飲み食い
美里はそう思ったのだが、宙の身体が器用に動いて、長い足が美里の顔を蹴り飛ばす瞬間に二人の間に腕がにゅうっと現れ宙の足首を掴んだ。がしっと足を掴まれた宙の身体はバランスを崩し、顔から落下した。宙がその腕の主を倒そうと思えばそれも簡単だったが、宙はそれをせずに諦めて床に落ちた。休憩室の椅子やテーブルを吹き飛ばし、宙は大袈裟に倒れ込んだ。
「いったーい、アキラ君、あんまりだよぅ」
鼻を押さえながら宙が起き上がった。
「てめぇ、美里に手を出したら、殺すぞ」
アキラは殺気を放ちながら、宙へ大型ナイフを突きつけた。
「アキラ、そのままその生意気な小僧を押さえつけといて」
と美里の声がした。
「OK」
アキラは宙を身動きできないように押さえた。美里の影が宙の上に被る。
「せっかくだから飲み食いして行ってちょうだい」
そう言って美里は宙の顔へ熱々の紅茶をひっかけた。
「あっつ!」
と悲鳴を上げたのはアキラだった。
宙も暴れたがアキラの力が緩まないので、身動き出来なかった。
「熱いよ~~」
と言った宙の口へ何かがねじ込まれた。
柔らかい、ネチョっとしたモノ。
「それ、ネズミの脳みそ」
と美里が言った瞬間にゲボォと宙が吐いた。
「ギャー!!!!!!」
と悲鳴を上げて、嘔吐しながらバタバタと暴れたのでアキラは拘束を止めてさっと身を引いた。
宙はうげえうげえと床に吐き出した薄緑色の物体を見てから真っ青になってもう一度嘔吐した。
「中華系マフィアがそんな騙されやすくて殺し屋なんか出来るの? ピスタチオのクリームで作ったケーキ、美味しいのに」
と美里が言い、彼女を睨みつけた宙はナイフを掴んで飛びかかった。
しかしアキラに阻止されて壁に叩きつけられた。
「て、めえ、殺す……」
精神的な動揺が宙の身体に震えを起こしていた。
冷静に冷徹に、残虐な殺しも遊びのようにこなしてきた宙のバランスを崩した。
「忙しいから帰ってもらえる? アキラと遊びたいならどこか外で約束してね」
美里はそう言って宙に背を向けた。
「なんだ……よ、あの女ぁ、ネズミの脳みそなんて言いやがって! 言いふらしてやっからな!!!!!! この店はネズミの脳みそ使ってるって!!!!!!!」
アキラは呆れたように肩をすくめて、
「そんなことしたら、次は本当に喰わされるぞ。忙しいんだから、遊びに来るなら時間を考えろよ、お前」
と言った。
「ちぇーだ」
宙は起き上がり、シンクの水道で口を注いだ。




