9.
「あら、いらっしゃい」
日曜日、家に颯希を迎えに来た静也に佳澄が出迎えた。
「ごめんなさいね、迎えに来てもらって……。颯希、パトロールは続けたいというから……」
佳澄が申し訳なさそうに言葉を綴る。
「大丈夫ですよ。俺も心配だし……」
そこへ、準備を整えた颯希が玄関にやってきた。
「おはよう!静也くん!」
颯希が元気な声をあげる。
そして、静也と並ぶと佳澄に敬礼のポーズをしながら言葉を綴った。
「只今より、中学生パトロール隊、出動致します!!」
颯希の隣で静也も敬礼のポーズを取る。
「気を付けてね。静也くん、よろしくお願いします」
佳澄が静也に深くお辞儀をする。
「「行ってきます!!」」
そう言うと、颯希と静也はパトロールを開始した。
「今日は桜東地区をパトロールしましょう!」
颯希が先頭を切って歩きだす。
そこへ、声が聞こえた。
「颯希ちゃん!」
声を上げたのは美優だった。その隣に雄太もいる。
「みゅーちゃん!雄太くん!」
颯希が驚いて声を出す。
「……お前ら、付き合っていたのか?」
静也が美優と雄太が一緒にいるのでデートしているのだと思い、そう問いかける。
「違うよ。これから一緒に図書館に行くだけだよ。この前の美優さんの話を聞きたいと思ってね」
雄太が穏やかに答える。
実は前のお昼休みに美優が言っていた『本当の平和』がどういうことなのか気になった雄太は美優を図書館に誘ったのだという。雄太は研究内容こともあって、美優からその話を聞きたいと思っていたということだった。
「結構興味深い内容だったからね。一度、詳しく話を聞きたいと思っていたんだ。だから、図書館でその話を聞かせて欲しいってお願いしたんだよ」
「ふふっ、びっくりしちゃった。まさかこのことを聞きたいっていう人がいるなんて……」
美優と雄太がいつの間にかこんなに仲良くなっていたことに颯希が驚きを隠せない。手を握り、颯希が嬉しさの言葉を発する。
「これは……なんだか……」
顔を笑顔にしながら颯希が言葉を発する。
「驚きものの木カニのまにまになのです!!」
「訳わからんわ!!」
「別の名を驚きペッコリーノと言うのです!!」
「意味不明だよ!!」
颯希の良く分からない発言にすかさず静也が突っ込みを入れる。そんな二人のやり取りにニコニコしながら美優たちが笑う。
「相変わらず颯希ちゃんと静也くんは面白いコンビだね!」
「うんうん。お似合いだよね」
美優の言葉に雄太が頷く。
「颯希さん、パトロール頑張ってね。静也くんも頑張ってね。い・ろ・ん・な・い・み・で♪」
雄太の意味ありげな言い方に颯希が頭にはてなマークを浮かべる。一方、静也は顔を赤くしながら叫んだ。
「う……うるせぇぇぇぇぇ!!!」
その後、美優と雄太と別れてから颯希たちはパトロールを再開した。桜東地区を中心にパトロールを行う。すると、一つの公園が目に入りそこを清掃活動することになった。
公園といっても、規模は小さくて人はいない。ベンチの近くに吸い殻が落ちていたり、空き缶が転がっていたりしている。颯希たちはそれを分別しながら持っていた袋に入れていく。
その時だった。
「きゃっ!!」
近くで声が聞こえた。その声に驚いて颯希たちが声の方向に顔を向けると、黒いパーカーを着た一人の女の子が尻餅を付いている。
「大丈夫ですか?!」
颯希がその女の子に駆け寄り、声を掛けた。
公園で女の子に声を掛ける一時間前のこと。
理恵は鞄にネットで買ったあるものを忍ばせると、家を出た。そして、颯希たちを探してあてもなく歩く。その時、公園の近くに颯希たちがいるのを見つけて、その様子をそっと窺う。颯希が一人になるのを待ちながら見つからないように木々があるところで身を潜めていた。
その時だった。足に何かが這っているのを感じて目を向けたら、ムカデが足に纏わりついている。虫の苦手な理恵はその状況に声をあげた。
颯希が理恵に近寄ってきたので、理恵は逃げようとしたが、足に絡みついているムカデをそのままにも出来なくて叫びながら手で掃おうとするがなかなか掃えない。颯希は理恵の足に絡みついているムカデを手で掴むと、草むらにそっと放した。
「もう、大丈夫ですよ!」
颯希が笑顔で言葉を綴る。
理恵が立ち上がろうとしていたので、颯希は手を差し伸べた。
――――パシッ!!
理恵はその手を跳ねのけ、立ち上がると颯希に威圧感を与えるように鋭い瞳で睨む。
「……え?」
颯希がその様子に思わず声を出す。
――――ドンっ!!
急に理恵が颯希を突き飛ばし、颯希はその場に尻餅を付いた。理恵はそのまま後ろを振り向くと逃げるように走り去っていく。
「颯希!大丈夫か?!」
静也が慌てて近寄り、颯希に手を差し出す。
「あの視線……」
颯希は最近感じる視線と似ていることを感じ、小さく呟いた……。
凛花がいる病室では、今日も母親がお見舞いに来ている。愛しい我が子の手を握りながら、祈るように言葉を掛け続ける。
その時……。
――――ピクッ!
微かに凛花の指が動く。
そして、ゆっくりと目を開いた……。