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第63話 VSケルベロス6

 ミーナから少し離れた場所。

 ケルベロスのブレスにより残骸となった木の陰から、ガヴリーはこっそりと様子をうかがっていた。


「やはり面白いですね、あなたがたは」


「うひゃい!?」


 耳元で話されて、びくーんっとガヴリーが飛び上がった。

 浮遊している小型化したバルビナが、ニコニコと笑みを浮かべている。


「翼人族と人間のハーフ、魔族、そして人間。

 バラエティ豊かです」


「……今は妖精もどきもいるじゃない。ハーフエルフの」


「ははは、そうでしたね。妖精のように羽は生えていませんが」


「なんで浮いてられるの?」


「今の僕は、ほぼほぼ精神体のような存在ですから。

 それよりも、よろしいのですか、ガヴリーさん? こんなところにいて」


「…………」


 ガヴリーがミーナを見る。

 ミーナの身体からは、とんでもない量の魔力が感じられた。

 傍から見ても、何かしらの上級魔法を使おうとしているのは理解できた。


「ボクが行って何するっていうんだよ。

 ケルベロス相手に戦えって言うの?」


「それはガヴリーさんには無理でしょうね」


「じゃあどうしようもないじゃん……」


「おや、本当に?」


 バルビナの視線はミーナへと向いていた。


「ガヴリーさんの回復魔法で、ちゃっちゃと治してあげることはできるでしょう?」


「無理無理無理無理無理絶対無理!!」


 ガヴリーは両手を頭に当てて、あわあわと震えながら涙目になった。


「だって翼人族なんだよ……」




 ◇ ◇ ◇




 ミーナのもとへと向かう途中、リーリエルは断定した。


「あいつは人間ではない。天使だ」


「はぁ?」


「この世界風に言うなら、翼人族というやつなのかもしれんがな。

 どちらにせよ、あいつは力を隠している」


「ミーナが翼人族? そんなことあるわけないじゃん。

 だいたい翼人族って、人翼戦争で全滅したんだよ。

 人間側も死にまくったけど、ちゃーんと翼人族も殲滅したって話。

 リーってば知らないの?」


「知っているからだ」


「なるほど、翼人族の生き残りですか。

 興味深い話ですね」


「だから全滅したって…………え? えええええええ!? キミ、死んだはずじゃ!? なんで生きて……っていうか、ちっちゃっ!?」


 唐突に現れたバルビナにガヴリーが驚愕する。

 バルビナは、掌大の大きさになっており、空中に浮遊したままリーリエル達と並走していた。


「ミーナさんが翼人族の生き残りならば、ケルベロスを倒すこともできるでしょうか?」


「さてな、それは奴次第といったところだ」


「おや、随分と頼りにしているのですね。

 リーリエルさんは他人を当てにするタイプではないと思っていましたが」


「彼我の戦力差はわかっているつもりだ」


「ちょっとちょっとちょっと!? リーは、なんで普通に話してるんだよ!?

 その人、ケルベロスのブレスで死んじゃってたじゃん!!」


「そうだな、お前、なぜ生きている?」


「あれは僕の魔力で精製した分身体でして。

 どうも意識を部分的にケルベロスに使われてしまっていたようで。困ったものです。

 まぁ、今いる僕も分身体なんですけどね。

 魔力が乏しくて、この形が精一杯というわけです」


「だ、そうだ」


「……分身体なんて技術、ボク聞いたこともないんだけど」


「気にしても仕方あるまい。

 驚きはしたが、些末なことだ」


「些末なことって…………あー、もー、はいはい。そうですね、わっかりましたぁ!

 やっぱりボクがしっかりしなきゃだね!」


 


 ◇ ◇ ◇




「しかし、あのままでは確実に魔法は失敗に終わるでしょう」


 バルビナの言葉に、ガヴリーがびくっと震える。


「わかりますよね? 魔法を使う者ならば、制御できない魔法の恐ろしさを。

 魔力の暴走によって、よくて自爆。

 あの魔力量ですと、ここら一帯がすべて吹き飛びかねません、文字通りの意味でね」


「そ、そうなるとは、限らないんじゃないかなぁ?

 奇跡的に、うまくいっちゃう、なんてことも……」


「魔力を安定させるだけで、あれだけの時間をかけたのです。

 今度はその魔力を練り上げて、必要な分の魔力を確保し、そこから魔法を発動させるための制御もしなければならない。

 そもそも魔力を安定させるなど、技術的には基礎中の基礎。

 魔法使いならば秒でできて当然のことでしょう」


「う……」


 ガヴリーはぐうの音も出なかった。

 魔弓を使用して、呪文だけで即座に魔法を使えるガヴリーにとって、魔力の安定など一瞬でできることだ。

 相当甘く見積もっても、今のミーナの様子で魔法が成功するとは到底思えなかった。

 

「ミーナさんの魔法技能は、拙い。

 加えて、あの怪我では相当集中力を阻害されるでしょう。

 これをどうにかするためには……」


「わかった! わかったよ!

 行けばいいんでしょ! やればいいんでしょ!!

 やるよ、やってやるよ!!」


 ガヴリーは半べそかきながら、意を決してミーナのもとへと走った。

 魔法使用のための魔力を練り上げているミーナが、戻ってきたガヴリーに気づく。

 ミーナが振り返ると、


「ひぃぃぃぃぃぃぃい、食べないで食べないで!?

 ボクおいしくなんてないからぁ~~!!」


「食べないよ……」


「じゃ、じゃあ、死ぬまで斬り刻み続けたりとか、つま先から炎で焼き続けたりとか……」


「そんな怖いことしないよ!

 ガヴちゃんは、私のことなんだと思ってるの!?」


「だって……翼人族って、そんな感じじゃない……?」


「全然違うってば!

 ……少なくとも私は私だよ。翼があるからって、ひどいことなんてしないよ。

 私、ガヴちゃんのこと好きだもん」


「そ、それは……ボクも……………………はっ!? もしや好きだからこそ残酷なことをしたいっていうヤンデレ的な!?」


(………………なんだろう、ちょっと面倒くさくなってきちゃったなぁ)


「な、なんで急に黙るんだよ!? 怖いよ!?

 ちゃんとボクを安心させてよぉ!?」


「ごめん、ガヴちゃん。

 今集中しなきゃだから、後でね」


「ぞんざいな扱いしないで!?」


 涙目になっていたガヴリーだったが、すっと涙が引く。

 ケルベロスの目が、二人を捉えていた。


「やはり、お前が最も危険だな」


 くぐもった声を向けられ、ミーナは顔をしかめ、ガヴリーはただただ恐怖した。


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