第22話 すごいかわいい服脱
リーリエルは、教会に入ってきたハーフエルフの男を一瞥する。
背は今のリーリエルと同じくらい、どちらかというと痩せている。
緑髪の間から、人や魔族よりも若干長い耳をのぞかせていた。
「貴様がこの教会の神父か?
俺はリーリエル、ここへは呪いの解除のために来た」
「リーリエルさん、ですか?
……なるほど! 昨日来られなかったので、一体どうしたのかと思っていたんですよ!
では、ミーナさんもこちらへ来ているんですね!」
合点がいったように、男は表情を明るくさせた。
「待て、何を言っている?
貴様はミーナの知り合いか?」
「あぁ、すみません。昨日はあれから音沙汰がなかったものですから……」
男は、こほんっと咳ばらいをする。
「はじめまして、私はバルビナ。見ての通りのハーフエルフです。この教会の神父ということになっています。
実は昨日ミーナさんが、ここを訪れまして、そのときにあなたの話を伺ったのです。
私もあなたと話をしてみたいと思っていましたが……」
バルビナが腕まくりをして、器用にウインクをした。
「まずは、あなたにかかっている呪いを解くとしましょう!」
それから三十分後、リーリエルの呪いは無事解除されていた。
解除された瞬間、リーリエルは「うぉぉらあああああああああああああああああ!!!」っと絶叫して、豪快にゴスロリ服を脱ぎ捨てていた。
「厄介な呪いとは聞いていましたが、解除するのにこれだけ時間がかかるとは……。
呪った者からの、並々ならぬ執念のようなものを感じましたよ」
「……それは当たっているだろうな」
リーリエルは、持ってきていた替えの服に着替えながら、昨日の武器屋の店主を思い浮かべた。
げんなりしてきたので、すぐに考えるのをやめた。
「バルビナとやら、感謝するぞ。
俺ではこの呪いには対処できなかったからな」
「構いませんよ。これも神父の仕事ですから」
「そうか。で、対価はなんだ? といっても、俺には金はない。金が必要ならミーナから取るんだな。
そもそも、この呪いは奴が原因のようなものだ。元凶は、あのふざけた武器屋だが……」
「いえ、ご心配いりませんよ。
お金も、その他特に何も要求するつもりはありません」
「……無償で俺の呪いを解いたと言うのか?
胡散臭い話だな。貴様、何が狙いだ?」
「私は神父ですから。困った人を助けるのが仕事ですよ」
笑みを浮かべるバルビナに、リーリエルは一層厳しい目を向けた。
「それと、あなたのような見目麗しい方が着替える姿を眺められて、私はとても満足しています」
「……はぁ? 何を言っている貴様? 俺はおと…………な、ではない、貧相な身体だぞ」
リーリエルは怪訝な表情をして、はっと気づいてギリギリと歯を食いしばる。
男とバレるリスクは避けなければならなかった。
バルビナが胸を張って答える。
「体形など、些細なことです。
美しいものを見れば、誰もが満たされるものでしょう?」
「……貴様、もしやそういう趣味の者か?」
リーリエルがすり足で後ずさる。若干顔がひきつっていた。
バルビナが小さく噴き出す。
「ご安心ください。冗談です」
「……どの部分が冗談だったのかが気になるところだが…………。
まぁいい。それで、対価は本当に何もいらんというのか?」
「えぇ。と言っても、私達も生活しなければなりませんからね。
この教会は、孤児院も兼ねています。
何人か子供たちがいますので、本来であれば、お布施という形を取るなどして多少の金額は願い出たでしょう。
ですがミーナさんには、何かとお世話になっていますから。
彼女の頼みであれば、決して無下にはできませんよ」
「随分と、ミーナに入れ込んでいるようだな?」
「彼女には頭が上がりません。
ありがたいことに、教会に対するお金の工面をしていただいています。
それに、何度もこの教会に足を運んでいただいていますから」
「ほぅ?」
「ミーナさんは、とても義理堅い方なんですよ。
彼女と一緒にいるリーリエルさんなら、わかると思いますが?」
「……ふん。
ふざけた性格だというのは、この身をもって知っているがな」
心当たりがあるのか、それとも別の理由からか、バルビナは楽しそうに笑った。
「さて、本当はゆっくりとお話しできたらと思うのですが。
残念ながら、お迎えが来てしまったようですね……」
バルビナが、パチンっと指を鳴らすと、教会の奥へと通じる扉が開く。
同時に、「どわわーっ!?」という声とともに、雪崩のように人が倒れてきた。
「ミーナさん。盗み聞きは、あまり関心しませんよ?」
「…………あ、あははー。そーですねー」
ミーナはうつぶせになって、一緒に倒れた子どもたちの下敷きになっていた。




