13.
颯希たちは少し早目に公園に行くと、固まりながら見つからないように隅っこの方で二人が来るのをじっと待つ。
そこへ、最初に茂明がやってきた。ジーパンにシャツと言うラフな格好でやって来て、公園に設置されている大きな外灯の下で待つ。
そして、時間が八時になった時、公園の入り口に人影が現れた。ロングスカートに薄手のニットを着ており、長い髪は下ろしたままでゆっくりと茂明に近付いてくる。そして、茂明のいる外灯の近くまで来ると、優しく微笑んだ。
「久しぶりね、茂明さん」
恵美子だった。
手には何も持っていない。身一つで来た様子だ。
「恵美子……」
久々の再会に茂明は言葉が発せない。
「ふふっ、ちょっとやつれたのかしら?前はもっと体つきももう少ししっかりしていたし、顔色もいい方だったはずよ?」
「恵美子……」
恵美子の穏やかな言葉に茂明は戸惑いを隠せない。てっきり罵られるんじゃないかと思っていたから、予想が外れたことにどう言葉を発していいかが分からなかった。
「そういえば、浮気相手の女性はどうしたの?」
その問いに茂明が苦しむような表情をする。恵美子を捨て、他の若い女に走り、その若い肉体に溺れてその女のマンションにしばらく転がり込んでいた。恵美子がそのことを許さないはずがない。でも、今はもう別れている。別れていると言っても、どちらかと言えば一方的に捨てられたのだが……。
「その……、あいつから見たら俺はいい金づるだったというだけで、会社を辞めた途端、用済みみたいな事を言われてマンションも追い出されたんだ……。結局、あいつにから見たら俺は都合のいいATMだったみたいだな……」
「あら、それはひどい女ね……。茂明さんのことをそんな風に扱うなんて……」
「すまない……。馬鹿なことをしたって思っている……」
微笑みながらどこか淡々と恵美子が言葉を綴る。その表情から憎しみや怒りは見えない。見方を変えれば、茂明にはもう興味ないようにも取れる。
「恵美子……。本当にすまなかった……。俺は恵美子と小春と一緒にいたい……。頼む、もう一度三人で一緒に暮らすチャンスをくれ……。もう……もう二度とあんなことはしない……。約束する……。だから、頼む!俺とやり直させてくれ!!」
茂明が深く頭を下げながら言葉を綴る。最後は懇願するように叫んでいた。
「茂明さん……」
恵美子が茂明に一歩近づく……。そして、ゆっくりと言葉を綴った。
「茂明さん、顔を上げてください。私は今でも茂明さんのことが好きですよ?初めてお付き合いした時からずっと……」
優しく微笑みながら恵美子が言う。
「恵美子……」
「覚えてる?プロポーズの言葉……」
「あぁ………。恵美子を全力で守るって……」
「私ね、その言葉がとても嬉しかったの……。そんなこと言われたの初めてだったから……。だから嬉しくて、茂明さんのプロポーズを受けたのよ?」
「これからは、裏切らない……。恵美子を全力で守るよ……。小春も守っていく……」
「茂明さん……」
「そうだ、これ……」
茂明はそう言うと、袋から箱に入ったチョコレートを出した。
「これ……私の好きな……」
「うん……、恵美子の好きなチョコレートだよ」
「私の好きなもの、覚えててくれたの……?」
「あぁ、忘れるわけないじゃないか……」
「……開けていい?」
「いいよ……」
恵美子は茂明から箱を受け取り、丁寧に箱を開ける。そして、一粒摘まんで口に放り込む。
「……美味しい」
恵美子が微笑む。
「まさか、大好きなチョコが食べれると思わなかったわ……」
「これからも嬉しいことがあったら買ってくるよ……」
「茂明さん……」
「だから……、やり直させてほしい……」
茂明の言葉に恵美子は涙を流す。
しばらくの間沈黙になる。
恵美子からの返事がない。
「……やっぱり、あんなことをした俺とはもうやり直せないのかな……」
茂明が悲しそうに言葉を綴る。
「茂明さん……。愛しているわ……。今でもずっと愛している……」
「なら、もう一度一緒に……」
「えぇ、私もまた三人で一緒に幸せに暮らしたいわ……」
「なら、許してくれるのかい?!」
恵美子の言葉に茂明が安堵した表情になる。
「愛してるわ、茂明さん……。だから、私の我が儘を聞いてくれる……?」
「あぁ!聞くよ!何でも聞くよ!」
「茂明さん……」
恵美子はそう言うと、ポケットからあるものを取り出して茂明に向けた。