第35話 でーと?のお誘い
武器屋での買い物を終えたリーリエルたちは、ギルドを訪れていた。
併設されている酒場のテーブル席で、手を振っている男がいた。ベルグだ。横にはイレーヌが座っている。
「よう、お三人さん。
依頼でも受けに来たか?」
ベルグが席に促すと、ガヴリーが上機嫌に勢いよく座った。
「へっへー! 実はね、ボクってば武器を新調しちゃったのさぁ!」
ガヴリーの手には、先ほど武器屋で購入した魔弓が握られている。
それは取り回しのきく短弓で、ガヴリーの体格でも容易に扱えるものだった。
「魔弓じゃないか。高かったんじゃないか?」
「そーなんだよねー。でもいい装備だったからついつい奮発しちゃったんだ!
ボクは万能型だけど、ちょーっとばかり攻撃力が足りてないかもだから。
この前の悪魔との戦いでは歯が立たなかったしねー」
「……悪魔を基準に考えるのもすごい話だよね」
「ミーナってばそんなこと言って! 悪魔倒したのはミーナじゃん!
でもねー! この魔弓があれば、ボクだって大幅な攻撃アップが望めるんだよ!!」
「ほう。んじゃ、今日はガヴリーちゃんの新しい武器の試運転ってところか」
ベルグの言葉にガヴリーが元気いっぱいに頷く。
「そうそう! だからなんか、いい感じの討伐依頼でもないかなーってね!
ベルグたちも行かない?」
「俺はいいぜ」
ベルグがイレーヌに顔を向けると、イレーヌが微笑んで頷いた。
「私も構わないわ。今からだと、北の山のオーク討伐が妥当ね」
「オークかー。うん、耐久力ある雑魚だし、試し射ちにはちょうどいいかも!」
「じゃあ、さっそく行ってみよっか。
リーくんもそれでいいでしょ?」
「俺は行かん」
「うん、じゃあレッツ…………え!? 行かないの!?」
リーリエルの返答に、ミーナが驚いて振り返る。
好戦的なリーリエルならてっきり賛同するものと思っていたが、続くリーリエルの言葉に、ミーナはさらに深く首を傾げた。
「別に用事ができた。
イレーヌ。付き合え」
「え? ……私、ですか? …………ええと……」
リーリエルからの突然の指名にイレーヌは戸惑ったが、数秒後には相好を崩した。
「わかりました。いいですよ」
「よし、ならばすぐに行くぞ。ついてこい」
リーリエルが出口へ向かって歩いていくと、イレーヌも鼻歌交じりに続いた。
ミーナが慌てて席を立つ。
「ちょ、ちょっと待ってよリーくん! どこ行くの!?」
「付近だ。お前たちはオーク退治をしていればいい」
背中越しにそれだけ言うと、リーリエルはギルドを出る。
イレーヌが扉付近で振り返り、小さくを手を振ってから出て行った。
周囲の喧噪をよそに、残されたミーナ達の席は慌ただしさが消えて静まり返る。
「……なんでイレーヌさん連れてくの?」
「さぁ?」
「……でーとのお誘いとか?」
「でぇ!? リーリエルがイレーヌを!? マジか!?」
「…………あは。そだね。
リーくんに限って、それはない、か」
ミーナは納得したようにつぶやいて、じゃあ何しに行ったんだろ? と首をかしげるのだった。
◇ ◇ ◇
「魔法の修練、ですか?」
「あぁ」
ギルドを出てから、リーリエルはイレーヌを連れて街の外に出ていた。
そこは、ゴルディート城へと続く森の一画で、以前リーリエルが大破壊した場所でもあった。
「詳細は省くが、今の俺は以前使えていた火系魔法がロクに使えない状態となっている。
代わりに水系統の魔法が使えるらしいのだが、今までまともに使ったことはなく魔法の種類すらほとんど知らんのだ。
お前は魔法使いだろう? だから、修練の相手として呼んだのだ。
無論相応の報酬も払おう」
「……お話はわかりました」
イレーヌは納得しながらも、僅かに眉をひそめる。
「けれど、どうして私に?
ミーナちゃん……は、剣士だから魔法が得意じゃなさそうですけど。
でもガヴリーちゃんなら十分に教えられると思いますけど」
「奴は好かん」
即座に一言で切り捨てたリーリエルに、イレーヌは間をあけてから噴き出す。
くすくすと笑ってから、イレーヌは気を取り直して頷いた。
「わかりました。それで私の出番と言うわけですね」
「気の乗らん修練など大した意味はないからな」
「そうですね。モチベーションは大事です」
イレーヌは笑みを浮かべて、人差し指を立てた。
「では、さっそく始めましょうか」




