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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第五章 花を愛でる小人たちは悲しみの雨を降らせる
67/111

3.


「ねぇ、お父さん。刺殺体が発見されたって本当なのですか?」


 夕飯が終わり、颯希が誠に今回発見された遺体のことを聞く。


「あぁ、本当だよ……。まぁ、殺された人はかなりたくさんの人から恨みを買っているみたいだから、捜査は難航するんじゃないかって言われているよ。颯希も気を付けなさい。何処に犯人が潜んでいるか分からないから、危ないことはするんじゃないぞ?」


「はーい……」


 颯希に危険が及ばないように誠が言葉を綴る。でも、颯希の中で自分も捜査したい気持ちが膨らんできていた。




「今日、何かあったのか?」


 帰ってきてから静也の様子がいつもと違ったので拓哉が心配して声を掛ける。


「なんであんな危険な事を言うのかと思ってよ!」


 拓哉がよそったてんこ盛りのご飯をおかずと一緒にかき込みながら言葉を吐く。


「危険な事?」


 拓哉が静也の言葉に頭にはてなマークを浮かべる。


「刺殺体が発見されただろ?なもんで、颯希が捜査しようって言いだしたんだよ」


 静也が「何考えてんだ!」と言う感じでご飯とおかずをかき込んでいく。


「す……凄いじゃないか!捜査だなんて!頑張ってくれよ!父さん、応援するよ!!」


「……は?」


 キラキラと目を輝かせながら拓哉が言う言葉に静也が「何を言っているか分からない」と言うような表情で間の抜けた声を出す。


「……捜査は警察の仕事だろ?」

「いやいや!未来の警察官になるなら捜査をしてもいいんじゃないか?!」

「……どう考えても危険だろ?」

「そこは静也がカッコよく颯希ちゃんを守ればいいんだよ!」

「……人が一人死んでいるんだぞ?」

「警察官になるならどんな状況でも犯人に立ち向かう精神は必要だぞ!」

「……いや、だから……警察の仕事……」

「頑張って捜査してくれよ!未来の警察官!!」



「な……なんでこうなるんだぁぁぁぁぁぁ!!!」



 拓哉が瞳を輝かせながら綴る言葉に静也が呆気にとられながら叫ぶ。そして、最後には颯希にいいところを見せられるチャンスだなと言い、ある事を静也に言ったので、静也は颯希に電話した。




「じゃあ、捜査に協力してくれるのですね!!」


 静也からの電話で颯希は嬉しそうにはしゃぎながら言う。


「では、早速明日の学校が終わったころから捜査を開始しましょう!!」


 颯希の意気揚々とした言葉に静也は何も言えず、明日から捜査を開始する運びとなった。不安はあるものの、警察官を目指しているのだからこれも一つの訓練だと思い、ため息を吐きながら颯希と共に捜査する腹をくくった。




 次の日、木津と呉野は上田が事件直前まで転がり込んでいた友達の家に行ってみた。アパートの一室でその友達である小室こむろと向かい合わせになるように座る。


「……あぁ、確かにその日までこの部屋にいたよ。数日前に急に来て、四の五の言わずしばらく居座るって言ってな。全く、相変わらずの横暴ぶりだなとは思ったよ。あいつのせいで彼女も出て行っちまったし……」


 小室が苦々しい表情で言葉をそう綴る。


「何かトラブルがあったのですか?」


 呉野が話しかける。その言葉に小室はため息を吐くと、重い口を開いた。


「……俺の彼女、留美るみって言うんだけど、留美を俺が仕事で留守の時に強引に犯すようなことをしやがったんだよ……。俺が仕事から帰ってきたら、留美が部屋から飛び出してきて、何があったか聞いたら、「なんであんな奴を部屋に入れたんだ!」って、凄い剣幕で言ってきて、家を出ていったんだ。俺も、出来れば上田を部屋に入れたくなかったが、断ったら何するか分からなかったからな。だから渋々入れたんだよ……。ほんと、疫病神だったんだぜ?正直、死んでくれてホッとしてる……」


 小室がそうやって言いながら安堵の息を吐く。


 その時だった。


「……本当に最悪な奴だったわよ」


 突然女性の声が聞こえて、一斉に声がした方に顔を向ける。そこには、髪を赤く染めているショートカットの女が腕組みをしながらそこに立っていた。


「留美!!」


 小室が留美の姿を見て声を上げる。


「留美……、戻ってきてくれたのか?」


 彼女が戻ってきたことに小室は声を震わせながら言う。


「あいつが死んだって聞いてね……。それなら、戻ってもいいんじゃないかと思ったのよ……。あんな奴、殺されて当然よ……」


 留美が怒りに満ちた声でそう言葉を吐く。


「留美さんですね?私は警察署の木津と言います。こっちは相方の呉野です」


 木津が丁寧にあいさつをする。呉野も頭を下げる。


「……失礼ですが、念のためお聞きします。上田が殺された深夜零時頃、留美さんは何処にいらっしゃいましたか?」


「あんたら!留美を疑っているのか?!」


 呉野の言葉に小室が激怒するように反論する。


「念のためです。関係者の方には全員伺っていますので……」


 呉野が落ち着くようにと言うジェスチャーをしながら、小室を窘める。


「……その時間はバイト中です。『キューティー』というガールズバーでバイトをしていました。店に確認すれば分かります」


 留美が呉野の言葉に淡々と答える。その様子に嘘をついている感じではないことが伺える。


「……ありがとうございます。ちなみに、犯人について何か心当たりはありませんか?」


「……特には思い当たりません。ただ……」


 呉野の言葉に留美が何か思うところがあるのか、口をつぐみながら言おうかどうか悩んでいる感じだ。


「なんでもいいので、何か気付いたことや知っていることがあれば教えてください」


 呉野の言葉に留美が言うことを思案しているような仕草をする。


「……その、私を犯した時、あいつが言っていたんです。『やっぱり女は泣き叫んでいるのを強引に犯すのが最高に気持ちいいな!』って……。多分、他にもそういう目に遭った人が何人かいるんじゃないのでしょうか……?」


 留美が肩を震わせながら苦しそうな声でそう言葉を綴る。小室がその肩を抱き、落ち着かせようとする。


「……でも、それなら被害届が出ているはずじゃあ……」


「……多分、動画です」


 木津の言葉に小室が憎しみを孕ませた声で言う。


「動画?」


 呉野が聞き返す。そして、小室は話し始めた。


「あいつ、女を犯しながら動画を撮っているんですよ……。俺にも半ば強引に見せてきたことありますから、間違いないです……。多分、このことをチクったら、動画を拡散するって脅されてたんじゃないですかね……?」


 小室の言葉に木津と呉野が唖然とする。


「……だから、被害届が出ていないというわけか……」


 上田の姑息な手口に木津が唇を噛む。


「卑劣な奴ですね……」


 呉野が木津と同じように唇を噛み締めながら言う。


 そして、二言三言話すと、木津と呉野はその場を後にした。




「さて!じゃあ、捜査開始なのです!!」


 学校が終わり、静也と合流した颯希が元気に声を張り上げて言う。その様子から捜査できることになって嬉しいのが伝わってくる。


「……でもさ、何も手掛かりないのにどこをどう捜査するんだ?」

「……え?」


 静也の言葉に颯希が固まる。その絵はまるで一匹のアホウドリが二人の上を馬鹿にしているように「アホ―、アホ―」飛んでいるようにも見える。


「……颯希、お前、そこのところ何も考えていなかっただろ」

「え……えーっと……、え……えへへ♪」


 返事に困った颯希が笑顔で誤魔化す。


「……どうしましょう」


 颯希が我に返り、捜査するのに何も手掛かりがないことにようやっと気づき、困った顔をする。静也がその様子にため息をつく。


「……全く。俺たちは警察じゃないんだから、捜査するにしても何も材料がないんだぜ?」

「うぅ……、そうですよね……」


 静也の言葉に颯希の元気がどんどん無くなる。


「……気晴らしに海でも見に行くか?」


 颯希に元気を出してもらうために静也が海に行くことを提案する。そして、二人は海に行くことにした。



「気持ちいいのです~」


 海を見ながら颯希が大きく伸びをする。少し元気が出たのか、顔が先程より明るくなっている。


「のんびりと海を眺めるのもいいですね」

「あぁ、なんだかここにくると、自分の悩んでいることがちっぽけに感じるんだよな」

「……あの時もですか?」

「あの時?」

「静也くんがなんちゃってヤンキーをしていて、私たちが静也くんをここで見つけた時、その時も海を見ていましたよね?」

「そうだな……。なんだか懐かしいな」

「あの出来事がなかったら私たちはただの同級生で終わっていたかもしれませんね……」

「そうかもな……」

 

 そんなことを話しながら何だかしんみりした雰囲気になる。


(……もしかして、このシチュエーションって告白のチャンスじゃないのか?)


「あ……あのさ……、颯希……お……」


 静也が勇気を出して颯希に気持ちを伝えようとする。


「あれ?」


 颯希が何かに気付いて声を上げた。


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