殺戮の理由
「あの女か」
街の角から美里を見ている二人の男がいた。
「ええ、あれが織田エイミの実姉の藤堂美里です。凄腕の殺人鬼だそうで」
「凄腕の殺人鬼ってなんだそりゃ」
煙草を咥えた中年の男は警察官で警部の地位にある。高身長で鋭い眼光、身体の筋肉も張りがある一目で強者だと分かる。
「プロの殺し屋ってわけじゃないみたいです」
「素人か」
「ええ、趣味の一環らしいです」
「いい趣味してんな」
「それにハンターとしても有名でしてね」
「ハンター? ああ、あの頭の可笑しい食人鬼どもの食料調達係か」
「ハンターとして契約してるわけじゃないみたいですけど、彼女の狩った獲物は人気があって予約で一杯らしいです。ただ気紛れで、そうそう手に入らないとか。食人鬼はなるだけたくさん食べたいのに、あの女はおかまいなしで原型を留めないように破壊しちまうみたいで……笹本のシェフがこぼしてましたよ」
部下の田中は頭をかいてぺこぺことした。
「織田に食人鬼会がついてりゃ、怖いもんなしだろうな」
「食人鬼会、通称、鬼道会には政治家から暴力団までメンバーにいますからねぇ、ぶっちゃけあの女が最強でしょうね。うちらみたいな警察内にも彼女の崇拝者がいますよ」
「最近この街にねじ込んで来てる中華系マフィアの黒龍会も狙いはあの女か」
「そうですかね?」
「あの女を取り込めばこの街だけじゃねえ、日本の半分は手に入るつもりでいるんじゃねえか」
「そんなにですか? 織田と鬼道会はそこまで女に肩入れしますかね? 相手が中華となればさすがに切るんじゃないですか?」
「さあな。織田みたいな高級なお歴々の考えてる事なんぞ知らん。黒龍会と相打ちにでもなって双方滅びりゃいいが、そうしている内に市民に害が出てる。織田も鬼道会も野ざらしのままならせめて外国勢の侵入は阻止せんとな」
「ですよね」
「当分、あの女に張り付いとくぞ。どこから接触してくるか分からないからな」
と菅谷は言った。
菅谷は警察官でこの食人鬼達の街へ赴任してきたばかりだ。
正義感が強く、身体も大きく腕もたち、頭の回転も速い。
つまりはこのような街では煙たがられるタイプだ。
鬼道会の事ももちろん耳にしているが、食人など到底信じられない常識人だ。
それでも警察自体が組み込まれているのだから、個人ではどうしようもなかった。
以前は冷凍物、それも外国産の胡散臭い肉を使っていた笹本シェフの店も今では完全国産生肉、新鮮を謳っているのだから、この街の名は上がるばかりだ。
それもこれも凄腕のハンター美里が現れてからだと耳にしたが、新参者の自分ではどうしようもなかった。ただ機会はある、と思っている。
実際に人を殺す現場に間に合えば逮捕は出来る。
「笹本シェフのレストラン、国産だって謳ってますけど、この間は違ったようですよ」
と田中が言った。
「何?」
「日本人じゃなかったらしいです。ハンターからの要請で現場掃除にいくでしょ? 浮浪者が公園で子供を襲おうとしてハンターにやられたんですが、それが日本人じゃなかったらしくて、笹本シェフは自分の店では使わないけど、解体し冷凍して他所に回すって言ってましたよ。それだけでも結構な利益になるんだとか」
「頭、おかしいな」
菅谷は頭を振った。
とても信じられない話だが、この街では全て事実だった。
「でもあの女はクズしか殺さないらしいですから、被害者は全て悪人ですよ」
「あほか、悪人なら殺してもいいのかよ」
「それは……」
部下の田中は首を傾げた。




