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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第五章 花を愛でる小人たちは悲しみの雨を降らせる
66/111

2.


「刺殺体……?」


「あぁ、そうらしいぜ?物騒だよなぁ~」


 来斗がお弁当のおかずをかき込みながら言う言葉に颯希は耳を疑った。


「……じゃあ、お父さんが今日の朝早くに家を出ていったのはその関係ですかね?」


 誠のスマートフォンに連絡があり、それを見た誠は急いで支度をすると家を出ていった。何かあったのだろうとは思ったが、たまにある事なのであまり気には留めていなかったのだ。しかし、来斗の言葉でその出来事だったと分かる。


「……静也くん」


 颯希が低い声で言う。


「なんだ?」


 静也が颯希の言葉に返事をする。すると、颯希が顔を上げて声を張り上げて言う。


「私たちで犯人を捕まえましょう!!」


「……は?」


 颯希の言葉に静也の口から変な声が出る。


「……いや、どう考えても事件なんだから警察の仕事だろ」

「私たちはパトロール隊です!」

「だからって捜査していいわけじゃねぇだろ!」

「この前の事件ではあまり捜査できませんでしたからね!今回は私たちもばっちりがっちり捜査して犯人を暴きましょう!!」


 颯希が目を輝かせながら言葉を綴る。


「な……何考えてんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 静也が雄叫びを上げながら颯希を制止するが、颯希は今回の事件を捜査するつもりでいた。




「殺された男の名前は上田うえだ 廉也れんや。死因は出血多量による出血死。凶器のナイフは見つかっていません。おそらく犯人が持ち去ったのでしょう。後、上田は近所では札付きの悪だそうです。おそらく、今回の事件は上田に恨みを持っていた人間という事で間違いないでしょう」


 捜査一課の鎌田かまだが今回の事件を淡々と読み上げる。


「よし!上田の周辺を洗え!上田に恨みを持っているやつを片っ端から事情聴取だ!」


 捜査一課の課長である芝原しばはらが声を張り上げて言う。その芝原の言葉に捜査員が捜査を開始するために部屋を出た。


「今回の事件、きっと上田に酷いことをされた人の犯行でしょね……」


 どこか優男風の刑事である呉野くれのがため息をつきながら言う。


「まぁ、そうだろうな……。でも、俺たちの仕事は犯人を捕まえることが仕事だ。情にほだされるわけにはいかないさ……」


 優男風である呉野とは正反対である屈強な顔をした警部補の木津きづが苦々しそうに言う。


「とりあえず、上田の身辺を洗おう」

「はい」


 こうして、今回の事件の捜査に乗り出した。




「うぅ……。静也くんにどつかれてしまいました……」


 放課後になり、今日の昼休みのことで颯希が教室の中で美優と亜里沙に囲まれながらため息をつく。


「そりゃあ、静也は止めるでしょう。ねぇ?美優」

「ふふっ、そうだね。颯希ちゃんにそんな危ないことをしてほしくないもんね」


 美優と亜里沙が顔を見合わせながらクスクスと微笑む。


「そんなにダメですかね……」


 颯希がしゅーんと項垂れる。


「だって……ねぇ……?」

「ふふっ……、ねぇ……?」


 美優と亜里沙が含み笑いをしながら二人で異様なニコニコ顔をする。


「なんですかぁ……?」


 ちょっと落ち込んでいる颯希が二人の様子を見てなぜなのかを聞く。


「まぁ、颯希はそっち系の話は興味ないし……ねぇ?」

「本人は全く気付いてないよね。なんとなく静也くんが可哀想な気もするね」


 二人の様子に颯希は意味が分からず頭にはてなマークを浮かべている。


「まぁ、あんまり無茶なことはしないことね!」

「ふふっ、そうだね」


 美優と亜里沙にそう言われて颯希が「うぅ……」と、残念そうに声を出す。


 その頃、一組では静也がため息を吐いていた。ため息の理由は勿論昼休みの颯希の「捜査したい!」という発言だ。


(全く……、なんでそんな危険なことをさらっというんだ?)


 そう心で呟く、再度溜息を吐く。それに来斗が気付いて声を掛ける。


「どうしたん?ため息ついて……。って、困っちゃうよね~。颯希の発言は!」

「人の心を読むんじゃねぇ!」

「颯希が心配なんだ!って素直に言えばいいのに♪」

「そんなストレートに言えるかよ!」

「……安心しろ、颯希。俺はお前が守ってやる……。ぐらいの発言しないと颯希に気持ちは伝わらないぜ?♪」

「うるせぇよ!!」


 来斗の言葉に静也が顔を赤くしながら反論する。そこへ、雄太がポツリと呟く。


「……でも、颯希さん、そういうの、凄く鈍そうだからストレートに言わないと気付かないんじゃない?」


「「え?」」


 雄太の言葉に静也と来斗が同時に声を出す。


「多分だけど、美優さんと亜里沙さんは静也くんの気持ちに気付いていると思うよ?」


「……へ?」


 更なる雄太の発言に静也の口から本日二度目の変な声が出る。


「まぁ、静也くんの気持ちに気付いていないのは当の本人である颯希さんだけだろうね」


 雄太の言葉を聞いて静也の中でどこか助かったような悲しいような複雑な気持ちになる。


「前途多難の恋だね、し・ず・や・ちゃん♪」

「……来斗、完全に楽しんでるだろ……?」

「まぁ、俺たちは温かーく見守ってやるからさ!頑張れよ、し・ず・や・ちゃん♪」

「うるせぇわ……」


 来斗のおちゃらけた言葉にどこか脱力感を感じながら静也が答えた。




「……あの子は手に負えないくらいの子でしたよ。恨んでいる子なら星の数ほどいると思います。あの子に関しては、あまりの悪さに勘当しました。その後は何処で何をしているのか見当もつかないくらいです。まぁ、たまに風の噂でいろんな友達の家を渡り歩いているという事くらいですね……」


 木津と呉野が殺された上田の母親にどういう息子だったかを聞くために上田の実家を訪れると、母親は憎々しい口調でそう答えた。警察に保管してある遺体のことも木津が訪ねるが、「勝手に処分してください」と、引き取る気は一切ないような返事が返ってきた。葬式もあげる気は全くないらしく、息子が死んでも関りを持ちたくない……と言う気持ちが伝わってくる。


「また、何かを思い出したらこちらにご連絡ください」


 木津がそう言って、電話番号が書かれてあるメモを渡す。そして、上田家を出ると、木津と呉野の口からため息が漏れる。


「被害者の上田……、予想以上の悪かもしれませんね……。上田に酷いことをされた人を当たるとなると、相当な数に上りそうですよ?」

「……かもしれないな。しかし、それを一つ一つ当たっていくしかないだろう。捜査は地道な作業だからな……」

「そうですね……。骨が折れそうです……」

「まぁ、とりあえず、近所で聞き込みを行ってみるか……」

「分かりました」


 木津と呉野は次に近所の聞き込みを行なった。しかし、どの声も「最悪だった」とか「嫌な人」と言うばかりで悪い批評しか聞かない。昔から悪いことばかりしていたらしく、学生の頃はよく補導もされていたらしい。広範囲で聞き込みを行なったが特に収穫は無かった。というより、悪評故に誰に捜査を絞っていいのかが見当つかないという状態だった。


 聞き込みはこれ以上しても無理だと分かり、捜査の仕方を変えることにする。


「明日は、上田が直前まで転がり込んでいた友達の家に行ってみるか……」

「そうですね……」


 こうして、今日の捜査は終了することにする。



 しかし、この事件は始まりに過ぎなかった……。




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