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幕間

いつ頃からか、不思議な夢を見るようになった。

恐らく、ここではないどこかの、夢。


記憶力は良い方だと自負している。だから、いつしか楽しくなった。ここではない、どこかの知識、どこかの技術を手にする機会。


例えば──高層建築が乱立する国。


多くの人間が手にする、光る小さな板が気になった。鉱物らしきつるりとしたそれは、どうやら遠隔で連絡を取る道具のようだ。

……ふふふ。あの技術は役に立つ。いや、今現在も大いに役立っている。おかげでアニーに、不必要にヒトを近づけずに済むのだから。

父母とはいえ、アニーを苦しめる者は許せない。まだ汎用的とは言い難いが、屋敷の施設に取り入れることで彼女の好む静寂を守れるようになった。素晴らしい。

もうすぐ……離れていても、アニーの居場所がわかるようにできるだろう。可能ならば、二人だけの通信も。


そして例えば──多くの幻獣が住まう国。


幻獣と人間の立場が入れ替わったかのようなその国には、こちらでは貴重な幻獣についての知識が、単なる一般常識として転がっていた。好む物、好む場所はもちろん、幻石や、彼らの司る加護についても。

アニーに何の幻石を持たせるかは、かなり悩んだ。愛を司る猿の幻石。美を司る猫の幻石。繁栄を司る犬の幻石。

しかし、アニーの愛情が万が一、私以外の人間にも与えられたら……考えただけで許せない。

既に十分に美しく、可憐にして玲瓏たる輝きを放つアニーだ……邪魔な羽虫がたかるのなんて、見たくもない。

将来的には子孫繁栄……孕ませてしまうのは有りだと思った。アニーを私と繋ぐ強い鎖。欲望のままに征服し、清らかな涙も愛らしい痴態も全て、私の手のひらに閉じ込めてしまえば……。しかし、我が子といえど、私とアニーの蜜月を邪魔する者は必要ない。犬の幻石は、最終手段。

ならば、と結局、自由を司る鳥に決めた。羽ばたく羽を二つに分けて持つことで……アニーの受けた加護を、私が縛る。自由に羽ばたいていかないように。どこにいても、私の元に帰ってくるように。


「意欲的になるとか、活動的になるとか……」


自由という言葉をなるべく婉曲に、嘘をつかずに伝えた時。その言葉に顔を曇らせたアニーを、私は一生忘れない。全身に走った歓喜の震えも。

自由に羽ばたくための活力という名の加護を、アニーは喜ばなかった。むしろ、悲痛な表情だった。間違いない。アニーは私に縛られたいのだ。

あぁ、なんという至福。私の選択は彼女のためにも最良だった。


後は例えば──人間と魔物の争う国。


勇者一行と魔王配下が殺し合う……その中で欠かせない、聖女という肩書きの、強い女性。

もし、アニーが聖女だとして……相対する魔王や、対になる勇者という存在を知れたのは収穫だった。この国にも、そんな邪魔な存在がいるのだろうか? ならばその種が芽吹く前に。

……いや、むしろ私がその对になれば良いのだ。アニーと常に共にいる者は、私をおいていないのだから。


そしてさらに──。


魔王は、勇者は、転生というものを稀に行う。

魂という概念は興味深いものだった。もしこの身を喪っても、次の世でも出会えるのなら。

過去は変えられない。しかし、未来はまだわからない。未来のアニーが、他の男を愛したら……私のことを忘れ去ったら……考えただけで殺意が湧いた。アニーは誰にも渡さない。未来永劫、私のものだ。アニーが例え忘れたって、私は絶対忘れない。探し出して、またこの手の上に捕まえる。

……いや、もしかしたら……違う、確実に。そうだ、私達は遠い昔にも恋人だった。何百年経って、何度産まれ変わったか知らないが……きっと、そうだ。

だからこそ、一粒の涙があんなにも鮮烈に胸を打った。一瞬でキミと、恋に落ちた。


あぁ、アニー。愛してる。

これこそ、運命。

私達は結ばれている。


心配しなくても大丈夫だよ。

聖女となったキミを、恐ろしい外の世界に旅立たせるような愚かな真似は決して、しない。キミの望まない自由なぞ、奪ってあげる。

愛するアニー。

キミの自由は、私の手のひらの上。危なくないよう守ってあげよう。上手に幻石を手に入れたキミのおかげで、手の届かない場所なんて、なくなった。

キミが祈れば祈るほど……二つに手折った羽は、片割れを求めて輝くだろう。キミの首元で輝く半分と、私の胸元にしまった残りの半分。

幻石イシは、あっという間、魂に深く根付いて輝くはずだ。繰り返す輪廻の果てまで──。


私の願いはアニーと共に有り続けること。キミの欠片を、すべてこの手に受けるために。誰にも、塵一つ、渡さない。

私の大切な、誰にも分け与えたことのなかった欠片……愛らしく怯えるキミの姿を衆目に晒した愚物王子への憎しみは……そのまま、キミを守る力に変えて見せよう。

愛しいアニーの幸せが、私の祈り。キミの幸せはいつだって私と共にあると、知っているから。


そしてアニー。キミの願いは……私と永遠に有り続けること。

嫌われたくない、と……嫌うことなど皆無なのに……健気に願うキミを、私はちゃんと知っている。私こそが、キミの理解者。キミの、つがい


なんて愛しい、私のアニー。


だからね、アニー。

二人で、世界一の愛を紡いでいこう。

キミが、私以外を厭ってくれる幸せを、もっともっと深めて行こう。

屋敷の奥深くで、私だけを待つ、愛しいアニー。私だけのアニー。


天はいつだって私の味方だ。

キミが掌中に落ちて来た時も。キミが世界を拒絶した時も。キミが、私に依存し始めている今この時も。

あぁ、なんて甘美なのだろう。アニーが、私に全てを委ねてくれる──。


……そう。全てを、だ。


アニー、ねぇ、アニー。大好きだよ。

怖がりのキミ。でも、安心してイイんだよ。だって。


間もなく、キミの世界には私一人しかいなくなる。未来永劫──。



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