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千里の夢 ✣­­­­ 過去夢の力で妖の血を引く幼なじみを破滅から救う恋物語 ✣ ࿐.˚  作者: 鳥兎子
第八章 翡翠ノ紅孔雀編(ひすいのべにくじゃくへん)
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第百四十二話 計画的復讐

智太郎目線


 『復讐は衝動的では無く、計画的に』。消費者金融のような目標(フレーズ)を掲げた俺達は、『猫屋敷』への道すがら情報交換も兼ねて『猫屋敷』戦の対策を練る事にした。癒刻(ゆこく)の時とは違い対妖戦であるからだ。鬱蒼と生い茂る獣道を往く、『案内役』の紅音は振り返る。

 

「炎陽の能力『魅了』は厄介よ。炎陽より下位の存在を虜にし、従わせてしまう。原初の妖から代を経て、純粋な妖から遠ざかる程に、対妖能力は劣っていく。智太郎の『能力複製(コピー)』や紅音(わたし)の『空隙(くうげき)華歌(はなうた)』がそう。話しを聞く限り、千里という子の『過去夢』もかな。戦闘向きでは無さそうだけど。千里(かのじょ)と同じく、私も対物を兼ねることが有るわ。対空間もいけるけど。対空間のみにあたる綾人の『遠距離透視』や、青ノ鬼の『未来視』は特殊かな。対妖ではなく、未来視は時を具現化した『天鵞絨(ビロード)の大河』を扱うのでしょ」


 俺達の話を纏め、能力を確認した紅音は青ノ鬼に問う。紅音の『空隙(くうげき)華歌(はなうた)』とは攻防どちらも司る能力とのことだ。紅音が隠世の入口に囚われていたのも、恐らくそのせいらしい。害意ある外敵は真っ先に紅音を狙っただろうから。紅音は囚われの身でありながら、『隠世』の死に往く門番だったのである。

 

青ノ鬼(ぼく)の『未来視』は確かに例外だ。能力は基本、原初の妖を頂点にした金字塔(ピラミッド)型の優劣だな。妖の血が濃い方が強者だ。但し、その優劣は崩す事が出来る。動揺や恐怖を相手に与えて心の防波堤を崩せば、原初の妖相手でも下位の妖の能力が効く事がある。逆に下位の妖が恐怖を植え付けられてしまえば、上位の妖の支配は決定的なものになるな」


「じゃあ俺達の中の優劣は……紅音、青ノ鬼(ごせんぞさま)、智太郎、綾人(おれ)の順の金字塔(ピラミッド)型って事? 」


 綾人は不安そうに瞬く。能力の受け手で言えば、金字塔(ピラミッド)型の最下位に近い綾人は能力を掛けられ放題なのだ。

 原初の妖同士の子である紅音。人の器に、人と妖の二つ巴の魂を持つ青ノ鬼。妖の四分の一(クォーター)である俺。代を経て、妖の血の比率さえ定かでは無い綾人の順か。人の血が混ざる事に金字塔(ピラミッド)型の下位へと向かうらしい。


青ノ鬼(ぼく)が紅音に劣るだと!? 鬼であった頃の僕は紅音と同じ、原初の妖同士の子だ! 紅音と僕は同列だろう! 」


 プンプンと、わざとらしく怒りながらも、美峰の姿を存分に駆使して可愛子ぶる青ノ鬼。一体誰得なんだ。


「んー、青ノ鬼(あなた)予測不可能(トリッキー)な存在ね。いざとなれば未来視で相手の行動を予測出来るのでしょう? 」


「運が良ければな。未来が読めたとしても、力量不足じゃ話にならん。本気の妖力で攻められれば、対抗不可能だ」


 首を傾げた紅音に、青ノ鬼は珍しく自信無さげに溜息をつく。恐らく鴉との戦闘を思い出したのかもしれない。友人である青ノ鬼に本気を出せなかったはずの鴉にさえ、負けてしまったのだから。


「えぇ……? でも綾人(おれ)、後天的な半妖である誠と殺り合えたけど。力量ってのは、能力の金字塔(ピラミッド)型優劣とは違うの? 」

 

「一概には言えんが、違うな。能力を持たない者が大半でも、生力由来術式や擬似妖力術式を持つ妖狩人達は、実際妖に勝ってきたのだから。基本は金字塔(ピラミッド)型に準ずるが、妖力や生力の力量は個人差が大きいのだろう」


 綾人に力説した青ノ鬼を一瞥した俺は、対策を見出す。


「力量に対抗するには、多勢。能力に対抗するには、心理的弱点を突く事だな。千里は兎も角……炎陽の心理的弱点なんかあるのかよ」


 臆病、恐怖症、俺への罪悪感など……心理的弱点だらけの千里を思う。原初の妖としては勝ち目が無いが、能力の優劣逆転は狙えるかもしれない。『雪』に負い目のある鴉も可能かもしれないが……炎陽については情報が少なすぎる。


炎陽(あのおとこ)は……誘惑に弱いんじゃない? 快楽の申し子なのだから。『魅了』される前に、誘惑してこちらが手篭めにしてやればいい」


 サラッと美しき紅音は言うが……『誘惑』などした事の無い俺と綾人は困惑し互いを見つめる。女装しても中身は変わらん。()では無い男装した青ノ鬼は口笛を吹きながら、我関せずで葉をプチっと毟り弄ぶ。


「……中々ハードルが高いぞ、それ」


「あんた達にはそうかもね。しかも炎陽は元陰間(かげま)


 振り向いた紅音に、目を点にして首を傾げたのは綾人。


「陰間って……なんデスカ? 」


「歌舞伎の『女形』修行中の、舞台袖の少年役者。又は諦めた者。女装して男色(なんしょく)を売っていた美少年って事」


「ングッ!?……『女形』を検索し(ググッ)ただけの綾人(おれ)じゃ色んな意味で無理です! 」


 顔を真っ赤にして口を押さえる綾人。俺も内心動揺は抑えられないが……初心(ウブ)いな。


「どちらにしても、女装してまで炎陽を騙すつもりなら本気で扱いてあげるわ。母様は元花魁だったの」


 色勝負なら負けないと言うように、立ち止まった紅音は割と豊満な胸を見せつけるように腕を組んだ。思わず目を逸らしてしまった俺も、綾人を笑えない。

 

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