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第62話 VSケルベロス5

 立ち上がったケルベロスの瞳は爛々と赤く燃えていた。

 その胸中には明確な怒りがあった。


「お前もあの女のような人外の生き物か!?」


「俺は魔族だ。

 魔王四天王リーリエル」


 ケルベロスがリーリエルの頭に注目する。

 そこには小さな角が2本生えていた。


「魔族だと?

 魔族など、魔法ばかりが得意の脆弱な生き物のはずだが。

 お前は随分と毛色が違うようだな?」


「俺は俺だ。

 有象無象共と一緒にするな」


 リーリエルの泰然とした態度に、ケルベロスは思わず笑いがこみあげてきた。


「はっはっは!

 それで、お前はどうするつもりだ?

 その拳、なかなかの威力だった。我を吹き飛ばしたのだからな。

 だが、それだけだ」


 ケルベロスの首が下がり、リーリエルと距離を近くする。


「その程度の力で、我と戦う気か?

 すぐに後悔することになるぞ?」


「ペラペラペラペラとよく喋る犬だな。

 そろそろワンっと鳴いてみたらどうだ?」


「……貴様」


 怒りをあらわにして、ケルベロスが左首の口を開く。

 即座に衝撃波を伴うブレスが放たれ、リーリエルを襲った。


「ふん!」


 迫るブレスに対し、リーリエルは拳を突きだすとブレスは霧散していった。

 

「……なんだと?」


 ケルベロスが再度ブレスを放つが、結果は同じであった。


「我のブレスが効かぬだと!?」


「随分と脆弱な攻撃だな? それとも犬らしくじゃれてきていたのか?

 あいにくだが、俺に犬をかわいがる趣味はない」


「ほざけっ!!」


 ケルベロスが自身の魔力を練り上げる。

 より強力なブレスを放とうとしたのだが、リーリエルは即座に跳躍した。


「隙だらけだ、駄犬が!!」


 勢いのまま、リーリエルがケルベロスの顎下に拳を打ち込む。

 大きく体勢を崩し倒れそうになるが、どうにかケルベロスは耐えきった。

 リーリエルは着地と同時に走り、ケルベロスの右前足の付け根を殴打して駆け抜ける。

 ケルベロスは意に介さず、狙いを定めた。


「ちょこまかとっ!!

 死ね!!!」


 轟音が響き、今度こそブレスはリーリエルを直撃し、爆砕する。

 土煙が巻き上がり、ケルベロスが哄笑した。


「ぐはははははは!!

 魔族ごときが我と事を構えようなどと片腹痛い!!

 少し本気になればこのとおりよ!!

 我を止められる者などおらんのだ!!!」


「……そうだな。吠えるだけのことはある」


「なっ!?」


 土煙がおさまると、リーリエルの姿が明らかになった。

 両手には削られたような傷があるものの、負傷はそれだけだった。

 ケルベロスのブレスを、リーリエルは打撃術ストレングスで強化した拳で連続で叩き、その威力を殺していた。

 なおかつ、魔力防護による防御もできるだけ効果が高くなるようにしていた。


「誇って構わんぞ。

 この俺に傷をつけたのだ。ただの犬ができるものではない。

 少し甘く見すぎていた、認識を改めよう」


「馬鹿な!? 魔族が我のブレスを受けて、生きていられるなど……そんなことがあるはず……」


「俺も本気でやってやる。

 ケルベロス、楽に死ねると思うなよ」


 リーリエルは、ケルベロスの前に立ってから集中し続けていた。

 練りに練り上げた魔力を、一点へと込める。


打撃術ストレングス!」


 右手に全力の付与魔法エンチャントをかけて、ケルベロスの眼前へと躍り出た。




 ◇ ◇ ◇




 リーリエルとケルベロスが戦う間、ミーナは魔力制御に集中していた。


(力任せの魔力弾でもケルベロスに傷をつけることはできるけど、おそらく倒しきることはできない)


 ミーナの魔力弾はケルベロスの首を一つ破壊していたが、それはあくまで口内という比較的脆い部分に撃ち込めた偶然の産物である。 

 自身に宿る膨大な魔力を制御し魔法として使わねば、力を発揮することはできない。


「でも、私が魔法さえ使えれば……きっとなんとかなる……」


 噴き出すを汗を拭う余裕もない。

 体内で暴れ狂う魔力が、制御を無視して霧散しそうになる。

 ぐっと歯を食いしばって耐える。


「このっ……!!」


 緻密な技術などないミーナには、感覚と気合だけを頼りにして安定性を取り戻した。

 不規則に呼吸を繰り返し、ミーナは魔力の制御を続ける。


(リー君が、ケルベロスの気を完全に引き付けてくれてる。

 だから私は、何も気にせず魔法だけに集中できる。

 でも、リー君だっていつまでも戦っていられるような状態じゃない……)


 ミーナは気づいていた。

 今のリーリエルは、常にフルパワーで戦っている状態だった。

 ペース配分を無視して常に全力疾走をしているようなもので、いつ力尽きてもおかしくない。

 だが、そうでもしなければ、強大なケルベロスと渡り合うことなど不可能であった。


(全力だからって、短時間でも互角にやり合うなんて普通は無理だし、リー君の強さを加味しても上出来すぎ)


 突然強くなっちゃった? とミーナは疑問に思う。

 疑問に思うが、それはミーナの力にもなった。

 全力疾走をし続けているのは、自分も同じだった。


「……得意不得意なんて言ってられないよね。

 リー君だって頑張ってるんだから、私だって……!!」


 荒れ狂うばかりだった魔力は徐々に安定してきていた。

 ミーナは腰を落として丹田に力を入れる。

 どっしりと構え、魔力を練り上げ続けた。

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