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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第三章 小花は大きな葉に包まれる
45/111

15.


 颯希たちが突然現れて、茂明と恵美子は驚きが隠せなかった。


「どうして君たちがここに……」


 颯希たちの登場に茂明は言葉を発する。


「いやな予感がして、近くで張り込んでいたんです!そしたら、状況が危なそうだったので飛び出してきました!!」


 颯希はそう言うと二人の間に割って入る。そして、恵美子に顔を向け言葉を綴る。


「恵美子さん、確かに浮気されただけではなく酷いことも言われて辛かったかもしれません。恵美子さんにしかその苦しみは分かりません。でも、だからと言って『殺す』という事はしてはいけないことです!!」


 ナイフを持っている恵美子に躊躇せずに言葉を綴る。颯希の瞳には「悲しみ」が溢れていた。


「恵美子さん、ナイフを私に渡してください……」


 颯希がそう言って恵美子に手を伸ばす。


「でも……でも……もう嫌なの……。また裏切られるかもしれない……。愛している人にこれ以上裏切られるのはもう嫌なの……」


 大粒の涙を流しながら恵美子が言う。


「また一緒に暮らしても、もしかしたら同じ過ちを犯すかもしれない……。また、同じ事を言われるかもしれない……。また、こんな思いをするのはもう嫌なのよ……」


 涙を流しながら言葉を吐く恵美子に颯希が言葉を綴る。


「……確かに人は過ちを犯します。今回の茂明さんがしたことは、恵美子さんにとって心を破壊してしまうくらいの悲しい出来事だったと思います。でも、罪を犯したらその罪はずっと付き纏います。小春ちゃんもその罪を背負わなきゃいけなくなるんです。罪を犯したら、裁かれるのは犯人だけではありません。その家族もその罪を背負うことになるのです。そして、消えない罪をずっと背負わなきゃいけなくなるんです……」


「だから……、茂明さんを殺して……その後で私と小春も後を追うの……。小春を独りぼっちにはさせないわ……。空の上でずっと幸せに暮らすの……」


 颯希の言葉に恵美子が泣きながら答える。


 恵美子はまた裏切られることを一番恐れている。だから、完全にそうならないように茂明を殺す選択をした。そして、その後で自分も小春と共に後を追う……。それが恵美子の決めていた答えだった。


 茂明が恵美子をどれだけ苦しめていたかが分かり、自分しでかしたことがかなり酷いことだったかを痛感する。


 恵美子に茂明が近寄る。颯希の横を通り、恵美子の傍まで来ると恵美子を抱き締めた。


「すまない……。ここまで恵美子を苦しめていたんだな……。俺のした浅はかな行動が君をここまで追いつめてしまった……。もし、許してくれるなら今の仕事は辞めて、家で出来る仕事にしても構わない……。君に殺されても仕方ない程のことを俺はした……。許してくれとは言わない……。でも、恵美子を犯罪者にもしたくないんだ……。だから……、頼む……。一緒に生きてくれ……」


 茂明が涙を流しながら力強く恵美子を抱き締めて懇願するように言葉を綴る。


 恵美子は震えながら泣いていた……。


「茂明……さん……。私……私……」


「あぁ、恵美子は儚いところがあるのも知っている……。心が弱くて人一番不安になりやすいのも知っている……。だから……だから、今度こそは……」


 茂明はそこまで言うと、瞳に強い力を宿しながら言葉を綴った。



「全力で君を守り抜く……」



「あっ……あっ……」


 恵美子が言葉にならない声を発する。


 次の瞬間――――。




「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」




 大声を上げながら泣きだした。


 どこかで、張っていた糸が切れたのか、それとも、茂明の言葉に安堵したのか、恵美子は茂明に抱き付きながら大声で泣いた。手に持っていたナイフも地面に落とし、抱き付きながら泣きじゃくった。




 ひとしきり泣いて、落ち着いたのか、恵美子のアパートに行くことになり、みんなで一緒に向かう。あの後、哲司はナイフを拾うと袋に入れた。そして、それを自分の鞄に入れる。


 行く道中、恵美子は茂明に支えられながら歩いていた。颯希たちがその後ろを見守るように歩く。


 アパートに着き、部屋に入ると颯希は部屋の状態に驚きを隠せなかった。


「部屋が……」


 最初に来た時は目も当てられない惨状だった部屋が綺麗に片付いている。片付いているだけではなく、床にも埃は無く、どこもかしこもピカピカになっていた。


「大掃除をしたのですか……?」


 颯希がそう言うと、恵美子はか弱い声で言った。


「……死ぬ前に、部屋を綺麗にして綺麗な部屋で小春と心中しようとしたのよ……」


 それは、いわゆる死ぬ前の身辺整理だった。


「小春ちゃんは?!小春ちゃんは大丈夫なのですか?!」


 恵美子の言葉に小春のことが心配になり、颯希が早口で小春の安否を聞く。


「大丈夫よ……。ぐっすり眠っているわ……。途中で起きないように睡眠薬を飲ませてあるから……」


「「睡眠薬?!」」


 恵美子の言葉に颯希と静也の声が重なる。


「もしかして、処方されていた薬を小春に使ったのか?」


 工藤の話を思い出して茂明が恵美子に問う。


「えぇ……、途中で起きて探しに来ないようにするためにね……」


 恵美子はそう言うと、ふらついた足取りで隣の部屋に入っていく。そして、よく寝ている小春の頭を優しく撫でた。


「小春……可愛い小春……、ごめんね……」


 様子を見に来た茂明がそっと恵美子を後ろから抱き締める。


「これからは……三人で暮らしていこう……」



 颯希たちは別の部屋で恵美子達が戻ってくるのを待った。そして、颯希が哲司にあるお願いをする。


「哲さん、お願いがあります。今回のことなんですが、もしできるのであれば……」


 颯希の言葉に哲司は悩んだが、ことがことだという事もあり、颯希のお願いを受け入れることにした。



 しばらくして、颯希たちがいる部屋に戻ってきた二人に透が言葉を発する。


「とりあえず、娘が目を覚ましたら念のため病院に連れて行くことだな。あんな幼い子が睡眠剤を飲んでいるのだから、場合によっては脳に何か影響が出ている可能性もある」


 透の言葉に恵美子と茂明が頷く。そして、哲司が今回のことについて口を切った。


「今回のことは場合によっては殺人未遂に値するかもしれませんが、発端が発端ですので、颯希ちゃんの意向もあり事件には致しません。ただ、工藤さんにはこのことは話さなくていいですが、一緒に暮らす意向だという事はお伝えしておいてください」


 本来なら警察官と言う立場上、今回のことを見過ごしていいかどうかは悩んだが、こういうことになった経緯を考えると、恵美子を逮捕するのは違うような気もする。それに、恵美子が捕まってしまったら、小春の心も壊れてしまいそうな気もする。


 悩んだ末、颯希のお願いもあり、今回のことは事件にしないことにした。


「後、先程のナイフですが、お返しすることもできます。もし、処分して欲しいのであればこちらが責任をもって処分いたしますが、どうなさいますか?」


 哲司の言葉に恵美子と茂明は顔を見合わせると、そちらで処分して欲しいという事を伝えた。そして、時間も遅くなったので颯希たちはそろそろ帰ることにして、哲司の車に乗り、家へ帰っていく。



 車の中で、小春の様子を心配しながら颯希は窓の外に流れている景色を目で追っていた……。


 小春が無事に目を覚ますことを祈りながら……。



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