡くなったという人は凛花ちゃんの友達だったのですか?」
颯希が幸雄の言葉を思い出して、凛花に尋ねる。
「うん………。美亜先輩は私の高校の先輩でね。バイト先が一緒だったのよ……。とてもいい先輩で、バイト先でも利用者さんに人気があったわ……」
凛花が悲しそうに綴る。
「凛花ちゃんのバイトって何ですか……?」
「あぁ、病院が運営している年配の人を対象とした「憩いの場」よ。私、福祉関係の仕事をしたいから学校からの紹介でそこでバイトしながら勉強しているのよ」
凛花の話に颯希がキラキラとした目で興味津々に聞いている。
「じゃあ、美亜さんって方も将来は福祉関係の仕事に就くためにバイトをしていたのですか?」
「そういうわけじゃないみたい。元々美亜先輩のお母さんがそこで働いてて、美亜先輩を呼んだみたいよ。でも、すごく楽しそうにバイトしていたわ。それなのに、こんなことになって利用者さんもショックを受けた人が多いみたい……」
なぜ、急に亡くなったのか……。
なぜ、自殺をしたのか……。
「その……、美亜さんは何かに悩んでいる様子はあったのですか?」
颯希の言葉に凛花が首を横に振る。
「特に何も……。亡くなった日も朝からバイトに来ることになっていたし……。時間にはきちんとした人だったから、その日はなかなか来なくて理人先輩が何度も美亜先輩に電話を掛けていたのを覚えているわ……」
「理人先輩……?」
凛花の口から出てきた名前に静也が聞き返す。
「理人先輩もそこでバイトしている同じ高校の先輩で、美亜先輩の恋人だった人よ……。でも、あんなことがあってからバイトも辞めてしまって、ショックからかあまり高校にも行かなくなっているって聞いているわ……」
最愛だった恋人が突然亡くなって、どうしたらいいか分からなくなったのだろう……。苦しんでいたのだとしたら、恋人として何も気づいてあげられなかったことを悔やみ、救ってあげられなかった自分を呪っているらしい……。
「……もう、美亜先輩の歌も聞けなくなっちゃったな……」
凛花が寂しそうにポツリと言う。
「歌?」
凛花の言葉に颯希が反応する。すると、凛花が悲しく微笑みながら語った。
「美亜先輩ね、とても歌が上手だったのよ……。コンテストにも応募したことがあるって聞いたわ……。バイト先でも、たまに歌声を披露していたのよ?利用者さんの中にも美亜先輩の歌う日が来るのを心待ちにしていた人もいるくらいだったのよ……」
凛花の話に颯希たちは何も言えない。
そして、夕暮れが迫ってきたのでそれぞれ帰路に着いた。
「……解除できましたよ」
警察では木津と呉野が上田のスマートフォンを調べていた。キーロックがかかっていたので解除してもらうために特殊捜査班に持っていく。そして、友成にロックの解除をお願いすると、友成はあるソフトを使い、十五分と掛からずにキーロックを解除した。
「例の動画はこれだな……」
「そうですね……」
写真の中に保存してある動画をクリックすると、いくつかの動画が出てきた。どの動画もいろんな女性を犯している動画で、見ていると胸やけが込み上げてくるようなものばかりだった。
「被害者の顔が分かりにくいな……」
「確かに……。なんとなくは分かりますがはっきりとは分かりませんね……」
動画の中には数人で犯している動画もあれば、単独で犯しているであろう動画もある。どれも見ていて気分のいいものではない。犯されているのはおそらくまだ十代後半か、いっても二十代前半だろう。ターゲットを若い女性に絞っており、その上、どことなく大人しいような人たちばかりを選んでいるように見えた。
「もし良かったら、画像を鮮明にすることも出来ますが、どうしますか?」
友成の提案に木津と呉野がお願いをする。そして、その動画をパソコンに取り込み、顔が分かるくらいまで映像を鮮明にしていく。しばらくすると、顔がはっきりと分かるまで画像が鮮やかになった。そして、鮮明になった動画を元に一人一人、顔の写真を作成していく。そして、この動画が他のところに流れていないかも確認していく。
「……調べてみましたが、この動画を誰かと共有や送った形跡は見つかりませんでした。この動画があるのはこのスマホだけみたいですね」
友成がそう言うと、木津が声を発した。
「よし!ならこの動画に映っている男たちを暴行罪で引っ張るぞ!」
「はい!」
呉野が返事をして木津と共に部屋を出ていく。
時間帯が遅いこともあり、何処まで捜査できるか分からないが、時間の許す限り暴行をした青年たちを捕まえるために捜査に乗り出した。
深夜。
「……へぇ、この日本酒、おっさんが作ったんだ?」
一人の青年が男性から日本酒を貰い、その場で開封して、美味そうに飲む。
「旨いじゃん!いい味してるねぇ~」
日本酒をグイっと飲み、美味そうに声を出す。そして、男性がもっと飲めと感じで男のコップに注いでいく。
「おっ!サンキュー!いや~、タダでこんなうまい酒が飲めるなんて最高だね!」
そう言いながら何度もお代わりをして日本酒を飲んでいく。
しばらくしてからだった。
「あ……れ……?」
青年が猛烈な眠気に襲われて、飲んでいたコップが手から滑り落ちた。
「酔ったの……か……な……?すごい……眠気が……」
深夜という事もあり、お酒を飲んでいるビルの屋上はひっそりとしている。繁華街でもないため辺りもシーンとしており、人一人通っていない。
「……地獄に墜ちろ……」
男が低い声で言葉を小さく吐く。すると、暗闇の中から二人の人影が姿を現す。そして、意識が朦朧としている青年を三人で担ぐと、ビルの屋上から落とした……。
――――ぐしゃっ!!
落ちた時の衝撃で鈍い音が響く。屋上からその男を確認すると、大量の血を流していた。「死んでいる」という事が確認できると、男と二人の影はその場から静かに立ち去っていった……。