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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第三章 小花は大きな葉に包まれる
35/111

5.


「昨日も会ってきた?」


 次の日のお昼休みに、颯希が静也と共に小春に会えたことを伝える。


「その、公園にいるのを発見して声を掛けたんですよ。どうやら、お母さんに叩かれたりすることがあるみたいです……」


 そして、様子を見る限り、御飯もまともに食べさせてもらえてないような気がすることも話す。そして、小春が母親と一緒にいたがっているということも説明する。


「うーん……、確かに小春ちゃんの意思に反して引き離していいかどうかを悩むところね」


 亜里沙がパンを齧りながら唸るように言う。


「でもさ、そんな悠長なこと言ってていいのかよ!下手したら栄養失調で死ぬ可能性だってあるんじゃないのか?」


「来斗くんの言葉は分かるけど、逆に無理やり引き離してその小春ちゃんって子が不安定になる可能性もある。あまり、無謀な事は出来ないよ」


 来斗の言葉に雄太が窘めるように言葉を綴る。


「でも、心配だよね。小春ちゃんの気持ちは尊重してあげたいし、かといって栄養失調になりそうなことにも黙って見過ごせないし……」

 

 美優が心配そうに言葉を綴る。


「とりあえずは、しばらくの間あの近辺を中心にパトロールすることにはしました……」


 颯希がそう言葉を綴ったところで、お昼休みが終わりを告げた。




 茂明は薄暗い部屋でベッドに仰向けになりながらタバコを吹かしていた。頭の中では、小春と一緒にいた颯希と静也のことを思い浮かべている。


(中学生みたいだけど、小春とどういう繋がりなんだ……?)


 茂明は身体を起こし、タバコを消すと外に出た。


 外はもう暗くなっており、夕闇が押し寄せてきている。自分のしたことを呪いながら暗がりの道を歩く。そして、小春と恵美子がいるアパートの近くまで来る。


 部屋は明かりがついていた。でも、ここからではそれ以上のことが分からない。部屋に訪れることも考えるが、あんな酷いことを言った自分に会う資格なんかないと感じて憤りを感じる。


 茂明はそのまま踵を返し、その場から去っていった。




 ガシャーン……。


 恵美子が飲んでいる途中のグラスを壁に投げつけた。割れた瞬間の大きな音が響く。息を吐きながら呪いの言葉を吐く。


「よくも私を捨てて……。あんな奴、死ねばいいのよ!殺してやるわ!絶対……絶対許さない!!」


 そして、まだ中身が入っているウイスキーの瓶を持ち、ラッパ飲みをする。


「ぷはっ!はぁ……はぁ……はぁ……。覚えてなさい……。殺して私も死んでやる……」


 恵美子は眼に狂気を孕みながら呪いの言葉を綴る。


「小春……、小春も一緒に連れてかなきゃ……。独りぼっちなんかにはさせないわ……」


 ブツブツと呟きながら、何度も口にアルコールを流し込む。


 恵美子の精神は壊れていた。小春が体を小刻みに震わせながらその様子を見つからないように影から見ている。


(私……ママに殺されちゃうの……?)


 ガタガタと震えながら、お布団で全身が隠れるくらい潜り、息をひそめる。


(どうしよう……どうしよう……お姉ちゃん……ママに……ママに殺されちゃう……)


 

そして、祈るように手を合わせながら眠る事の出来ない夜を過ごした……。




 日曜日になり、颯希と静也は小春が住む近辺をパトロールしていた。パトロールをしながら小春を探すがなかなか見当たらない。この前会った公園にも足を運ぶが、小春の姿はない。不安を感じながら他に行きそうな場所を探す。近くのスーパーやコンビニにも足を運んでみるがどこにも見当たらない。


「今日はお家にいるのですかね?」


 颯希が不安そうな声で言葉を漏らす。


「かもしれないな。だからと言って押しかけるわけにもいかないし……。とりあえず、もう少しパトロールしてみようぜ。どこかで偶然会うかもしれないからな」


「うん……」


 静也の言葉に押されて、近所をくまなく探す。


 その時だった。


「ちょっと、いいかな?」


 急に後ろから声を掛けられて、颯希と静也が後ろを振り向く。そこには三十代くらいの男性が立っていた。


「急にすまない。その……この前公園で小春と一緒にいた人だよね?」


 男性の言葉に颯希が返事をする。


「そうですけど……、あの、あなたは?」


 颯希の問いに男性は何処か戸惑いながら答えようかどうか悩んでいる。そして、しばらく沈黙が流れた後、男性は口を開いた。


「小春の……父親です……」


 茂明はそう言うと、更に言葉を綴る。


「その……、なんで中学生が小春と居るのかが気になってね……」


 茂明の言葉に颯希がある事を聞く。


「小春ちゃんと一緒に暮らしているんですよね?なら、何か知っていますか?」


「いや、今は一緒には暮らしていない……。何か知っているとはどういうことなんだ?」


 颯希の言葉に何か引っかかるものを感じたのか、茂明が逆に聞いてきたので小春の身に起こっていることを説明する。


「……それは本当なのか?」


 颯希からご飯をちゃんと食べさせてもらってないことや、恵美子に叩かれたりしていることを聞いて茂明は驚きの表情が隠せない。


「……でも、小春ちゃんはママと一緒にいたいって言っているのです。だから、なんとかしてあげたくても出来ないというのが現状なのですよ……」


「噓だろ……。恵美子が小春を虐待?あんなに可愛がっていたのにあり得ないだろ……」


「ただ、アルコールを飲んでいないときは優しいママだって小春ちゃんが言っていました。でも、アルコールを飲むと叩かれたりするそうです……」


 颯希の言葉に茂明は愕然とし、自分のせいなのではないかと強く感じる。自分が二人を見捨てたから、こんなことになっているのではないか……と、自分のしでかした事の重大さを恥じる。


「俺はなんてことを……」


 小さく呻くように呟く。


「小春ちゃんを放ってはおけません……。なんとかしてあげたいのです。協力して頂けませんか?」


 颯希の言葉に茂明は考えるが、現状を知り、小春のためにも恵美子のためにも自分が何とかしなければならないと感じた。でも、「家族の問題に颯希たちを巻き込んで良いのか?」という考えも浮かぶ。そのことを颯希たちに伝えると、颯希はあっさりと言った。


「だって、私たちは地域のための中学生パトロール隊ですから!」


 颯希の言葉に茂明が呆気にとられる。


「そうか……、近隣からの噂で中学生がパトロール活動をしているとは聞いていたが、君たちがそのパトロール隊なんだな……」


「はい!中学生パトロール隊員、結城颯希です!」

「同じく隊員の斎藤静也です!」


 颯希と静也が敬礼のポーズをしながら自己紹介をする。そして、小春と恵美子を救うためにどうしたらいいのかを三人で考える。



 そして、ある一つの方法を思いついた……。



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