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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第三章 小花は大きな葉に包まれる
33/111

3.


 夜も更けた頃、颯希はお風呂から出ると今日のことを考えていた。


 小春が昨日から何も食べていなかったことや暴れた後のような部屋……。家族に何かは起こっているということは確実だった。でも、透の言う通り、今の状況だけでは何も分からない。ぐるぐるといろんなことが頭の中を駆け巡る。「自分に出来る事はないのか?」と、必死で考えるものの、何も思いつかなない。



 何も答えが出ないまま、颯希は眠りについた。




「おっはよー!」


 朝になり、颯希は学校に行くといつものように元気な声で教室の扉を開けた。


「おはよう、颯希」

「おはよう、颯希ちゃん」


 颯希の声に美優と亜里沙が返事をする。


「あっちゃん!今日は遅刻せずに来れたのですね!」

「……颯希、私は毎回月曜日に遅刻するわけじゃないのよ?」

 

 颯希の言葉に亜里沙が反論する。


「ふふっ。まあまあ、間に合ったんだし良かったじゃないの?昨日、私が亜里沙ちゃんにメッセージを送って遅刻しないようにタイマーセットのことを伝えたもんね」

「流石なのです、みゅーちゃん!!あっぱれ!!」

「あっぱれ!は、余計よ」


 そんな会話をしていると始業時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。



 授業を受けている間も、颯希は小春のことが気になっていた。もし、本当に虐待を受けているとしたら何とかしてあげたい……。でも、本当に虐待を受けているかどうかは分からない。


(今は、授業に集中しなきゃ!!)


 そう自分に言い聞かせて、授業に身を入れる。別の教室では、静也も同じことを考えていた。


(……なんか、あの母親が引っ掛かるんだよなぁ)


 静也は小春を家に送っていった時の母親の様子が気になっている。なんとなくだけど、酒臭い匂いがしたように感じたのだ。でも、だからといって虐待に直結は出来ない。ただ、飲んでいただけの可能性も十分にある。


(でも、普通なら娘に食べるものを与えないくらい飲むって言うのはおかしいんじゃないかな……?)


 そんな考えが頭に浮かぶ。


 そんなこんなで、朝の授業は終りを告げ、昼休みに入った。いつものようにみんなで中庭に集まってお弁当を広げる。


「颯希、あなた授業中ずっとよそ事考えてたでしょう?何かあったの?」


 亜里沙が見抜いているのかそんな言葉を投げかける。


「それなら、静也くんもなんか考えていた感じだったよ?」


 雄太の言葉に颯希と静也が顔を見合わせる。


「……もしかして、静也くんも昨日の女の子のことを考えていたのですか?」

「……ってことは颯希もか?」

「……」

「……」


「二人とも息ピッタリだな」


 二人が同じことを考えていたことが分かり、来斗が「ヒューヒュー!」と口を鳴らす。


「昨日のパトロールで何かあったの?」


 美優が心配そうに口を開く。そして、颯希と静也が昨日のことを説明した。


「……と、いうことがあったのですよ」

「それに、送りに行った時に母親から酒臭い匂いがしたんだ」


 昨日のことを説明して、透の考察したことも話す。


「成程な~。確かに心配だよな。でも、虐待しているかどうかはそれだけでは判断できないな。ただ単に父親が暴れてた可能性はあるわな」


 来斗が頷きながら答える。


「そおねぇ~。でも、静也くんの酒臭い匂いがしたってことは確かに引っ掛かるわね」


 亜里沙が疑問を口にする。


 しかし、今の段階では何も分からないままで、小春のために何をすればよいかの答えが出ない。かといって、家に押しかけるわけにもいかない。再度、小春に会うことができれば何かを聞き出すことができるが、会えるかどうかも分からない。


 そして、あっという間に昼休みが終わっていった。




 一人の男があるアパートで項垂れている。


「俺、何やってるんだろう……」


 部屋には空のカップ麺や飲みほしたまま放置されているビール缶が散乱している。男の目は虚ろだった。男は元々それなりに大きな会社で勤めていたが、ある事でほかの社員に嫌われてしまい、会社に居づらくなって辞めている。それからは、土木関係の仕事に就いて毎日の生活を送っていた。


「今日もいるかな……?」


 男はそう言って、のろのろと体を起こすと外に出た。そして、ある場所に行き、ある人物を見つけると遠くからその人物を眺める。声を掛けることはしない。いや、声を掛けることができなかった。



 なぜなら、男は自分の身勝手な理由で妻と娘を見捨てたのだから……。



 「後悔先に立たず」と言う言葉があるように、やってしまったことは取り返しがつかない。その時は特に思わなかったが、今になって自分がしたことを恥じている。ちゃんと考えれば自分の言った言葉が酷いものだというのは分かるはずなのに、自分の欲が勝ってしまった。そして、今ではその事がとんでもない過ちだったことが理解できる。


 男は小春の父親だった。父親である茂明しげあきは公園で見つけた小春を遠くからじっと眺めている。声を掛けたいのをぐっと堪えて遠くから見つめていた。



 そしてまた、あの出来事が起きる。




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