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はい!こちら、中学生パトロール隊です!!  作者: 華ノ月
第三章 小花は大きな葉に包まれる
32/111

2.


 ――――ピンポーン……。



 颯希がインターフォンを鳴らす。すると、部屋の中から音が響き、女性が顔を出した。


「小春!良かった……。何処に行ってたのよ……。小春の好きなチキンライス作ったのに、姿が見えないから心配したじゃない……」


 女性はそう言いながら、小春を抱き締める。颯希と静也はそれを見て、何か勘違いをしているだけだったのかな?と、感じた。そして、女性に小春がこけて怪我をしたことを伝えると、女性は颯希たちに深々と頭を下げた。


「……手当てまでしていただいてありがとうございます。その上、小春を送って頂いて……。改めて、またお礼をさせていただきますね」


「いえ!大丈夫です!小春ちゃんの怪我なのですが、綺麗に洗って絆創膏をしているだけなので、良かったらきちんと消毒してあげてください」


 颯希の言葉に女性は「分かりました」と言うと、小春の手を引いて部屋に入っていった。小春も嬉しそうな顔をしている。


 小春を送り届けた帰り、颯希が疑問に感じたことを口にした。


「……部屋、見ましたか?」


「あぁ………」


 颯希の言葉に静也が同意の声を出す。


「あれは、散らかっているという部屋ではありません……。むしろ、暴れた後の感じのような気がします……」


「そうだな……。父親か母親か分からないが、あの部屋は誰かが暴れた後だったな。皿とかも割れていたし……」


「でも、お母さんの方は小春ちゃんを心配している様子でした。だとしたら、暴れたのはお父さんの方ですかね?」


「父親の姿は見えなかったが、可能性はあるだろうな……」


 小春の服装がジーパンにロンティーだったので、痣がある事は確認できなかったが、もし、小春に両親のどちらかが虐待行為をしているのだとしたら、それは放っておいていい問題ではない。誠に相談すべきか考えるが、今の所、虐待をされているという確証がない。


 どうしたらいいか分からないまま、時刻が夕方になり、今日のパトロールは終了した。



 その頃、小春は母親である恵美子(えみこが作ったチキンライスを美味しそうに食べていた。


「美味しい?」


 恵美子が微笑みながら小春に問いかける。


「うん!ママの作るチキンライス、大好き!!」


 小春は嬉しそうにチキンライスをすごい勢いで平らげていく。その娘の様子に恵美子は微笑ましそうに眺めている。


「沢山作ったから、お腹いっぱい食べてね?」


「うん!!」


 これが、この家のもう一つの日常だった。恵美子の機嫌が良いと小春の好きなものを作り、小春も喜んでそれを平らげる。そして、恵美子の中でアルコールを飲んだ時の記憶は全くない……。小春に暴言を吐いていることも当然覚えていない。アルコールを飲んでいないときは、娘が愛しい母親そのものだった。



 パトロールが終了して、静也は颯希の家にお邪魔していた。佳澄がこの前のお詫びとお礼がしたいとのことで颯希の家で夕飯を頂くことになったのである。兄の透や父親の誠も加わり、和やかな夕飯を過ごした。


「……ほう、静也くんも将来は警察官になるのが夢なんだね」


 誠が静也も警察官になりたいという話を聞いて、嬉しそうな声を出す。


「なんだか嬉しいね。警察官になりたいと思っている子がこんなにもいて……。颯希や静也くんが警察官になる日が来るのが楽しみだな」


「俺、颯希さんには感謝しています。あの時、颯希さんに救ってもらわなかったら、どうなっていたか分かりません。だから、颯希さんには感謝しかないです」


 静也が颯希の父親の前だからか、颯希を「さん」づけで呼び、丁寧な言葉で自分を救ってもらったことを話す。誠がその話を聞いて、優しく言葉を綴る。


「そうなんだね。それは良かった。これからも颯希と一緒にパトロール活動をよろしく頼むよ。もし、颯希が危ないことをしようとしていたら、その時は止めてあげてくれ。この子は放っておけない人を見ると、なんとかしてあげたくて暴走してしまいそうになることもあるからね」


「分かりました」


 誠の言葉に静也が素直に返事をする。この前の事件の時は本当に危険だった。一歩間違えれば、命を落としていた可能性だってある。颯希の中で何とかしたいという気持ちが暴走して、時には危険に身を晒すこともある。誠はそれを心配しているのだった。


「あの時は本当にごめんなさいなのです……」


 颯希が申し訳ない声で言葉を綴る。


 夕飯が終わり、颯希は静也と共に透の部屋を訪れた。


「お兄ちゃん!ちょっとだけいいですか?」


 透は二人を部屋に入れると、「どうした?」と言う感じで聞いてくる。


「また何かあったのか?事件関連だったらちゃんと父さんに言っとけよ?」


 透はこの前のことを心配しているのか、先にそう釘をさす。なので、颯希は透がある状況をどう考察するか聞きたいだけだと言って今日のことを話し始めた。


「……成程な。まぁ、その部屋を見ていないから何とも言えないが、誰かが暴れているのは確実だろう。単純に考えれば父親が怪しいとなるが、母親が怪我をしているような様子はあったか?」


「うーん……。特には気付かなかったのです……。分かるのは、小春ちゃんが帰ってきてすごく安心をしていたくらいなのです……」


「まぁ、今の段階では何とも言えないな。考察をするにしてもピースが足りなさすぎる。もう少しピースが揃えば何かしらの糸口になるかもしれないが、今の状況では疑問だらけだな」


「そうですよね。確かに透さんの言葉はもっともです」


「まぁ、颯希のことだから放っとけないのがあるかもしれないが、無謀なことだけはするなよ?静也も颯希が危険なことをしないように見張っててくれ」


 先程の夕飯時で静也は透のことを「透さん」と呼ぶことになり、透は静也のことを呼び捨てで呼ぶことになった。静也も考察が趣味だという透と一度話してみたかったらしく、今日の日をすごく楽しみにしていた。今日のことを話した後は、三人でお喋りしながら楽しい時間を過ごす。そして、明日の学校のことを考えて区切りの良いところで静也は家に帰っていった。




 夜も更けた頃、恵美子はアルコールを飲みながら、叫ぶように言葉を吐いていた。


「なんでよ!なんで私を捨てるのよ!なんであんな事を言うのよ!なんで……」


 最後は涙目になっている。悲痛な声が部屋中に響き渡る。小春は隣の部屋でお布団にくるまって、震えながら目を瞑ってた。


 また、あんな目に合うようなことがないことを祈りながら……。




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