12.
颯希たちは息の上がっている拓哉と一緒にとりあえず家にお邪魔した。キッチンに行き、拓哉は水を飲むと次第に落ち着いてきたのか、話し始めた。
「昨日、静也が帰って来た時に、明日は家にいて欲しいとは言ったんだ。君たちも来るから一度ちゃんと話をしようと言ってね……。朝になって、静也の部屋に行ったら返事がないのはいつものことだけど、物音一つなかったからもしやと思い部屋を開けたら、すでにいなくてね……。どうやら朝早くに家を出たのだろう……。それで心当たりを探していたんだよ……」
「静也の奴……、話する気はねぇってか……」
拓哉の言葉に来斗が苦々しく答える。
「私たちも静也くんを探しましょう!!」
颯希は立ち上がると、声をあげた。
そして、みんなで静也の捜索を開始した。
バラバラで動き回るとよくないということでみんな一緒に固まって探す。近所の公園、ゲームセンター、噴水の広場……。でも、どこにも静也の姿は見つからない。
「何処にいるってんだよ……」
かれこれ一時間以上探したがなかなか見つけることができないでいた。途方に暮れるように町を歩く。
そこへ、一人の老人が声を掛けた。
「おや、颯希ちゃんじゃないか!」
「幸さん!!」
通りかかった老人が優しく声を掛ける。颯希は老人に駆け足で近寄り、声をあげた。
「こんにちは、幸さん!」
「今日もパトロールかな?いやぁ、精が出るな。それに今日は仲間も沢山いるな。一緒にパトロールかい?」
幸雄は来斗たちにも微笑みかける。
「その……、男の子を探しているのです……」
「男の子?」
颯希の言葉に老人がはてなマークを浮かべる。
「はい、黒髪に一部赤色のメッシュを入れた男の子なのです……」
颯希の言葉に老人は考えると声を発した。
「もしかして、『静也』という子かい?」
老人の口からその名前が出て颯希たちは驚く。
「幸さん!知っているのですか?!」
「今の時間にいるかどうかは分からんが、付いてきなさい」
老人である幸雄の言葉に颯希たちが付いて行った。
「……そうかそうか。颯希ちゃんたちは静也の友達だったんだな。で、あんさんが静也の父親というわけか」
颯希たちの話を聞いて幸雄はカラカラと笑った。
「まぁ、若くてもいろいろあるからな。なぁに、心配はないさ。静也は恵まれとるよ。こんなに沢山の友達が心配してくれるんだからな……」
幸雄はそう言葉を綴る。
しばらく歩くと潮の匂いが漂ってきた。海が近いのだろう。堤防を乗り越えて、浜辺に行くと、静也が海の方を眺めながらしゃがり込んでいる姿が見えた。
「静也!!」
拓哉が声をあげる。
静也はその声に驚き振り返った。そして、颯希たちを見るなりその場から慌てて離れようとしている。
「逃がすかよ!!」
来斗が駆けだした。スポーツをやっているだけに足が速い。徐々に静也との距離を詰めていく。しかし、負けじと静也も逃げる。
「待てよ!静也!!」
「お前らにはカンケ―ねぇだろ!!」
「俺たちの話を聞けよ!!」
「はっ!誰が聞くかよ!!」
「お前は……お前は誤解している!!」
――――ズシャァ‥‥!!
来斗が静也に飛び掛かりその勢いで二人とも砂浜に倒れた。
「捕まえたぞ!!」
「放せよ!!」
来斗の腕の中で静也が必死に藻掻く。そこへ、颯希たちが駆け寄ってきた。
「静也くん!拓哉さんの話を聞いてあげて欲しいのです!!」
「やだね!聞きたくねぇよ!!」
――――ピコン!!
颯希が持っていたピコピコハンマーで静也の頭を叩いた。
――――ピコピコピコ!!
何度も颯希がピコピコハンマーで叩く。
「みんな、本当に心配しているのですよ!」
「静也くん、苦しんでるのは静也くんだけじゃないよ?僕も来斗くんも……それに拓哉さんだってみんな心配してるんだ……。それに結城さんだって心配してこうやって来てくれてるんだよ?」
「静也、わしも言っただろう?一度ちゃんと話をしてみるといいってな。みんなお前さんを何とか救ってあげたいって思ってくれてるんだ。静也のためにみんな必死なんだよ……」
「幸じぃ……」
幸雄の言葉に静也が涙を流す。
このままじゃ何も進まないことは分かっている……。
静也のためにみんなが何とかしようとしてくれている……。
「静也、話を聞いてくれ……」
拓哉が静也の前に立ち、懇願するように言葉を発する。
すると、静也はポケットから一枚の紙を取り出した。そして、その紙を広げて拓哉に突き付けるように見せる。
「じゃあ……じゃあ、これはどういうことなんだよ?!」