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第44話 さっぱりーリエル

 風呂からあがり外へ出ると、待ち構えるようにミーナが立っていた。


「ミーナちゃん。こんちは」


「こんにちは~。

 ベルグさんも来てたんだね~」


 ミーナの頬はほのかに赤い。

 まだ銭湯から出て、それほど時間は経っていなかった。


「リーくん、ちゃんと髪乾かしてきたんだ。意外。かわいーー」


「うるさい。ベルグの奴がしつこかったのだ。

 無理矢理ドライヤーとやらで熱風をかけられたぞ」


「おー、ベルグさん、グッジョ…………え?」


 ぴたりと、ミーナが静止する。

 ここに至って、ようやくベルグとリーリエルが一緒に銭湯から出てきた状況を認識したのだ。

 はわわわわ、と慌てるミーナにベルグがピンっと来た。


「ミーナちゃん、リーのことなら大体話は聞いてる。

 まったく信じられなかったんだが、その、実物を見てな」


「……あぁ~」


 微妙な返事をするミーナに、ベルグは微妙な愛想笑いを浮かべた。


「リーくん、今も魔法は使えるの?」


「問題ない。これ以上知る者が増えればどうなるかわからんから、他に話そうとは思わんがな」


「ふーん、そっか。

 じゃあ気を付けなきゃだね、特にガヴちゃんやイレーヌさんの前では」


「気を付けるに越したことないけど、俺はその必要性、ほぼほぼ感じないんだよな。

 話を聞いて事実は理解したが、感覚はまるで追っつかん感じだ。違和感がすごい」


 ベルグがリーリエルを見て肩をすくめる。

 

「そうかも。っていうか、リーくんってば随分印象変わったね」


 ミーナは、いつもよりもさらさらになったリーリエルの頭を撫でようとするが、ギリギリでかわされる。


「この外見でバサバサってわけにもいかないだろ」


 嫌がるリーリエルをどうにか納得させて、ベルグは備え付けの櫛でリーリエルの髪を梳かしていた。

 普段構わないでいるせいか、身体を洗って軽く髪を整えただけでリーリエルは見違えてしまっていたのだ。


「まったくリー君ってば、ちゃんとしてればこんなにかわいいのにね。

 もっと身だしなみに気を遣ってもいいのに」


「男がかわいくてどうする。

 だが、風呂自体は悪くなかった」


「そういえば、リー君もっと早く出てるかと思ったけど、結構長かったよね。

 気に入ったんだ?」


「悪くない」


「そっかー。じゃあまた来ようね」


「あぁ」


「いや、リーは来ちゃダメだろ。

 少なくとも男湯には」


「あ、そっか。今日はたまたま他にお客さんがいなかったから……」


「普通にしていれば誰も俺のことなど気にせんだろう」


「めっちゃ気にするわ!

 お前が男湯にいたらすんごい目立つんだからな。

 そんでバレて、あっという間に魔法が使えなくなるんじゃないか?」


「む」


 リーリエルは眉をしかめ、むむむと唸った。

 リーリエルの諦めきれない様子を見て、


(本当に銭湯が気に入ったんだな)


(本当に銭湯が気に入ったんだね)


 と、二人はしみじみ思った。

 



 ◇ ◇ ◇




 3人は腹ごしらえのためギルドに寄ると、受付にいる少女から声をかけられた。


「ベルグさん、お疲れ様です!」


 それは紫がかった黒髪の少女だった。

 年は14歳。

 リーリエルやミーナよりも少し小さい背丈である。


「プレメアちゃんじゃないか。今日はコリンさんの手伝い? 偉いな」


「えへへ。ギルドの受付、楽しいですから。

 冒険者さんたちを手助けできるの、嬉しいです。

 あ、ミーナさんも、そちらの方も、お疲れ様です!」


 ミーナは軽く手を振って、リーリエルは無反応だった。

 プレメアは気を悪くした風もなく笑顔を浮かべていると、ギルド内の空気が和らいでいった。

 周りにいる冒険者たちは、普段ではありえないほど緩っとしたものとなっていた。


「プレメアちゃん、ホント癒されるわ~」


「いつまでも受付にいて欲しい。

 辛い依頼も、あの子にお疲れ様ですって言われりゃ何てことないな」


「そもそも、スキンヘッドのおっさんが受付やってること自体おかしいんだよ。

 あぁ、早く正式に雇われてくれねぇかなぁ」


「なぁ、ところであの赤髪の娘、だれだ?」


「知らね」


「ベルグの野郎、また可愛い子引っかけてきやがったのか……」


「おい、マジでかわいいじゃねぇか!

 あの野郎、イレーヌだけでも許せねぇってのに、ミーナやガヴリーやリーリエル……とどまることを知らねぇな!」


「よし、殺そう」


(爽やかスマイル浮かべて殺人を決意するなよ……)


 ベルグは漏れ聞こえてくる冒険者たちの言葉に顔を引きつらせていると、受付にコリンが戻ってきた。青筋を浮かべている。


「おめぇら……昼間っから飲んだくれてねぇで、ちったぁ真面目に働いたらどうなんだぁああん!?」


 コリンの重圧に、冒険者たちは気圧され静かになった。


「ったく、仕様のねぇ連中だぜ」


「お父さん、そんな風に怒っちゃダメだよ。

 みんな頑張ってるんだから、休むのだって大事だよ」 


 プレメアの言葉に、ギルド内が再び弛緩する。


「プレメア……お前、将来ダメ男引っかけてきそうだよな」


「そんなことないもん。

 ね、ベルグさん」


「あ? あぁ。手伝いとは言っても、仕事はちゃんとしてるし、しっかりしてるじゃないか。

 プレメアちゃんなら大丈夫でしょ、コリンさん」


「…………あぁ、まぁ、なぁ。

 ほら、ここはもういいから、お前はあっちの資料をまとめといてくれ」


 コリンに背中を押されて、「もう、わかったよ」と言ってプレメアは奥へと向かう。

 その際、一度振り返って手を振っていた。 

 コリンは小さくため息をついて、ようやくコリンはミーナに気づいた。


「おお、ミーナ。昨日はご苦労だったな。結構な数のオークを討伐していたみたいじゃないか。

 依頼主のデグレア殿も、気にかけてたぞ」


「ベルグさんやイレーヌさんと一緒だったから。

 一人の時よりも、ずっと安全に立ち回れるね」


「いつも単独ソロで動いていたお前も、ようやくまともにパーティ組むようになったんだなぁ。

 感慨深いぜ。

 …………そういえば、その娘は誰だ? 新しい仲間か?

 また随分可愛らしい娘を連れてきたな」


 コリンが興味深そうに視線を向けると、リーリエルは無愛想に告げた。


「お前は何を言っている。俺だ」


「え? ……え? その声…………まさか、リーリエルか?」

 

「それ以外の誰に見える。その年で耄碌したか?」


「…………お前さんが変わりすぎなんだよ。

 どういう心境の変化だ?

 まぁ、似合ってはいるが」


「変化などしていない。

 ベルグにやられただけだ」


 コリンが感心するように、ベルグに顔を向けた。


「魔法か?」


「大した手間はかけてない、というか本当に大したことしてない。

 髪を梳いただけなんだが……」


「それでこんなに魅力爆上がりになるんだから、リー君のポテンシャルは半端ないね!」


 ミーナが興奮気味に鼻息を荒くする。


「明日から毎日私が櫛通してあげるね、リー君!」


「お前は触るなよ」


「なんで!?」


 ガーンとショックを受けるミーナを、リーリエルは完全に無視した。

 コリンは空気を変えるように、リーリエルに話す。


「そ、そういえばリーリエル。昨日は大変だったみたいだな。

 ジョナサンからも話は聞いてるぞ」


「ジョナサン? 誰だそれは」


「お前さんが蹴り倒した冒険者だよ。

 なんでも、多勢のオークに襲撃されて捕まって、逃げ出す隙をお前さん達に作ってもらったんだって?」


「へぇ。リー、いいとこあるじゃないか」


「………」


「ベルグさん、それ、リー君は絶対意図してないよ。

 完全に偶然の結果だと思うな」


「そうか?

 いや、そうだな」


 ミーナとベルグの言う通り、リーリエルはジョナサンの存在自体を気に留めておらず、勝手に結果が転がっただけだった。

 このことに関して、リーリエルは毛ほども興味がなかったのでスルーした。


 リーリエルはオークの討伐報酬とオークの魔石を換金し、オーガについても話す。


「オークを率いていたオーガ、か。

 近年、オークの数が増加傾向にはあったが、そのオーガも何か関係しているのかもしれんなぁ。

 ともあれ、この話を依頼主に伝えればオーガの報酬についても用意されるだろう。

 報酬は、山分けでいいのか?」


「いや、ガヴリーに渡せ。

 アレを倒したのは、あいつだからな」


「そう、か」


 コリンは顎に手を当てて思案する。

 思考を整理するように呟いた。

 

「リーリエル、それとガヴリーも……いや、他にも、パーティ全体に声をかけた方がいいか……」


「パーティ?」


「ミーナと、ベルグやイレーヌだな」


「俺たちはパーティなぞ組んでおらんぞ」


「なに? ……いや、パーティでなくとも構わない。

 信頼できる冒険者であればな」


「一体なんの話だ?」


「単純なことさ」


 コリンは声を潜めて告げた。


「依頼だ。理由わけありの護衛依頼だ」



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