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第三十話 燃える夕日


衝撃波が度々ぶつかり、その度に木々が揺れ、鳥たちが騒いで飛び立つ。

夕日がもうすぐ沈む。

森が闇に覆われてしまう。


智太郎……無事に戻ってきて。

胸の前で強く手を握り、祈ることしかできない。

美峰はそんな私の肩に触れる。


「尾白くんはきっと大丈夫……なんて無責任なことしか言えないけど、私も信じてるから」


意識が戻って直ぐに駆けつけてきたのだろう。

美峰は瑠璃色の千早を着たままだった。

美峰も顔色がまだ青く、体調が完全に良くなったとは言えないが、私の事を心配してくれている。


「ありがとう美峰」


その時、衝撃波が突然止まり不気味に静まりかえる。


「決着が着いたのかもしれません」


「総一郎、二人の場所は分かるか? 」


「おまかせを、こちらです!」


私は走り出した綾人と総一郎に、美峰と共に必死についていく。

森を暫く駆け巡ると、ところどころ地面が巨大な爪で抉られたような穴や、木々が衝撃波で大きく曲がっていたり、完全に折れてしまっている。

戦いの凄まじさを感じて、私は手のひらを強く握る。

燃えるように赤い夕日で満ちていた森が、日が落ちていくにつれて赤が弱まっていく。

戦いの終結を告げるように。

そんな中、うずくまる人間と、その頭に銃を突きつける人間のシルエットが見えてくる。

腹を押さえ、うずくまるのは翔。

銃を突きつけているのは……智太郎だった。


「智太郎!」


無事な姿に安堵し、駆け寄る。


「来たか」


振り向いた智太郎の姿にびくり、とする。

よく見ると花緑青の妖力を纏い、白い耳と尾が生えている。

智太郎の亡き母のようだ。

その瞳は赤く、瞳孔はヒトのものではない。

その姿は妖のものだ。

智太郎が完全に妖側になった姿を見るのは初めてだ。

戦闘に私は同行した事がないし、智太郎は妖になった姿を見せるのを嫌うからだ。

だが、翔の呻く声に私は我に返る。


「治してくれるか、千里。このままじゃ血を流しすぎる。翔の処遇は、綾人。お前が決めろ」


「分かった。俺もまだ翔には聞きたいことがある」


綾人と私は頷く。

近くに来た綾人と美峰が翔を横たえる。

私は翔の傍に膝をつく。

爛々と赤く輝いていた瞳は、今は青に戻っている。

翔の顔は血の気が引いて青ざめている。

腹部を押さえた手の隙間から、赤い血が流れている。


「いいの……僕を治したら、また君達を狙うかもしれない」


「許したりなんかしないけど、死なせないから。智太郎を人殺しにはさせない」


私は手を翔の腹部にかざす。

目を閉じると黒い闇が、腹部に留まっているのを感じる。

私の生力を注ぎ込むと、闇は消えていく。

黒い闇が消えたのを確認すると、私は目を開く。

翔の負っていた傷は若葉色の発光が終わったと思うと、癒えていた。

その事に安心し、ほっと息をつく。

だが何故か翔の口角が怪しく上がる。

疑問に思った瞬間、私は治療していた両手を翔に掴まれる!


「やめろ、翔!」


綾人の声が響き、花緑青の妖力を纏った智太郎がこちらに 疾走しているのが見える。

私の鶯色の髪が風で強くはためくのを見て、凄いスピードで逃げる翔に、抱えられているのを理解する。

だが、木の影から総一郎が二連の鎖をこちらに向かって放つ!

翔の左手と、左足に巻き付き疾走が止まる。

その瞬間を狙い、智太郎がこちらに向かって赤い瞳を光らせると、私を抱えあげる翔が呻き声をあげたと同時に体勢が崩れる。


「また複製(コピー)能力か」


そのまま、翔は背を木の幹に預け、智太郎と総一郎に追い詰められる形になる。

後を追う綾人と美峰の姿も見えた。


「ほらね、こうなった。君はお人好しだ」


「まだ諦めてないの? 無駄よ」


私の言葉に翔は肩を震わせて笑う。


「僕は諦めの悪い男だから。生きている限り君を諦めないし、綾人と雨有も殺す」


「そんなことをしても、何にもならないわ」


私は逃れようと、私を抱える翔の手を、両手で掴むがやはり動けない。


「お前はもう負けだ。千里を離せ」


赤い瞳を細め、智太郎が翔に銃を向ける。

追いついた綾人が叫ぶ。

信じたくないというように顔をしかめている。


「どうしてなんだ翔! 俺を殺そうとしているなんて嘘だろ」


暗い声音で翔は答える。


「嘘なわけあるもんか。僕は綾人に会う前からずっと憎かった。君は僕が腹違いの兄であることも知らずに、それどころか青ノ鬼の血をひいていることも知らずにのうのうと暮らしていただろ。苦痛の無い日常で過ごす君に会った時、君の幸せを壊して苦痛の中で殺したいって確信したんだ」


翔の言葉に綾人は、唇を結び俯く。


「生まれ方は選べない。そんな風に翔が思っていた事も分からなかった。だけど、俺は……べつに翔のこと、嫌いじゃなかった」


顔を上げ、綾人は翔に手を差し伸べる。

綾人の青の瞳はまっすぐに翔を見つめる。


「恨まないで欲しいなんて言わない……やり直さないか」


私は、翔の表情を見ようと振り返ろうとするも、僅かに翔 の口元が痙攣したのが見えただけだった。


「いつもの水野くんがいないと、同好会に入ってあげられないじゃない」


美峰が翔に微笑む。

その笑みは、泣きそうなのを無理やり笑おうとしたように口角が震えていた。


翔の腕がぴくり、と動く。

翔の力が弱まり、私は拘束を解かれる。

翔の右手が綾人に応えようとゆっくりと上げられていくところだった。

綾人はそんな翔の様子に安心し笑おうとした……が。

私は背中を押され、数歩進む。

綾人の顔が驚愕に見開かれ、血飛沫が突然私の肩と頬にかかる。

智太郎が何かを叫び、こちらへ駆け出すのがゆっくりに見える。

私のものではない……これは誰の?

私は血飛沫がとんできた方向にぼんやりとした視点を合わせる。

そこには自らの心臓を突き刺した翔がいた。

あの小刀は見覚えがある。

私から翔が奪ったものだ。

血飛沫は翔の胸から流れたもの。


「何をしているんです!」


総一郎が、翔に巻き付く鎖の拘束を解除すると、翔はそのまま崩れ落ちる。


「この馬鹿が!」


完全に地面に叩きつけられる前に、智太郎がその身体を支える。

翔の唇から血が溢れるのを見て、私は我に返る。


「……翔」


綾人が呆然と翔に近づく。


「嘘……水野くん」


美峰がその場にへたり込む。

私は翔と智太郎の元に走り、小刀が突き刺さった翔の心臓へ向けて生力を送ろうと目を閉じる……が。

なぜか生力を送ろうとしても闇は思ったよりも深く、晴れていかない。

私の手が掴まれ目を見開くと、青ざめた顔の翔が首を横に振る。

それで本当に気づいてしまった。

翔は死ぬのだと。


「僕は生き方を変えられない。恨むことを辞めてしまうという事は僕を殺すことなんだ。だから綾人……君のことは受け入れられない」


「死んでしまったら……お前を説得することもできないじゃないか!!」


綾人の青い瞳の目尻が赤く、涙で滲んでいる。

翔はそんな綾人を横目で確認すると、ふっと笑う。

仕方がないと言うように、呆れた笑みだった。

綾人と血が繋がっている証の翔の青い瞳は焦点を失っていく。


「翔は本当に勝手なやつだ……勝手に恨んで勝手に死んで。こっちは文句だってまともに言えていないのに」


綾人は翔の瞼を閉じさせる。

いつしか燃えるように森を赤く染めていた夕日は完全に沈んでいた。

夜が始まる。

唯一光を放っていた智太郎の花緑青の妖力も、智太郎が妖の姿を解くと完全に辺りは闇の中に包まれた。






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