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3 引きこもり令嬢はお義兄様と散策する

「すご……い……」


思わず口をついた。

目の前に広がるのは、イイ感じに朽ちた遺跡。廃墟というほど陰鬱とした雰囲気ではなく、歴史を感じさせる程度には風化している。ローマのコロッセオなんかを見た時のような、圧を感じた。


「でも……そんなに、古くないはず……なのに……?」


「建国時の建物だから、約400年前かな。こんなものだと思うよ?」


管理状況もあるのだろうが、前世で考えれば四百年前は江戸時代初期。もっと古い建造物だって多々見てきた日本人の感覚としては、有り得ない崩落っぷりだ。しかし、どうやらこの世界では違うらしい。


「でも……屋根が全部……。壁だって……」


「あぁ、そうか。アニーはまだ魔力が開花してないから知らなかったんだね?」


「魔力……?」


「そう。うちを思い出してご覧。あちこちに魔術具があるでしょ? 建物の中には、魔術具を動かすための魔術とか、室内を快適に保つための魔術とか、たくさんの魔術がかかってるんだ。建物の管理者が代替わりする時に魔力を注ぎ直してその魔術を維持するんだけど……」


そういえば、お義兄様お手製の通信用木板も屋敷の特性を利用していると言っていた。


「今現在も学院の校舎として使っている部分や鐘楼以外は、魔術の更新を施していないんだよ。魔力量で学院長が決まるわけではないからね」


魔術の更新をされない建物は風化するのみ……ということらしい。思っていた以上に、魔力は大事なもののようだ。


外に出よう──。

そう決めてから、実際に外出するのは今日が初めてだ。本当は、それこそ、誰もわたしを知らない遠方に逃げてしまおうかと何度も思った。

攻略対象全員と出会わなければストーリーが始まることはないかもしれない、療養という名目をつければ義両親は許してくれるだろう……なんて。でも、踏みとどまった。

だって、ワガママ王子が黙っているわけがない。神託の聖女だと思い込んでいる彼は、わたしが逃げたらきっと、お義父様を呼び出してキツくあたる。下手したら理不尽な処罰までするだろう。優しいお義父様は、養女わたしのためなら甘んじてその境遇を受け入れることが容易に想像できるから、逃げる道は絶対に選べなかった。


それに……攻略対象全員と出会わないことで逆に、限定的にストーリーが始まってはかなわない。既に面識のあるお義兄様と王子限定で展開し始めたりしたら……。ないとは思うものの、万が一……けいが一にもそんなリスクがあるのなら、絶っっっっっ対に避けたかった。


「アニーも魔力が開花したら、建物の魔力を感じ取れるようになるはずだよ。それから、この場所の無防備さもね」


魔力が開花する……それはつまり、「魔術を使えるようになる」ということだ。この世界では第二次性徴の一つで、目出度いことだとされている。正直、初潮みたいで嫌だな……、と思ったことは胸の内だけに秘めておく。

ちなみに、魔力が開花すると身内全員で盛大に祝い、初潮が来ると身近な女性のみで祝う。


お義兄様の魔力が開花した時のことは覚えてる。華やかなパーティで、少し誇らしげなお義兄様が、わたしもとっても誇らしかった。四歳上のお義兄様は、魔力の開花が早かったから、あの頃、わたしはまだ、毎日、能天気に笑ってたっけ……。


「まぁ、私としては、アニーにはまだまだ幼い義妹いもうとでいて欲しい気持ちもあるんだけれど。聖属性が開花したりしたら、王子アイツが喜びそうだし……。アニーはとっても可愛いから、聖女に選ばれても不思議じゃないのはわかるんだけど……うーん……複雑なあに心ってヤツかな……」


わたしがぼんやりと辺りを眺めていたせいだろうか。お義兄様が歯切れの悪い様子でなんだかフォローしてくれている。「魔力の開花の遅い妹に微妙な話題を振っちゃったな、気にしてるだろうにどうしよう」って気遣いだよね? ……すみません、ちょっと回想に耽ってただけで、まったく凹んだりはしてないです。


「あの、お義兄様……わたしは気にしていませんので……」


「アニー……神が何と言ったか知らないけれど、キミはずっと昔から私にとっての聖女だよ。後から出しゃばって来た神や王子にあれこれ言われるまでもない。もし聖属性が開花しなくてもそれは変わらないし、聖属性が開花したとしてもアニーは私の大切なアニーだ。神殿や王族なんかに勝手はさせない」


「ぇ……」


……何これ、めっちゃ恥ずかしい。なんでこんな歯の浮くようなセリフを真顔で言えるかな、お義兄様。

もしやこの世界、乙女ゲームワールドだけあって、イケメン度が高いと言葉のイケメン度まで高くなるものなのだろうか。


「……あの……」


なんと返答したものやら困る。

わたしの中の小さなアニーは「うふふっ、お義兄様大好きっ」て笑ってる。でも、ねぇ? もはや幼くもないわたしが、お世辞を真に受けるとか……赤っ恥もイイところだ。


「私達はいつだって、アニーに幸せになって欲しいって思ってるよ。…………さて、この遺跡にはアニーを喜ばせるだけのものがあるかな?」


わたしが困りきっていることも、きっとお義兄様にはわかっているのだろう。ふと話題を変えると、紳士的なエスコートで遺跡の奥へと足を進める。

正直……困るとわかってるんだから、イイ加減わたしなんかを持ち上げるの、止めて欲しい。からかって楽しむような悪趣味なヒトじゃないと知っていて尚、疑わしい気分になる。


「まずはやっぱり、私一押しの庭園に行ってみようか。途中の風景もなかなかだよ」


迷いのない足取りで進むお義兄様は、何度かここに来たことがあるらしい。立ち入り禁止区画というわけではないものの、常に崩壊の危険性があるこの遺跡区画には、滅多に人が入らない。特に今みたいな早朝は尚更だ。


「お、義兄様は……ど、して……」


どうして何度もここに来ていたのか。庭園があるのは奥まった人気ひとけのない場所だと言う。ならば、どうして……。

訊きたいことはいろいろある。けれど、歩き出してみればすぐ、わたしはそれだけで手一杯になってしまった。

体力がない、圧倒的に。

お義兄様に問いかけようと口を開いても息切れしてうまく喋れないし、頑張って喋ろうとすると足元が疎かになってヨロけてしまう。


「あの……ごめ、なさ……」


ゼェハァと貴族の令嬢らしからぬ荒い息をつきながら、しっかりと手を引いてくれるお義兄様を見る。わたしが転びかける度に、エスコートの仕方が悪いとばかりにお義兄様が申し訳なさそうな顔をするのが、何気にグッサリ胸に刺さった。またしてもわたしが不甲斐ないばかりに……。


「大丈夫。こうしてアニーと歩けて嬉しいんだ。私こそ、上手くエスコートできなくてごめんね。もう少しなんだけど……アニーさえ良ければ、抱っこ、しようか?」


「歩き、ます……っ」


こんな必死の形相で歩かれれば、優しい義兄が気にしないはずがない。そうわかっているのに、体力と筋力はままならない。朝の涼やかな空気はかなり歩きやすいはずだが、長年のアレコレが祟って足がもつれかかっていた。

でも外で抱っことか、恥ずかし過ぎる。断固拒否。誰もいないとか、関係ない。


「じゃあ、せめてもっと私の腕に寄りかかって?」


さり気ない仕草でわたしの手と自身の腕を絡めたお義兄様が、「これでよりしっかりエスコート」できる、と優しく微笑む。我ながらリハビリ真っ只中の要介護状態にガッツリ凹むが、見栄を張れる余裕はない。一瞬の躊躇いのあと、ありがたく、全力で凭れかからせていただいた。

お義兄様に触れる微妙な気まずさを忘れたわけではないけれど、抱っこより遥かにマシだし、体力瀕死で頭がいまいち回らない。むしろ今こそ治癒の魔術が必要なのではなかろうか。


「あの一角が三年前だったかなぁ……崩れてしまって。だから、この先は人が入らないんだ。こっちから……ちょっと遠回りで道が悪いんだけど、それだけの価値がある場所だと思うよ」


踏みしめる足元は、細かな砂塵やツタに覆われていた。崩落した遺跡の破片や、長い年月で好き放題育った雑草だという。

確かに歩きにくいが、雰囲気は素晴らしい。目的地がどれほどかわからないが、既に十分、古代ロマンを感じさせる風景だった。


「わたし……ここも、好き、です……」


小休止のために立ち止まった辺りを見回す。


元々は、白い荘厳な建物だったのだろう。外壁や支柱が、そこかしこに無造作に残る廃墟。

風化した歴史が、どうしようもなく心をくすぐる。刻まれた、もはやよくわからないレリーフが……色鮮やかなモチーフの残骸が……在りし日の片鱗がまざまざと残るからこそ、想像力が掻き立てられた。


「すごい……」


最先端、じゃなければ、歴史あるものを。それは、前世の母が物を選ぶ基準にするモノサシの一つだった。瑠璃るりに刷り込まれた物事の一つでもある。

トップモデルの母が身に纏うのは流行最先端の衣装だったし、最新鋭のデジタル機器に囲まれていた。型落ち即無価値。なのに、宝石や絵画なんかの装飾品は、歴史や由来のある骨董品を愛用する。

瑠璃は最先端のファッションに興味は一切なかったが、古い物には不思議と惹かれた。長年価値を持ち続ける美術品から始まり、過去の人達の暮らしが感じられる実用品、嗜好品。なんともユニークなものばかりだ。人間というものの紡いできた歴史そのものにも興味があった。現代とは違う思想や価値観……そして逆に普遍な物。人間が嫌いだからこそ、とても気になる。


なぜ今、自分がこうして無為に生かされているのか、その理由が歴史の中に埋まっている気がする。


この遺跡はそんなことを考えさせ、思い出させる、奇妙な場所だ。


「アニー、あまり壁際に行くと危ないよ。私のそばを離れないで?」


「あ……ごめんなさい……」


しんしんと降り積もる時間に圧倒されて、思わずその一端に触れようとしたわたしは、予期せず力強い義兄の腕に捕まった。

ドキリとしたのも一瞬、戸惑ったようなその表情かおに、もしや、歴史的建造物だし常識的に「Don’t Touch」だったかと青ざめる。大失態だ。

慌ててお義兄様の隣に戻れば、


「この辺は特に崩れやすいからね」


純粋に心配させてしまったらしい。

ホント、いろんな意味で申し訳ない。大人しくしてます、はい。


「そろそろ着くよ」


そこからさらに2回の休憩を挟み、


「わ……ぁ……っ」


ようやく辿り着いた目的地。

目の前には、苔むした幽玄な庭園が広がっていた。


元は庭木として植えられ、整えられていたのだろう樹木が、そこかしこで大きく成長している。しかし、鬱蒼と言うには明るい庭園。サラサラと優しい葉擦れの音と、楽しげな小鳥の声が耳を撫でた。

柔らかな木漏れ日の差し込む小路こみちはフカフカと苔むし、かつての石畳の姿をほんのわずか、覗かせている。その周りには無造作に咲き誇る数多の花。


「……ぇ? 三色のムルキ……?」


その花の一つに目を止めて、目を疑った。

野薔薇に似たムルキは庭木に適した低木で、こんもりとたくさんの小花を咲かせる。純白のムルキの花は、春から夏の間と長く目を楽しませてくれるため、庭園の小路脇に植える植物としては定番だった。

幼いアニーはよく、庭を駆け回ってはその細かな棘に髪の毛を引っかけたものだ。


花弁はなびらが……」


けれど、目の前のムルキは違う。品種のせいだろうか。知っているのに、知らない、ゴージャスな雰囲気の花。

純白の花弁、それはイイ。しかし、真紅の花弁、山吹の花弁も散在していた。しかも、一輪の中で花弁ごとに色を変えて、だ。


「珍しいよね。もし原種がコレなんだとしたら、ちょっともったいない気もするかな。……たまたまこの場所が特殊なのかもしれないけどね。……ね、ここならどんな不思議でも起こりそうな気がしない?」


目を見開いたまま、お義兄様の言葉にコクリと頷く。


神秘的──まさに、そんな場所だと思った。

瓦礫を乗り越えた先に、こんな所があったなんて……。体力の限界に挑戦した甲斐は十分にある。


辺りに見入りながら小路こみちを進む。

絨毯のような苔が足音と足跡を綺麗に消すせいだろうか。ここに居るのに居ないような……現実味のない、夢見心地に引きずり込まれた。

重ねたお義兄様の手の温もりだけが、確かなもの。そんな錯覚に陥る。


「アニー、ここからはそっと歩こう。この先に小さな泉があるんだ」


昔は四阿だったかもしれない残骸を、大きく回り込んだ先。殊更ゆっくりと忍び歩く。もしかしたら小動物なんかがいるのかもしれない……そう思うと、期待半分で落ち着かなくなる。

幼いアニーは動物が好きだった。王都の屋敷住まいでは実際に触る機会など皆無だから、絵本の世界での話だが。ちなみに瑠璃は動物嫌い。言葉が通じるはずの人間ですら意思疎通は困難なのだ。言葉の通じない動物なんて、恐怖の対象以外の何物でもない。だから今のわたしは……怖い、けど遠目でなら見てみたい、そう思う。


「足元、気をつけて」


大きく張り出した木の根を、注意しながら乗り越えて……


「居た」


「?」


お義兄様のつぶやきに、地面を見ていた視線を上げた。


「っ……!?」


まさか……と、声にならない驚きで口許が動く。

「居た」って…………え? うさぎとかリスとかの、ある意味ありふれた野生動物の話かと思えば……軽く、「居た」って……。

……これ、世紀の大発見レベルの事態だよね!?


キラキラと星屑のような輝きが降る、神秘的な泉。そこだけ、別世界のような──。

その、一際明るい場所。


あれって…………幻? だって……鳥人間……?

……いや、コンテスト的なヤツじゃなく。見間違いでなければ、華奢な少女……少年? のバストラインから下が羽毛に覆われている。腰まで長く伸びた髪もふわふわとした冠毛のようで……。


「鳥の幻獣だよ」


極限まで潜めた声で、お義兄様が教えてくれた。

純白の優美な姿、言われてみれば『鶴の恩返し』とか『白鳥の湖』なんかを想像させる。白くて大きな、ゆったりとした鳥から誕生した幻獣なのだろう。


幻獣は、信仰心から生まれると言われている。長い歳月をかけて人々が大切に敬った気持ちが集まり、やがて神格を得て幻獣になる──そう神殿の教義に記されていた。

多神教である国教は、瑠璃の記憶に照らしてみれば、八百万というよりは百鬼夜行に近い。付喪神や猫又を信仰対象にしているようなものだと思う。


ボー、ピチュリ


楽しそうに水浴びしながら、幻獣が鳴いた。低く深い音と高く明るい音色の混じる不思議な声だ。

パチャパチャと水飛沫を飛ばす細い手には羽がないのに、爪だけが猛禽類のように長く鋭い。それは、朝の清涼な木漏れ日の中、幻想的で魅惑的な光景だった。


「アニー……」


もう少しよく見たい、そう無意識に思ったのかもしれない。押さえるように軽く腕を引かれただけなのに、たたらを踏んだ。


ピ────ッ


「あ……」


下草の擦れる音に、幻獣が甲高い鳴き声を立て、一瞬で空へと舞い上がる。

大きな羽音に驚いて見上げれば、つい今しがたまで水を弾いていた両腕が翼の形に変わっていた。白い大きな翼を力強く羽ばたかせ、幻獣はあっという間に空のどこかへと消えてしまう。


「驚かせちゃったかな。でも、幻獣に会えたなんて、アニーは運がいいね」


居るとイイなとは思ったけど、本当に居るとは思わなかったよ。

そう微笑む義兄あにの顔には、幻獣を驚かせてしまった義妹いもうとに対する批判はない。内心、ホッと胸を撫で下ろす。


「……? ……お義兄様、あれ……」


僅かに残る陶然とした想いに、泉を見つめたわたしは、ふと、水面でキラキラと光る何かを見つけて、目をしばたいた。じっと見ても、よくわからない。けれど、何かがあるのは確かだった。


「あ、もしかして」


泉の淵にしゃがんだお義兄様が指先に魔力を集め、水面に手を差し伸べた。静かに波紋が広がり、


「やっぱりだ……!」


喜色満面、立ち上がる。


「アニーは本当に運がイイね」


ニコニコといつでも優しいお義兄様だけれど、こういう表情かおをすると一気に華やぐ。思わず、「知的穏やか系アイドル俳優で需要伸びそう」とか考えてしまう自分が嫌だ。攻略対象なんだから見た目が良くて当然……とか考える自分も。


「幻獣の贈物だよ」


戻ってきたお義兄様がそっと、握っていた拳を開く。


「綺麗……」


ほぅ、っとため息が出た。


「贈物を残すこと自体珍しいのに、これ、幻石げんせきじゃないかな」


「幻石……?」


「私も初めて見たけれど、間違いないと思うよ。白い鳥の幻獣なら、普通は白い羽を置いて行くはずだよね? なのにこれは……伝えられている通りに、透明だ」


実際の生き物と違って幻獣は羽や毛を落とさない。稀に残るそれらは幻獣からの祝福であり、贈物なのだとされている。わたしにとっては、「効力の絶大な御守り」という程度の認識でしかないが、重要文化財級の代物なのだそうだ。

ちなみに、贈物の中でも特に貴重なものを幻石げんせきと呼ぶ。幻獣の種類や体色に関わらず透明な輝きを放つそれは、祝福の結晶とも呼ぶべきあらたかな物で、国宝級かつ、御神体級。義兄の手の上で輝くダイヤモンドのような小さな羽は、疑いようもなく正真正銘の希少品だった。


「……神殿に寄贈を……」


「どうして? これはアニーへの贈物だから、アニーが持ってないと」


「え、いえ、お義兄様に、では」


「あの幻獣はアニーの気配に飛び立ったんだよ? アニーだから贈物を残したんだ。それなのにアニーが持たないなんて、不敬だと言われてしまうよ?」


「……そ……う、なのでしょうか……?」


「そうだよ。今はとりあえず私が預かっておくけどね。帰ったらネックレスにでも仕立ててあげるから」


「……あ、りがとう、ございます…………」


「うん」


信心はないが、希少価値に畏れを感じるくらいの心はある。うまく言いくるめられた感はあるが、捨てて帰ることもできない以上、仕方ないのかもしれないと思えた。


「鳥の幻獣は数が少ないから加護の力もまだ詳しく解明されていない。でも確か……精神面に作用するんじゃなかったかな。意欲的になるとか、活動的になるとか……」


それほぼ同じ意味です。上機嫌な義兄に対してそんなツッコミが脳裏を過ぎるが、精神作用があると聞くとちょっと怖い。しかも、


「意欲的で活動的、ですか……?」


自分が根明になるとか有り得ない。……無理。想像つかない。


「確かね? まぁ……前向きになって落ち込んでも長続きしないとか、思考がクリアになって自由に行動したくなるとか、自分なんかって思う回数が減るとか、そのくらいの可能性もあるけど」


お義兄様が挙げてくれる例はどれも些細なものだった。思ったほどのレベルではなさそうでホッとする。

なんというか……根明パリピ改造ではなく、精神汚染防御(弱)くらいの印象。「それならまぁ……」と、受け取れる程度だ。


「ふふっ、どんなデザインにしようか。アニーは何でも似合うから困るよ」


やけに楽しそうなお義兄様は、この場所の雰囲気と相俟ってほんわりと発光しているように見える。目の保養、と素直に感嘆する気持ちになるのは、幻獣の残して行った空気のせいかもしれない。

清々しいのに、柔らかで心地好い温かさ。


「さてアニー、もう少し、散策しようか?」


「はい」


だからわたしは、珍しくもはっきりと、お義兄様の言葉に頷きを返した。



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